7月 09, 2018 20:20 Asia/Tokyo
  • 貴金属を使った伝統工芸品
    貴金属を使った伝統工芸品

今回は、貴金属について、またこの金属を使った伝統工芸品についてご紹介することにいたしましょう。

これまで数回にわたり、イランの伝統工芸を原材料によって分類し、土、木材、金属から作られているものをご紹介しました。

また金属工芸についてもご紹介してきました。

 

イランという国は、各地で貴金属や鉱物の豊富な備蓄を有しています。これにより、イランでは金属の知識や工芸が広まりました。エジプト、バビロン、インドといった地域もこれに関して発展していましたが、イランには及びませんでした。この中で、貴金属はイランの金属工芸において重要な地位を有しており、一国の富としても、政治関係を変えたり、戦争などでも戦利品の重要な部分とみなされていました。

 

金は遠い昔から、美しい外観、酸化しにくいこと、美しい形になること、希少価値が高いことから注目されて、非常に高い重要性を有しています。金は世界の最も重要な通貨の基準として提示されており、その多くが金貨やインゴットに加工され、世界で備蓄されています。この金属はその美しさや耐久性により、装飾品や伝統工芸品にも多く使用されています。

 

イランにおける金や宝石、貴金属の装飾品の製造は、長い歴史を有しています。イランの金や宝石職人は、イスラムの前後における歴史のさまざまな時代において、特別な技術を有していました。サーサーン朝はイランにおける金の消費が頂点に達した時代でした。歴史家の記述や歴史的資料、考古学的発見によれば、その当時、金や宝石、貴重な天然石の装飾品の製造と取引が盛んに行われていました。サーサーン朝の王たちは高価な装飾品、とくに王冠や王座の製造に注目を寄せており、これは多くの人の驚きを呼び起こすもので、その当時の金の製造の特徴は歴史書に多く書かれています。

 

とはいえ、金は歴史のさまざまな時代において、多くが宮廷で、王たちによって使用されており、一般庶民が所有することはありませんでした。しかしながら金の傍らで、銀といった金属が多く使用されており、装飾品や手工芸の製作に使われていました。銀は貴金属のひとつで、その優れた特性と高い伝導性のために多く利用されています。

金銀線細工

 

金銀線細工は、もっとも繊細な金属工芸のひとつで、イランの最も優れた伝統工芸のひとつです。金銀線細工は、金、銀、銅といった金属を、じっくり時間をかけて特別な正確さと技術によって針金のように細く切り、唐草模様などの伝統的な模様を使用し、つなぎ合わせています。

 

金銀線は、金と銀を複雑に寄り合わせたものを意味します。金銀線細工は、材料の点からも繊細さの点からも、金糸縫取りと類似しています。金銀線細工の歴史は紀元前およそ200年に遡ります。イランの最古の金銀線は、多くの研究者によれば、アケメネス朝時代のものだということです。

 

アメリカ人のイラン学者、アーサー・ポープは、「イラン芸術の傑作」という書籍の中で、イスラム後の金細工や銀細工について触れるとともに、12世紀に属する金銀線作品に言及しています。またその中で、「当時、金銀線細工の多くが溶解され、再利用されていた。このためこの芸術作品はわずかしか残っていない」と述べています。

 

歴史的資料によれば、金銀線細工の手工芸はセルジューク朝時代から繁栄し始め、サファヴィー朝時代にピークに達しました。ザンジャーンやイスファハーンでは、この職人の育成が行われていました。

金銀線細工

テヘランの西にあるザンジャーンの金銀線細工の歴史に関しては、旅行家の記述や旅行記、さらには残された作品を検討することができます。ザンジャーンの金銀線細工の傑作の多くは、この200年に作られたものです。ザンジャーンについての言及がある歴史書の多くでは、この町の産業の中で、何よりも金属産業について語られています。金銀線細工は金属細工のひとつであることから、その推移を地域の金属工芸の中に探ることができます。

 

ザンジャーンの金銀線細工の歴史は、17世紀以降に明らかになっています。イギリス人のフレドリック・リチャーズは、旅行記の中で、このように記しています。「ザンジャーンは小さな町だが、銀や銀線細工が非常に盛んだ」

 

今日ザンジャーンには、およそ30の銀線細工の工房があります。これらの工房の巨匠たちはすべて、マンスール・カーゼミヤーン・モガッダムの弟子となっています。この職人は40年前から、この芸術を維持するために銀線細工の技術を教え始め、多くの職人を育てています。

 

質の点で、イスファハーンの金銀線細工はザンジャーンのそれよりも大きな模様となっています。ザンジャーンのものの方が細かく、美しい模様となっています。金銀線細工で使用される模様は、多くがイランの古い伝統的な模様です。一部では、高価な石が使用され、この伝統工芸の美しさを倍増させています。

 

銀が高価であることは、すべての時代において金銀線細工の需要が少なかった理由です。しかしながら、こうした中、この芸術は美しさや繊細さにより、今日、世界各地で、博物館の装飾や、個人的な芸術コレクション、邸宅などにおいて見ることができます。この種の伝統工芸は、イランを訪れた外国人旅行者に人気が高く、お土産として持ち帰られています。

 

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