トランプ新大統領の前に立ちはだかる問題
1月20日の正午、トランプ新大統領がアメリカで誕生しました。アメリカ大統領選挙が始まったばかりの頃はまともに扱われていなかった富豪が、第45代アメリカ大統領に選出されたのです。
トランプ新大統領の任期が始まった時代は、アメリカが多くの問題に巻き込まれている時期にあたります。今回の大統領選挙は、アメリカを2つに引き裂きました。その一方が、トランプ新大統領の支持者でした。
トランプ新大統領の支持者は、腐敗、失業、格差への対抗を目的とした、アメリカにおける根本的な変化に目を奪われていました。
一方で、オバマ前大統領の支持者は、トランプ新大統領の問題を呼ぶ公約に懸念を抱いてきました。
トランプ新大統領は、11月の大統領選で当選するために、アメリカの構造的な問題を列挙して来ました。トランプ新大統領は、民主党候補だったクリントン元国務長官に250万票以上の差をつけられました。このため、トランプ新大統領は、就任初日から支持率が低くなっています。とっぴな目標を掲げ、一部、不可能な公約をしたことで、トランプ新大統領は困難な状況に陥ることが予想されます。
共和党内部に生じた亀裂を埋め、統一内閣を結成することは、トランプ新大統領にとって最も大きな国内の課題とみなされます。昨年の大統領選挙で、共和党は崩壊と内部対立の瀬戸際に立ちました。
はじめのうちは、政治的キャリアと共和党幹部の支持がないトランプ氏が、困難な選挙戦に進出することができるとは、まったく想像できませんでした。彼は共和党の大統領候補となるために、一部の幹部や有力者と対決しました。こうして、トランプ氏の問題あるスローガンと攻撃的な性格、選挙資金における独立性により、最終的に共和党幹部は支持者の要求に屈し、トランプ氏を大統領候補と認めたのです。
この亀裂は、トランプ氏が予期せぬ勝利を手にしたにもかかわらず、存続することになりました。トランプ氏の政策に対する、一部の共和党の有力者の立場は、トランプ新大統領が共和党とまったくよい関係を築くことはないということを示しています。同じように、腐敗対策を公約したトランプ新大統領の閣僚人事のバランスの悪さ、特に多くの富豪を閣僚として起用したことにより、トランプ新大統領にとっての問題が生じる可能性があります。
トランプ政権の緊急の優先事項の一つは、アメリカの経済状況に秩序を与えることです。大統領選の苛烈な選挙戦は、経済状況の改善に対する一般の人々の要請を増大しています。トランプ新大統領は、10年間で2500万人の雇用機会を創出する下地を作り出すと公約しています。このような目標の達成には、民間の分野における幅広い投資や政府による適切な雇用状況の活性化が必要となります。
トランプ新大統領は大手企業に対して生産ラインや事務所をアメリカ国内に戻すことを奨励していますが、これはトランプ新大統領が直面している問題のひとつとみなすことができます。トランプ新大統領は、アメリカ国外で製造された輸入品に対して、35%の関税を設定することで、アメリカ国外に工場を移転しようとする資本家に、計画を見直すことを薦めようとしています。
こうした中、グローバル経済に反対する動きも、問題とみなされています。特にアメリカ国外の生産ラインを廃止し、それをアメリカ国内に移転するプロセスは、長期的なもので、莫大な費用がかかり、このためにアメリカの消費者向けの商品の価格が上昇することになります。同様に、大統領時代のトランプ氏の商業活動は、アメリカの国益に反するものでないという監視組織や世論の満足をえることも、トランプ新大統領にとっての悩みの種だと考えられます。
経済的な状況に加えて、トランプ大統領は社会的、文化的な問題にも直面することになるでしょう。これに関する第一の問題とは、アメリカで生活している1100万人以上の不法移民の措置を講じることです。
トランプ大統領は選挙戦の中で、不法移民1100万人すべてをアメリカから追放すると公約しました。トランプ大統領は、メキシコ国境の壁の建設についても言及しており、さらにアメリカにイスラム教徒を入国させないとしています。実際、トランプ大統領は、人種差別的、排外主義的な思想を復活させることで、現状に不満を感じているアメリカ人の票を獲得することができ、大統領に就任したのです。
トランプ大統領が就任した現在、彼の支持者はこれらの公約やスローガンが実現することを期待しています。一方で、不法移民1100万人の国外退去や、イスラム教徒のアメリカ入国禁止は、おおかた実現不可能でしょう。
アメリカの経済は、安価な不法移民の労働力を大いに必要としています。また、国内に家族がいるこういった人々の退去は、アメリカ国内で大きな反発が起こることになります。一方、選挙での公約の無視も、トランプ大統領の支持率を下げることになります。このため、トランプ政権は社会的、文化的問題に関して、政府のできることと人々の要望の間のバランスを取ることになるでしょう。
トランプ大統領は、アメリカと一部の同盟国の関係の先行きがあやしくなっている中で大統領に就任しました。この疑念も、トランプ新大統領の外交政策に関する経験のなさと、選挙戦での彼の無思慮で矛盾した発言によってあらわになりました。
トランプ大統領のNATO・北大西洋条約機構に対するかつてないほどの過激な批判、ロシアに関する友好的な発言は、ヨーロッパにおいて深刻な懸念を生み出しています。ヨーロッパの人々は、NATOに対するアメリカの責務が少なくなり、アメリカとロシアとの関係が改善される中で、ヨーロッパの安全保障は危険にさらされることになると懸念しています。
また、西アジア地域においても、サウジアラビアなどのアラブ諸国のアメリカ同盟国は、共通の懸念を抱いています。トランプ大統領の、アメリカの経済力の再生を目的とした、国内問題を振り返ることの強調と、それと同時のテロ組織ISISに関する繰り返しの批判は、サウジアラビアなどの国々に対する警鐘を鳴らしているのです。
アメリカとその政治的な同盟国の見解の対立は、政治や安全保障に限られたものではありません。アメリカの気候変動に関するパリ協定からの離脱と、NAFTA・北米自由貿易協定の見直しに関するトランプ新大統領の繰り返しの脅迫は、トランプ政権下のアメリカが、同盟国との対応において、ほとんど忍耐を見せることはない、ということを示しています。アメリカ同盟国のアメリカ新政権のアプローチに対する反応により、国際体制はこれまで以上にヒートアップすることになるでしょう。
トランプ新大統領は、在任中に、政治的、経済的な同盟国との問題を抱えることになるだけでなく、より広い形で、敵や競争者、批判者と緊張を含んだ関係を持つことになるでしょう。これらの国の筆頭には中国が挙げられ、トランプ氏は繰り返し中国に対して、商業戦争を開始すると脅迫しています。
トランプ氏やその顧問によれば、中国は、経済的な介入を行うことで、アメリカとの貿易を自国の有利なように操作しているということです。トランプ新大統領は、今期のアメリカ政府は、アメリカの消費市場に対する中国の商業的操作を減少させ、中国に人民元の為替レートを安く抑えないように義務付けるとしています。このような脅迫も、国際的な経済関係にマイナスの影響を及ぼし、アメリカ国内の経済にも影響を与えることになります。
イランとの関係と核合意に関しても、アメリカの新政権は分かれ道に立たされています。この新政権はオバマ政権の路線を受け入れ、核合意を認めるか、あるいはこの国際的合意を破棄して、国際的な孤立化の道を歩むかのいずれかの道をとらなければなりません。
核合意を無視することは、イランとの過去最大の緊張を抱えるほか、ヨーロッパとの関係にも大いに影響が及ぶことになります。一方で、ロシアやプーチン大統領個人に対する友好的な発言をしていますが、トランプ氏が腐敗政治の要因であるとしているアメリカの政治家は、ロシアとの緊張を求めています。こういったグループに相対することは、トランプ新大統領が在任中に直面する大きな問題のひとつです。
明らかなのは、アメリカのような国の政治は、トランプ氏のような政治的なキャリアのまったくない人物が緊張や障害なく自分の道を貫き通せるよりも難しい段階に入っているということです。
2年以内には、アメリカ議会選挙が行われ、これによって下院の全体と上院の3分の1の議員が決まります。トランプ新大統領はおそらく選挙時のスローガンを実現できず、共和党の得票率にマイナスの影響を及ぼすことになるでしょう。
もし、トランプ氏の在任期間、支持者の満足を得ることができない場合、共和党でも議会における過半数を次の選挙で失うことになるでしょう。この場合、クリントン氏よりも多くの票を取れなかったトランプ新大統領は、アメリカ政府と議会が対立するという問題に直面します。この状況は間違いなく、トランプ氏の前に立ちはだかる問題となるでしょう。