今回は、世界でも珍しい花の１つとされ、ペルシャ語でシャンデリアリリーと呼ばれるレデボウリア属のユリをご紹介してまいりましょう。

イランの国内各地には、大自然の絶景が見られます。そして、それらのいずれも独自の特徴を持ち、人々の目の前にみずみずしい風景をもたらしています。一部の地域では、その独自の気候風土により、特殊な植物が生育しやすい環境が整っており、このことからイランは稀少な植物の宝庫となっています。

前回は、こうした稀少植物の１つである逆さチューリップについてご紹介しました。世界のいずれの地域においても、花を咲かせる植物は非常に注目されており、多くの人々がその開花を待ち望んでいます。これからご紹介するレデボウリア属のユリは、イランにおいて春の終わりに花を咲かせ、ごく短い期間のみその美しい姿を披露します。

この種のユリは、世界でも珍しい花の１つで、繁殖しにくいことから絶滅の危険にさらされています。今夜は、この植物についてご紹介してまいりましょう。

レデボウリア属のユリは、明るい色の花を下向きに咲かせ、花びらが外側に反り返っていることから、おしべが完全に見えます。また、花びらの表面には突き出た紫色の斑点があり、独自の香りを放っています。

この種のユリは、茎が５０センチから１５０センチにまで伸び、通常は茎の最上部から７センチ下までの部分に花が咲きます。

一部の人々の間では、この種のユリがシャンデリアのような美しさを持つ事から、ペルシャ語でシャンデリアリリー呼ばれるようになったとされています。ですが、地元民の間では、このユリが夜になると光を放つ事から、この名がついたとされています。実際に、この百合のおしべには、光を放つ蛍光物質が含まれています。

レデボウリア属のユリは、地質時代区分で見ると、２５８万８０００年から現在までの期間に当たる第４期の植物とされ、遺伝子の面から見て世界の自然界でも珍しい存在とされています。この種のユリは以前はイラン北部のマーザンダラーン州やギーラーン州、北西部アルデビール州という、非常に広い範囲に生息しており、隣国アゼルバイジャンのレンコラン州でも生息が確認されていました。

しかし、現在ではこの植物がもっとも繁茂している地域は、イラン北部ギーラーン州ダーマーシュ地区周辺の、標高１７００メートルから１９００メートルほどの地点にあるブナの樹林という、ごく小さな地区のみに限られています。その個体数は、およそ２０００と推定され、この植物が自生するこの地域は４ヘクタールほどで、この稀少植物の遺伝子が備蓄されている場所といえます。

この稀少植物が自生できる地域は、標高が１７５０メートルから２０００メートルまでとされ、またこの植物に適した平均気温は１０℃、年間の平均降水量が４５０ミリメートルである事が望ましいとされています。ちなみに、現在このユリが自生しているギーラーン州ダーマーシュ地区は、温和な半湿潤気候区に区分され、この植物に加えてスミレや各種のシダ類、タンポポ、クローバーなどが生息しています。

レデボウリア属のユリは、１９７５年にドイツの植物学者カール・フリードリッヒ・フォン・レーデブーアにより、初めて紹介され、この植物学者の名前にちなんでリリウム・レデボウリーという学名がつけられています。そして、その後まもなく、この植物はイラン政府の自然環境高等評議会により、国の天然記念物に指定されました。

この種の植物は繁殖しにくいことから、日増しに絶滅の危険が高まっています。このため、この植物が自生する地域は、ギーラーン州自然環境保護機関により完全に保護管理されており、イランの４大自然環境保護区の１つとなっています。

今日、イランではレデボウリア属のユリが自生する地域は、周囲を壁で囲まれて、ほかの地区とは隔離されており、その立ち入りには国の自然環境保護機関の正式な許可が必要となっています。

これまでに、この稀少植物を保護し、また人工的に繁殖させるために多大な努力がなされてきました。幸い、最近になって、ギーラーン州の町の１つラーヒジャーンにある観葉植物研究ステーションにおいて、こうした努力が実を結び、人工栽培によるこの稀少植物が花を咲かせるようになりました。もっとも、人工栽培によるレデボウリア属のユリの開花は、天然のものより２０日間早いものとなっています。

レデボウリア属のユリの重要性を示すため、この植物の開花時期にあたる毎年６月のはじめにはイラン自然環境保護機関により、花を植える事を目的とした自然の日が設けられており、この植物が自生するギーラーン州ダーマーシュ地区の周辺では、フラワーフェスティバルが開催されています。

このフェスティバルには、地元民が美しい民族衣装を身に着けて参加し、喜びを表しながら特別な式典を解して、この稀少植物の値打ちをすべての人々にアピールします。