3月 15, 2017 22:15 Asia/Tokyo
  • 10世紀から14世紀のイランの布産業

各種の織物は、歴史を通して、常に人間の生活に必要なものでした。布の生産は、イスラム期を含めたあらゆる時代に、イランで特別な発展を遂げました。それぞれの時代の布について研究すると、それが生産された時代の文化、社会、経済の特徴の多くを知ることができます。 今回の番組では、10世紀から14世紀のイランの布産業についてお話しましょう。

サーサーン朝とビザンツ帝国の織物工場が統合され、イスラム初期にそれが完成したことは、非常に重要なことで、イラン各地での織物産業の発展を促しました。織物が栄えた都市にはシューシュタル、レイ、イスファハーン、シューシュがありました。10世紀のイランの有名な地理学者、エスタフリーは、シューシュタルを絹織物の中心地とし、この町は、絹織物によって名声を得たと記しています。

 

同じく10世紀の地理学者、イブン・フーゲルも、シューシュタルを、絹織物の重要な産地として挙げていました。長年に渡り、カアバ神殿を覆う布はシューシュタルで織られていました。イブン・フーゲルは、この他、織物産業が盛んだった都市として、シューシュやイスファハーンの名を挙げています。

 

ブワイフ朝時代の布は、非常に細かく織られ、色やデザインの点で類を見ないものです。これはレイで生産されたものとされています。ブワイフ朝の布の最高の例は、クリーム色の地に、明るい茶色の2つの頭を持った大きなワシが描かれたものです。このワシは、翼を広げて人間を運び、その羽の傍らには、「意志が強い者は、その価値も高い」とクーフィック書体で書かれています。この鳥たちは、糸杉の木のようなものによって互いに分けられており、頭上にも何かが記されています。この布はレイで発見され、イラン国立博物館に保管されています。

 

10世紀から14世紀の布で、イランや世界の博物館に展示されている布は、ブワイフ朝とセルジューク朝、そして恐らく、サーマーン朝時代の紡績産業に限られたものです。これらの遺物は、レイの中世の墓から発見されました。デイラム朝時代、宗教的な内容のあるなしに関わらず、埋葬式に絵の入った布を使用することは禁じられていなかったようです。

 

こうした布の多くにはワシが描かれています。どうやら、当時、ビザンツ帝国から来たアフリカ、スペインのイスラム教徒たちに好まれたデザインだったようです。どうやら、古代ギリシャの神話から引用したものもあったようです。

 

ヨーロッパの教会に残っているイスラム初期の絹織物は、完全に制度化した商業取引が行われていたことを証明するものです。この絹織物は、イランの工房で織られたもので、皇帝への贈り物と共にヨーロッパに送られていました。その後、14世紀になると、ヨーロッパにも絹織物産業が広がるようになりました。この時代には、木製の棺の上に、布が巻かれていました。

 

そうした布のひとつは、10世紀にホラーサーンで織られたもので、赤い色の2枚の布から成り、中央には2頭の象が描かれています。

 

象は、力の象徴であり、前後の足の間には、小さな2つの竜がいます。ハートの形をした縁取りが、2頭の象を分けています。この布は、十字軍戦争が始まった頃、フランスに運ばれたと見られており、現在、パリのルーブル博物館に保管されています。

 

イスファハーン、シューシュ、シューシュタル、ケルマーンで、全身を覆うチャードルや頭髪を覆い隠すルーサリー、シャツや上着のための絹織物が生産されていた他、バムでも、ターバンに使う特別な綿の布が織られていました。R.W.フェリエによる「ペルシャの芸術」という本では、次のように記されています。

 

「ファールス州では、最良のリネン製の布が生産されていた。カーゼルーンという町からは、麻が輸出され、ホラーサーン、ネイシャーブール、マルヴでは、最高品質の綿や布が生産されていた。マルヴは特に、サーサーン麻の絹や黒い色の布の生産において傑出しており、商人は中国と取り引きを行っていた。ブハラは、サーマーン朝時代、絹織物や、薄く柔らかく織った毛織物、綿織物の取り引きのための国際的な市場だった」

 

織物産業は、13世紀にモンゴル族の襲来によってすべてが破壊されるまで続けられていました。この時代の絹織物や毛織物のデザインのひとつであるアラベスク模様は、イスラム初期から現在まで続いている重要なデザインのひとつです。これらのデザインは、一部の研究者の考えに反し、アラブ人やイスラム教徒が生み出したものではなく、イスラム以前にも使用されていました。しかし、イスラム期に、あらゆる芸術作品に使われ、大きな変化が見られたため、アラベスク模様、イスラム模様と呼ばれるようになりました。

 

このデザインは、多くが植物ですが、動物が見られることもあり、人間の周囲の環境をモチーフにしています。恐らく宗教的な背景があり、昔の人々が崇拝していた神聖な植物や動物がデザインされていました。例えば、古代エジプトでは蛇やイチジク、古代イランではザクロが神聖なものとされていたため、アラベスク模様に使用されています。

 

この時代の織物によく見られるのは、アラベスク模様や動物、植物のデザインで、赤や緑が使われています。イギリスのイラン学者が記した、イスラム帝国の歴史的な地理に関する本の中では、「シーラーズの機織り機は、さまざまな種類の柔らかい布を織る。これはガバーと呼ばれる、丈の長い前開きの上着を織るのに適している」とされています。(了)