中国と朝鮮半島危機
中国とアメリカの対立は、新たな問題ではありません。
アメリカ政府は中国が強大化し、アメリカの覇権が脅かされるのを懸念しているため、常に、中国にさまざまな圧力をかけようとしています。アメリカは、中国への圧力を行使し、中国にとっての権利、地域、国際上の問題を作り出すため、過去において、台湾問題や人権問題を利用してきました。現在、これらに加えて、中国と日本の東シナ海をめぐる対立、東南アジア諸国の一部との対立が、朝鮮半島危機とともに、反中国に利用されています。
特にアメリカのトランプ大統領の就任後の10ヶ月間、中国政府にとって大きな問題のひとつは朝鮮半島危機となっています。
北朝鮮による連続的なミサイル実験や核実験、そしてアメリカによる中国に対する圧力は中国をコントロールの難しい地域の危機的状況に巻き込んでいます。このため、政界においては、北朝鮮は中国にとって機会なのか、それとも脅威なのかという疑問が提示されています。
北朝鮮問題は、1951年から1953年まで行われていた朝鮮戦争の後、常にアメリカの政策やある種の米中関係の影響を受けていました。中国は1958年まで北朝鮮に軍を駐留し、その後は、アメリカの地域における勢力伸張に対する戦略的介入の手段として、北朝鮮を利用していました。
中国が、まだに正式に、共産主義国として正式に認知されておらず、中華民国が国連加盟国だった時代、北朝鮮は唯一の中国の同盟国でした。その後、冷戦構造が構築され、世界が二極化したあとも、北朝鮮は、中国の最も近い同盟国でした。1960年代、アメリカとソ連によるキューバ危機において、そして1962年に中国とインドの国境紛争が発生した際、北朝鮮は中国を支持しました。ソ連崩壊後、北朝鮮は中国とともに、共産主義体制を維持し、中国も北朝鮮を反アメリカの手段として利用しました。
朝鮮半島危機は、トランプ氏が大統領に就任する前まで、中国にとってアメリカの東アジアにおける勢力伸張に対抗する上での機会だったのです。いずれにせよ、現在もこの状況は続いていますが、北朝鮮のミサイル発射実験と核実験の継続は、中国に対するアメリカの圧力を増しており、また中国も、危機の管理を維持するために、ある程度、北朝鮮に対する圧力を行使せざるをえなくなっています。ロシアの軍事問題の専門家は、次のように語っています。
「中国は、反北朝鮮のアメリカの要求を実現するために行動しているのではなく、朝鮮半島危機を中国の利益となるよう解決するために、北朝鮮をアメリカの手から遠ざけている」
アメリカは強力な軍隊を駐留させ、日本と韓国との同盟関係を維持しようとしており、中国は北朝鮮を利用して、地域のパワーバランスを維持しようとしています。これは、北朝鮮が日本や韓国の安全保障を脅かすことができる中で、中国も複雑で多面的な外交を活用して、2011年以降のアメリカの地域政策に最もよい形で影響を及ぼし、また、中国が利益を得るため、朝鮮半島危機を利用しているということを意味します。
アメリカのオバマ前大統領は、アメリカの地域戦略の中心をアジア、特に東アジアに移すと表明し、アメリカ軍をこの地域に派遣しました。
中国は台湾問題やチベット問題における自国の利益を確保するためにも朝鮮半島危機を利用しています。多くの政治家は、北朝鮮問題を台湾問題と関連付けて考えています。一部の有識者は、台湾問題が中国に有利な形で終結するときまで、つまり台湾が中国に帰属しない限り、中国は北朝鮮の核問題や、ミサイル問題に真剣に対処しないどころか、危機をあおっていくと考えています。
いずれにせよ、中国とアメリカは、経済、貿易の分野で協力国とみなされていますが、地政学な点では、競合国でもあり、圧力行使のためにあらゆる手段を利用しています。アメリカ・ボストン大学のカールリーズ教授は、次のように語っています。
「中国が大国として台頭したことは、アメリカの覇権にとって将来的に大きな脅威となる」
多くの人々は、中国は国連安保理常任理事国としては、ほかの常任理事国ほど政治、安全保障面での影響力を持っていないと考えています。北朝鮮とその周辺のみが、東アジア地域における中国の昔からの影響範囲とみなされています。このため、中国の新聞グローバルタイムズは、アメリカの好戦的な政策の結果について警告を発するとともに、アメリカが北朝鮮の体制を変えるために開戦するのであれば、中国も中立を捨て、アメリカに抵抗することになり、アメリカは中国の危機を脅かすべきではないとしています。政治学を専門とするウィーン大学・東アジア研究所のルーディガー・フランク教授は次のように述べています。
「地政学的な結果とは別に、朝鮮半島でどのような戦争が勃発しても、それは破壊と、多数の死者が出る結果しか生じない」
アメリカの北朝鮮に対する圧力強化と、北朝鮮の核・ミサイル実験の継続を受けて、中国は、状況をコントロールするため、双方に対して、自制を求めています。こうした中で、一部の西側の政治家は、北朝鮮の核・ミサイル実験の継続は、北朝鮮が中国に従わないことによるものだとしています。この疑惑の目的とは、中国と北朝鮮の対立をあおるとともに、北朝鮮に対するあらゆる軍事侵攻の土台を整えることです。アメリカのアジア問題の専門家、ダグラス・ポール氏は次のように語っています。
「中国の北朝鮮に対する影響力は、限定されたものであり、北朝鮮は中国の指示に従うつもりはない。いずれにせよ、北朝鮮は、中国を悪用しているが、中国の指示を受け入れるつもりもない」
中国は、対北朝鮮追加制裁といった欧米諸国のアプローチにより、中国にさらなる圧力が加えられるということをよく知っています。つまり、北朝鮮の貿易の70%は中国を相手にしたものであり、中国は、北朝鮮に食料や燃料を提供し、北朝鮮から石炭を輸入しています。このため、中国は繰り返しアメリカに対して、北朝鮮への好戦的な措置を防ぐため、北朝鮮に対する安保理決議を実施するとしています。
これは、中国政府が、自身の地域の勢力範囲として、アメリカとその地域の同盟国に対する圧力の手段として、どのような状況においても北朝鮮を守るということを意味しています。こうした中国の立場がアメリカの脅迫に対して、北朝鮮を大いに安心させているのです。