サイバー問題に関する今後の展望
現代は、コンピュータ技術やインターネット空間が拡大したことにより、サイバー時代と呼ばれています。サイバーとはギリシャ語のキベルネテス、つまり「舵を取るもの」という単語に由来しています。
サイバーという言葉は1980年代、SF文学の中に現れ、1990年代にインターネットやコンピュータの技術者により、急速に広まりました。この時代、インターネットやデジタル衛星チャンネルが急速に発展し、バーチャル空間やサイバースペースといった用語が、情報通信技術の分野における新たな現象のシンボルとされました。現在、人間の生活は、個人であれ、集団であれ、また国内外の通信においても、国際舞台においても、サイバー空間の中で行われています。
サイバー空間は情報革命の勃発、世界各地の個人や機関へのアクセスの簡易化、リアルタイムでのニュース発信、これまでには見られなかった金融や通商上の取引の簡易化、情報の爆発と世界各地におけるその利用、農業、商業などの産業や社会、文化における著しい発展などを結果としてもたらしました。
サイバー空間によって恩恵がもたらされると共に、私たちは脅威、さらに言えばサイバー攻撃にも直面するようになりました。ハッカーやサイバー戦争の関係者は、ソフトウェアを用いて、軍事組織や経済機関、産業組織などの情報を秘密裏に盗み出したり、軍事システムをハッキングし、こういった団体に損害を与え、場合によっては壊滅に追い込んでいます。
同様に、サイバー攻撃によって、民間の機関やインフラが機能不全となり、送電網や鉄道網、パイプライン、空の便など、運輸のシステムや金融市場に障害が生じます。同様に、ハッカーやランサムウェアを用いた、これまでには見られなかった最近のサイバー攻撃では、ハッカーは世界各地や様々な機関に攻撃を行うことができる、といえます。
マルウェア関連の専門家のアッバース・ホセイニー氏は、サイバー問題をハードウェア、ソフトウェアの分野に分類しています。ホセイニー氏は、ソフトウェアの問題について、次のように語っています。
「今日、サイバー問題は主に、マルウェアの脅威となっている。この種の脅威は非常に低いレベルから始まり、サイバー空間全体において驚くべき形で利用されている」
実際、現在、戦争は新たな側面を見せています。過去においては、陸、海、空における戦争が行われていました。現在は、世界の通信革命により、サイバー戦争が、その重要性を増しています。つまり、現在、サイバー空間における安全保障問題は、日ごとに重要性が増しています。ITの専門家、ハミードレザー・カーヴーシー氏は次のように述べています。
「サイバー防衛の分野においては、3つの原則、つまりサイバー空間の治安、安全、サイバー分野における永続性が提案されている」
サイバー攻撃はこのところ、マルウェアを使用しており、金融、経済的な本質がより強く現れています。ハッカーはその無力化に、いくらかの金銭を要求していました。しかし同時に、サイバー攻撃とされるこのハッキングは、こうした敵対行為が世界的なものであり、その影響力が拡大の一途を辿っている事を示しています。実際、今後においても予想されうるのは、サイバー戦争が、国際紛争において日ごとに重要性を増すことです。
世界の大国、特にアメリカやロシア、中国は常に、自国の機関にサイバー攻撃を行ったとして、自身の競争相手を非難しています。この攻撃は、重要な情報、とりわけ、産業、軍事、政治面や、相手国の機関の腐敗行為に関する情報を入手したり、会話を盗聴するなどの目的で行われています。
こうした中で、このような攻撃による被害は、特定の国にとどまらず、現在、すべての国が多かれ少なかれ、サイバー攻撃の深刻な脅威にさらされています。また、イギリス、イタリア、スペイン、ポルトガル、ロシア、ウクライナ、台湾、ベトナムといった国の機関も、最近のサイバー攻撃で被害を受けています。2017年6月のハッキング攻撃では、世界全体でソフトウェア上での混乱が見られ、また、数千台のコンピューターが使用不能となり、インド・ムンバイやアメリカ・ロサンゼルスの港の活動に混乱をきたしました。この攻撃は国や企業、機関に莫大な損失をもたらしました。
調査団体のジュピター・リサーチによる最近の報告では、2020年までにサイバー攻撃の経済的損失額はおよそ8兆ドルにのぼることが示されています。このような莫大な被害が生じる、最も重要な要素とは、インターネットに直接接続することができ、サイバー攻撃やハッキングの対象となる機器やガジェットが日々普及していることにあります。中小企業は大企業以上に、サイバー攻撃の額を受けています。サイバー攻撃の脅威が日々増しているのにもかかわらず、企業や組織はサイバー攻撃対策に必要な予算を割り当てていません。
サイバー問題のもうひとつの側面は、テロ組織がサイバー空間を利用して、その目的を果たそうとすることです。ユーロポール・欧州刑事警察機構はテロ組織ISISがサイバー空間やソーシャルネットワークを使って、ヨーロッパで勧誘活動を行っていることに警告を発しています。この組織の目的は、はじめに宣伝を行い、自身の立場や行動を正当化することです。しかし、サイバー空間の活動における最も重要な目的は、ヨーロッパでのテロ作戦のためにヨーロッパの若者、ドイツやフランス、イギリスの、特にイスラム教徒の移民の若者を勧誘し、また、彼らにシリアやイラクのテロに加わるよう呼びかけることです。
サイバー空間、特にソーシャルネットワークの利用方法が拡大、複雑化したことで、ISISなどのテロ組織は、支持者やメンバーを通じて、自身の作戦を拡大することが可能になりました。ユーロポールのロブ・ウェインライト長官は、ISISは関係のソーシャルネットワークを有しており、現在、これは広がっているとしました。
また、サイバー問題に関するより新たな側面として、政治目的の推進のための利用が挙げられます。これに関する明らかな例は、2016年のアメリカの大統領選挙で、トランプ氏を当選させるため、ロシアが干渉した疑いがあるという問題です。この中で、アメリカ政府は2016年10月7日、アメリカ民主党の全国委員会とアメリカ政府関係者のコンピュータがサイバー攻撃によりハッキングされ、ウィキリークスを通じて入手した情報を暴露し、選挙におけるクリントン氏の立場を弱めたとして、正式にロシアを非難しました。
アメリカ政府関係者は以前にも、サイバー攻撃を行っているとしてロシアを非難していました。しかし、正式にこの疑惑が提示されたのは、これが初めてのことでした。こうした中、一部のアメリカ政府関係者は、ロシア政府によるこのハッキングへの関与を決定的な形で証明するのは不可能だということを認めています。現在、アメリカとロシアの対立で最も重要なもののひとつは、アメリカの政府高官がロシアによるサイバー攻撃への関与と、アメリカ国内の選挙への干渉を強調していることです。いまだにトランプ大統領は、ロシアが2016年の大統領選挙に干渉したとする問題に苦慮しています。この問題を受けて、ヨーロッパ諸国も、フランスやドイツなどの選挙への干渉について、ロシアに警告を発しています。
ロシアなどのアメリカのライバルとなっている世界の大国や、地域の大国は、かなり前から、サイバーセキュリティを強化し、同時にサイバー攻撃の能力の強化を推進してきました。ロシアなどの国は、インターネットやサイバー空間の自給自足に向けた様々な計画を模索し、ハッカー対策やウイルス対策、情報通信セキュリティなどの計画を実施してきました。ロシアは西側、特にアメリカのハッキングやサイバー攻撃に対処するため、高いレベルのセキュリティをもつインターネットサーバーを構築しました。プーチン大統領も、サイバー攻撃とされるものを軍事、政治分野で利用することを強調し、サイバー攻撃能力を通常兵器の攻撃能力よりも重視しています。
最近、ロシアのインフラに対するサイバー攻撃に向けたアメリカの計画は、サイバー能力の使用に関するアメリカのダブルスタンダードを明らかにしています。アメリカは常に敵に対するサイバー攻撃を行っており、そのもっとも明確な例は、ウイルス・スタックスネットを使用したイランの核施設に対する攻撃で、これは正当なものだとしています。一方で、ライバル国による同様の行動には、耐えることができないのです。
常にほかの国をアメリカに対するサイバー攻撃で非難している、アメリカの政府関係者の主張に反して、アメリカはいつも、ほかの国の国民に対する圧力行使と攻撃のために、サイバー空間を利用している最大の国とみなされています。現在、アメリカが世界レベルのサイバー攻撃のほとんどに関与しているという事実は、明白なものになっています。アメリカNSA・国家安全保障局の元局員、スノーデン氏は次のように語っています。
「世界レベルのサイバー攻撃の裏にはNSAが存在し、この機関はこれまでに74カ国を攻撃対象としてきた」
また、サイバー攻撃は諸刃の剣だということを忘れてはなりません。これはアメリカの敵によっても、効果的に使用ができるのです。
まとめると、大国はサイバー空間で強力なライバルや敵に直面しているということに完全に気づいているというべきでしょう。この新たな舞台の中で、世界の大国は相手国の情報を入手し、また、敵の重要な機関を攻撃するため、サイバー能力の強化に向けた行動をとっています。こういった大国は近年、莫大な予算をサイバー能力の強化に費やしています。特にサイバー能力の強化に向けたアメリカの口実とは、中国、ロシア、北朝鮮やそのほかの国が敵の攻撃や情報入手のためにサイバー空間を利用していることから、このような行動は必要となっている、というものです。NATO・北大西洋条約機構も、サイバー戦争を最新の優先事項にすえています。
これまでの経緯から、今後、近いうちに、サイバー空間は大国の対立の場になり、この中で世界の大国と地域の大国のサイバー能力が飛躍的に向上することが予想されます。