3月 14, 2016 20:05 Asia/Tokyo

イラン南東部に位置し、パキスタンやアフガニスタンと国境を接するスィースターン・バルーチェスターン州、ここには、バルーチ人と呼ばれる人々が住んでいます。

彼らはほかのイランの人々の持たない文化を保持しています。また、バルーチ人はパキスタン、アフガニスタンにも居住しており、彼らはイランのバルーチ人と文化的な共通性も有しています。音楽についても、このことが言えます。

この地域で使用される楽器は、イランのほかの地域とは完全に異なっています。この地域では撥で弾く17本の弦を持つラバーブ、またはロバーブ、縦型の弓奏楽器サルーズ、そしてリズム楽器のようにほとんど同じ音をかき鳴らす弦楽器のダンブーラグ、そして大正琴のベンジョーなどが使われています。

スィースターン・バルーチェスターン州は、日本発祥の大正琴が使用されるイランで唯一の地域です。日本で開発された大正琴は、大正時代に名古屋の森田吾郎氏が開発した楽器で、ほかの楽器とのアンサンブルが可能な家庭用の楽器とされてきました。旧来の和楽器に比べて、音の出しやすかった大正琴ですが、日本では数度のブームは起きたものの、まだメジャーな楽器として定着していないのが事実です。しかし、この地域で大正琴はメジャーな楽器のひとつとして、非常にテクニカルなトレモロ奏法を駆使した奏法で演奏されています。なお、インドやパキスタンにおいては、大正琴はカッワーリーと呼ばれるイスラム神秘主義の歌による説教の伴奏の際によく使われています。最近はエレキ化しているものも多く、アンプをつないで大音量を出しています。

中央大学・和光大学講師の村山和之氏の話によりますと、大正琴は日本から渡り、イラク南部のバスラで見つけられたものが現在のパキスタン・カラチに持ち込まれて、試行錯誤の後に改良され、バルーチ人の間に広まりました。1919年に第1号の改良版の大正琴がカラチで開発された際には、インド音楽の楽器であるサロードを意識したものだったため、革張りだったそうです。ここから、イランに渡ってきたものと考えられます。

スィースターン・バルーチェスターン州の音楽は、ローリーと呼ばれる音楽専門の職能集団や、趣味や哲学から音楽の道に入ったアターイーやショウキーといわれる人々によって担われています。彼らはともに共通の演目を持っていますが、その基本となる音楽は、器楽による演奏曲よりも、歌なのです。そして、昔は詩人と演奏を行う人は別だったといわれています。

スィースターン・バルーチェスターンにおいては、地元の英雄の殉教をたたえる歌や、短い詩を歌うリークー、そのほか地元の祈祷儀式グワーティーで使われる音楽などが存在します。