6月 11, 2017 16:50 Asia/Tokyo
  • イランの錠前作り
    イランの錠前作り

今回は、イランの錠前作りについてお話しすることにいたしましょう。

それほど遠くない昔、イランの多くの地域のバザールには、芸術家の作った鋼の錠前が供給されていました。これらの錠前は耐久性があり、強固で、完全に安全である他、優美さも兼ね備えており、多くの人々に注目されていました。これらの錠前は長い間、多く使用されていました。家や店の入り口の扉にこのような錠前が見られ、衣装箱や道具箱などにも美しい錠前がかけられていました。それらは時に複雑な機能をも果たしていました。

イランの錠前作り

 

恐らく最初の錠前は人間が二つの植物が絡み合っている状態からインスピレーションを受けたか、生活の必要性に基づいてそれを発明したかのどちらかででしょう。錠前として使用されていた道具は当初、シンプルな形で、所有物や道具の安全を管理するという主な目的を実現するのみでした。しかし後に、人間の美的感覚と装飾により、これらの錠前は実用的な装飾品として作られるようになりました。

 

次第に所有権が広まり、その維持が必要になったことから、家の扉を閉めることに加えて個人の所有物を守るために、金庫の扉に鍵がかけられるようになりました。この道具は当初シンプルな筒の形をしていました。外の部分には、三角形のばねのようなものが突き出ていましたが、後に扉にかけ、女性の装飾品や動物の手綱を固定するために別の形を取るようになりました。

 

研究者は、紀元前2000年、エジプトやメソポタミアでは、金庫や小麦の倉庫、礼拝所に鍵がかけられていたとしています。イラン中部のカーシャーンにあるスィアルクの丘での考古学的な発掘により、4つの部分から成る手錠が見つかっています。

 

錠前作りはかつて、イランの最も重要な産業の一つで、その形は動物や人間の形をしていました。イランの錠前は、技術的に、固定錠と金属錠の二つがあります。「イランの錠前」という書籍には、錠前は二つのグループに分けられるとあります。錠前はかつて安全のためだけでなく、宗教的にも使用されていました。最も美しい錠前が、宗教の偉人、聖人の聖廟を囲む鉄柵にかけるために作られていました。

イランの錠前作り

 

錠前作りは6世紀から7世紀のサーサーン朝時代にイランで広まりました。動物の形を含む錠前は、10世紀から15世紀のものですが、サファヴィー朝時代に鋼の錠前が出現したことで、錠前作りに大きな変化が生まれました。この芸術はサファヴィー朝時代に世界各地に広まりました。次第に錠前作りの芸術は、金属細工に関するほかの産業と同じように、特別な重要性を有し、イスラムの様々な時代に芸術の一派として発展し、完成されました。次第に錠前は安全性という特徴に加えて象徴的に用いられるようになり、願掛けや希望を実現するための追悼儀式用の飾りとして使用されるようになりました。

 

このため、錠前作りでは他のイランの伝統工芸と同じように、人々の信条と芸術が結びついています。実際、イラン人にとって錠前は道具以上のものであり、何かを閉じたり開いたりといったことを連想させます。その例として、願掛けのための使用があります。

錠前は、イマームザーデやモスクなどその使用場所によって異なった飾りを持っていました。

イランの錠前作り

 

最も大きな錠前の一つに金でできた1280グラムのニクザードの錠前があり、これはイラン北東部マシュハドのイマームレザー聖廟に保管されています。世界最軽量の錠前は2つの部分から成る4.5ミリグラムの錠前で、パリのルーブル美術館に収蔵されています。

 

過去に作られた錠前には、暗証番号、鍵、御守りの3つの種類がありました。暗証番号の錠前は、文字や数字を組み合わせて開閉するものです。また鍵の錠前は鍵で開閉します。

 

御守り用の錠前は、それによって悪意ある目を遠ざけ、一種の安全を確保するものです。これらの錠前は首から下げ、首飾りの御守りのような形で作られています。遠い昔、母たちはこの錠前を赤ん坊の服や帽子、あるいは子供の首にぶら下げ、悪意ある目から免れるために使っていました。これによって自らや子供を妬みの目などから遠ざけたり、あるいはそれらを封じ込めたりすることができると考えられていたのです。またこれらの錠前は悪意ある言葉を封じ込めるためにも使用されていました。このため、錠前の上に護符などと書かれていました。一方で、こうした行為は時と共に廃れ、大衆文化についての書物の中で取り上げられるようなものとなっています。

 

錠前作りには様々な金属細工の道具が使用されています。鋼の錠前を作る際に使用する原料は鉄とその合金です。

鋼は非常に強固な物質で、特別な物理的性質を有しており、1200度で糊状に溶解し、形を整えることができます。鋼は光沢を得やすく、研磨することで、輝きを増します。一方で鋼の錠前に金箔を施すと、その美しさと価値が増します。一つの錠前を作るのに1週間から10日以上を要します。

 

いずれにせよ、錠前作りはイランの美しい芸術の一つであり、その中では金属に模様をつけることで、美しいデザインや装飾が生まれています。現代においてこの芸術の美しさはほとんど見られず、かつてのように使用されていませんが、今も各地では錠前作りに勤しみ、この芸術を継承しようとしている人たちがいます。

 

かつて、イランの錠前製造の主な中心はアーザルバイジャーン、テヘラン、さらにイスファハーンやシャフレコルド、シーラーズといったイラン中部の地域、さらにホラーサーン州などでした。チャハールマハールバフティヤーリー州のチャーレシュタルもイランの錠前作りの重要な中心地で、現在もこの地域には何人かの職人が錠前を作っています。チャーレシュタルの錠前は、職人の熟練した技術により、高温の窯で溶解した鉄を使って作られ、この伝統工芸を今の時代に引き継いでいるのです。

 

 

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