4月 12, 2017 14:59 Asia/Tokyo
  • 地球の存続を脅かす要素としての生物多様性の危機
    地球の存続を脅かす要素としての生物多様性の危機

前回は、森林における多様な生物の絶滅についてお話しました。専門家の見解では、森林においてのみならず、全てのエコシステムにおいて、動植物に絶滅の危険が迫っています。今回は、この問題について考えることにしましょう。

生物の多様性とは、生物の種、生態、個体の3つの多様性要素から構成される複合概念です。もっとも、この用語は種のレベルにおける知名度の方が高く、より頻繁に活用されています。生物の多様性とは、動植物を含めた全ての存在物から成る複雑なネットワークであり、人間の各人種をはじめ、動植物、微生物、そして単細胞生物をも含みます。これらは、数百万年を掛けて進化したものであり、人類もこのネットワークの重要な構成要素であるとともに、人類の生存も絶対的にこのネットワークにかかっています。

実際、生物の多様性は、地球の存続の根幹を形成しており、そのいずれかが破綻すれば、人間やそのほかの生物の存続の可能性が減少することになります。生物の多様性はまた、自然環境が存続するための重要な要素の1つとされています。

 

研究者らの間では、生物の多様性は様々な種類の生物の機能や能力を高め、彼らの自然環境への適応能力や抵抗力を増強すると考えられています。言い換えれば、これらのあらゆる生物は、大小様々な全てのエコシステムにおいて、ある重要な責務を担っており、全体としてこれらの生物の機能が互いに関係していることから、全てのエコシステムにおける能力や、予想される様々な害悪や弊害に対する抵抗力が高まっているのです。さらに、外部から受けた被害の修復も、この方法により行われます。このため、生物の多様性は特に人間にとって極めて重要です。植物の種の多様性は、人間にとって欠かせない食物生産や酸素の増加を意味し、動物の多様性や種の増加は、自然界のバランスの取れた自然環境が継続することを意味します。

 

残念ながら、この数十年間において人間の活動により、生物の多様性は大きく圧迫されています。動植物の生息地の破壊や土地の分割、生物資源の過剰な消費や利用法の変化により、生物の多様性が修復不可能なほどに破壊され、減少しています。こうした圧迫の結果、多くの種類の動植物が絶滅し、さらに多数の生物が絶滅寸前の状態に追い込まれています。この問題は、現代の世界の自然環境に最も重要な問題の1つを突きつけています。

生物学者の研究調査によると、現在1時間ごとに3つの種類の生物が絶滅していると言われており、この事実は一部の国際機関による調査でも認められています。例えば、2004年に国際自然保護連合が行った調査からは現在、人間が動植物の絶滅の主な原因となっていることにより、生物が絶滅する速度は過去における自然な速度の100倍から1000倍も速まっていることが分かっています。アメリカ・ハーバード大学の比較動物学博物館のエドワード・オズボーン・ウィルソン名誉教授などの、一部の科学者の予測では、今後20年間で生物が絶滅する速度は自然な絶滅の速度の1万倍にも達すると見られています。科学者らは、世界が現在既に第6の大量絶滅期を迎えつつあるとして危惧しているのです。

 

最近、アメリカの学術雑誌に掲載された調査結果も、この事実を指摘しています。この調査は、2万人に上る自然環境学者によりイギリスで実施され、それによると、1974年から2004年までの期間にイギリスだけで各種の蝶の70%、鳥類の54%、植物の28%が絶滅したことが判明しています。このため、科学者らは現在の絶滅のサイクルを人間が絶滅の原因となっている時代と名づけており、恐竜が絶滅した時代を初めとする、5つの大量絶滅の時代とは異なり、現代の状況は人間の活動によるものだとしています。生物の多様性を恒常的に脅かす要素としては、産業活動による汚染、動植物の乱獲、漁業や牧畜、人口の増加などが挙げられます。

科学者らは、生物の多様性にとって重要、かつ現在極めて危険な状態にある10のシステムを特定しました。これらのシステムとは、極地帯のツンドラ、北極、アフリカのサハラ砂漠以北の沿岸にある地中海樹林、魚類、湖沼、沿岸地域、さんご礁、ミョンボと呼ばれるアフリカの乾燥林、海中プランクトン、そして南米アマゾンの熱帯雨林です。

例えば、湖や沼などの生態系システムに農業廃水や動物の排泄物、漂白剤などが入り込んでくることで、赤潮やアオコが急速に発生します。赤潮やアオコの増加により、水中に解けている酸素が分解されてしまい、これは水生植物や魚類にとって危険因子となります。この状況により、現在全世界の海洋の沿岸地帯には酸素も生物も存在しない海域が、1960年代にはわずか49箇所だったのが、現在では400箇所以上も存在します。

 

生物の多様性にとってのもう1つの大きな脅威となるのは、魚介類の乱獲です。カナダ東部のダルハウジー大学生物学部の海洋研究生態学者であるボリスウォーム士による最近の研究から、海洋に生息する生物全体の半数が、乱獲により絶滅したことが分かっています。カニを初めとする一部の海生生物は、かなり前から絶滅しかかっています。この数十年間で、漁業が行われる一部の地域を往来する漁船の数は3倍から5倍に増加しており、現存する海生生物の総数では、もはやこのようなレベルでの海産資源の利用には追いつかないのです。

これまでに発表されている多数の報告から、海産物として取引される魚介類のおよそ29%は、乱獲により個体数が激減しています。研究者らは、現在のペースで海生生物の乱獲が進んだ場合、おそらく2050年までに世界各国の漁業は破綻し、人類により無生物の海洋が生み出されるだろうと考えています

 

生物の多様性を破綻させるもう1つの例は、ある生態系への外来種の侵入であり、これは深刻な被害をもたらす可能性があります。例えば、第2次世界大戦後、アメリカ・グアム島に軍艦を経由してある外来種の蛇が持ち込まれたことから、この島の在来種である鳥類が絶滅してしまいました。それは、この種の蛇が在来種ではなく、グアム島に元から生息していた野鳥は、自分や自分の産んだ卵や雛を外来種から守るために必要な進化を遂げていなかったからです。

こうした例は、近年ではカスピ海でも発生しています。その例として、外来種である水中生物のクシクラゲを挙げることにしましょう。クシクラゲは、人間の活動、特に航行中の船舶のバランスの維持に使用されるバラスト水によって、世界の広範囲の海域に持ち込まれました。この生物は、その驚くべき環境適応能力から大量に個体数を増やし、外部からの侵入者として黒海やカスピ海、北海、バルト海といった一部の海域の自然環境に、大きな被害をもたらしたのです。

カスピ海では、このクシクラゲが侵入してきたときから、ここに生息していた動物プランクトンが75%も減少しました。動物プランクトンは、イワシをはじめ、そのほかの魚の稚魚にとってのエサとなることから、カスピ海ではイワシの数が激減し、絶滅寸前の状態となっています。一方で、イワシはカスピ海に生息するチョウザメやサケなどの重要なえさであるために、これらの魚にも弊害をもたらしています。このように、海における食物連鎖のサイクルも混乱に陥っているのです。

 

各国際機関はこれまで、生物の多様性の危機に関する警告を発してきましたが、これは世界の多くの人々に注目されています。

国際自然保護連合が発表した新たな報告では、ヨーロッパ人のおよそ90%が生物の多様性の危機をヨーロッパにおける深刻な問題と捉えており、この流れを阻止することで、食物や燃料、医薬品を確実に生産できると考えていることが明らかになっています。さらに、ヨーロッパ人の75%が、ヨーロッパ経済の存続のために生物の多様性が維持されるべきだと考えています。この調査の結果からはさらに、ヨーロッパ人から見て自然環境を脅かす最大の要因は人間の活動であるとされていることが分かっています。実際に、生物の多様性や生物の多様性の危機を完全に認識している回答者のうち、90%が水や大気の汚染が節度を越えた農業や森林破壊、魚介類の乱獲といった、抑制されないままの人間の活動や気候の変動が、生物の多様性を危険に陥れていると考えています。また、ヨーロッパ市民全体の半数は、EUが自然環境保護に関してより多くの役割を買って出るべきだとしており、そのための有効な措置として自然保護区を増やすことを指摘しています。

 

人間やそのほかの地球上の生物の存続が、生物の多様性の維持にかかっていることは紛れもない事実です。今や、国際社会が本格的に生物の多様性の危機という問題の解決に向けて真剣に考えなければならず、そうでなければ地球が近いうちに第6の大量絶滅期を迎えてしまう可能性があるのです。