ネペタ・ビナルデンシス(イヌハッカ属の多年生薬草、和名なし)ー最終回
イラン北東部にあるビーナールード山には、世界でこの山にしか自生しない植物の1つである、イヌハッカ属の多年生植物、ネペタ・ビナルデンシスが生息しています。最終回の今夜は、この稀少植物をご紹介することにいたしましょう。
イラン北東部には、ネイシャーブールという町の北部からグーチャーンという町の南西部にかけて、およそ130キロにわたり、ビーナールードと呼ばれる山脈が走っています。この山脈を水源とする3本の河川が存在し、またこの地域には比較的水量の少ない複数の河川が流れていることから、この地域は様々な植物が自生するのに適した環境が揃っています。
ビーナールード山脈に自生する植物の中で、最もよく知られているのはダイオウです。また、この山脈の北西部には、ヒノキ科の針葉樹の1つであるビャクシン属の樹木が集中した、帯状の樹林が見られます。さらに、この地域に自生する薬草として、ミカン科の多年草ヘンルーダ、キク科の多年生野菜チコリー、ホリホック、タイム、前回ご紹介したレンゲ属の多年草アストラガルス、エチウムなどが挙げられます。
ネペタ・ビナルデンシスは、イヌハッカ属の多年生薬草で、世界でも非常に珍しく、イラン北東部のビーナールード山脈のみに自生することからこの名がつけられました。イランに生息するイヌハッカ属の1年草や多年草については、これまで67種類が確認されており、その多くはイラン原産とされています。
ネペタ・ビナルデンシスは、枝が多く、表面に小さな細い毛が生えており、丈の長さはおよそ70センチほどです。茎のうち根元に近い部分には、丸くて薄い葉が生えていますが、茎の上のほうには、縁にギザギザのある卵型や三角形の葉がついており、葉柄は短くなっています。この植物には、春の終わりごろに大きな青い花が1つ、または3つの花が隣り合った形で咲きます。
ネペタ・ビナルデンシスは、1984年に初めて、イラン北東部ホラーサーン・ラザヴィー州を走るビーナールード山脈の北側の斜面に位置した、シャンディーズ行政区ゾシュク村の周辺で発見されました。それ以来、この植物はこの州のほかの地域でも生息が確認され、自然環境において大きな役割を果たしています。
ネペタ・ビナルデンシスは、水やミネラル分、太陽エネルギーを吸収し、大気に湿り気を持たせ、空気中の二酸化炭素を酸素に転換することで、大気の浄化を助けています。また、この植物は風雨による土壌の侵食を防ぐ役割をも果たし、野生の草食動物や家畜の食用にもなるほか、その花には多数のミツバチが集まります。
ネペタ・ビナルデンシスの葉は、伝統医学にも利用されるほか、地元民の間では主に消化器系の病気や頭痛、偏頭痛、ストレス、風邪の治療などに使われています。この植物の最も一般的な使用法としては、煎じるほか、蒸留する方法などがあります。また、この植物から得られる成分は、食品産業や衛生用品、化粧品にも利用されています。
ネペタ・ビナルデンシスは現在、生息地域が極めて限られていることや乱獲などにより、絶滅の危機に瀕しています。このため、イラン森林・牧草地・水郷保護機関により、保護を必要とする植物に指定されており、一般市民や自然保護団体に対しては、この稀少植物を違法に採取しないことが求められています。
ネペタ・ビナルデンシスを保護するため、違反者に対しては法的な処遇がなされる一方で、この重要な稀少植物の遺伝子を保管するため、人工栽培に向けた幅広い努力が実施されています。
今日、イランが注目し、支援している政策には、動植物をはじめとする様々な生物の保護があります。これまで、シリーズでお届けしてまいりましたこの番組では、イランの希少生物の一部をご紹介するとともに、その保護に向けて実施されている具体的な措置についてもご説明いたしました。
稀少生物の一部が絶滅に瀕しているという問題は、イランのみならず、世界の多くの国の政府に注目されています。しかし、残念ながら、一部の人々の利己主義により、今なお多くの動植物が絶滅の危機にさらされています。
生物学者による研究の結果、現在世界では1時間に3種類の生物が絶滅していることが明らかにされています。その一方で、学者らの間では、人間の生活が植物の多様性に左右され、生物の多様性の喪失や生物の生息場所の破壊が、全世界の数十億人もの人々の生活を直接、あるいは間接的に脅かすことが証明されています。
このことから、もはやこの種の植物の絶滅は取り返しのつかない結果をもたらすことになり、世界がその絶滅後の回復に努めたとしても無駄であるということに、いまや全世界が気づき始めています。イランの環境保護の責任者も、こうした見解のもとに、神から与えられたこの恩恵を保護する事に努めています。