4月 07, 2018 15:50 Asia/Tokyo
  • ヌマワニ
    ヌマワニ

今回は、ワニ目クロコダイル科に属するイラン最大の爬虫類、ヌマワニの生態についてお話することにいたしましょう。

爬虫類は、自然界のバランスを保つ上で重要な役割を果たしている生物の部類に属しています。イランでは、およそ200種類の爬虫類の生息が確認されており、中でもヌマワニは特に稀少な爬虫類とされています。

 

イランに生息するクロコダイル科の爬虫類は、ヌマワニの1種類のみです。この生物は、イラン南東部スィースターン・バルーチェスターン州に生息し、地元の方言ではガーンドゥと呼ばれています。

 

残念ながら、ヌマワニは世界でも絶滅の危機に瀕しています。このことから、国際自然保護連合はこの稀少動物をその価値や個体数の少なさから、絶滅が危惧される生物に指定しています。

ヌマワニ

 

ヌマワニは、イランに生息する最大級の爬虫類とされ、口の部分は比較的短くて幅広く、上あごには19本、下あごには15本の歯が生えています。後頭部には、鱗が癒着して板状になった、4枚から6枚の鱗板(りんばん)が横一列に並んでおり、首には4枚の鱗板があります。背面は平らで隆条や隆起がなく、4本の短い脚があり、前足には長い爪の生えた5本の指があり、後ろ足には短い爪の生えた4本の指が見られます。

 

ヌマワニの体の色は、一般的にオリーブ色からこげ茶色まであり、腹部は黄白色でうろこがありません。この爬虫類の平均的な大きさは、オスが3メートル、メスは2メートル45センチほととされています。ですが、イランに生息するヌマワニで3メートルに達するものはごく稀です。

 

ヌマワニの体全体の長さのうち、半分は尻尾が占めています。この爬虫類は、力が非常に強く、大型の哺乳動物の骨をも、打撃により打ち砕くことができます。ヌマワニは非常に強いあごを持ち、大型の骨でも簡単に粉砕できます。

 

 

ヌマワニのもう1つの特徴は、胃酸が非常に強く、硬いものを食べても楽に消化できることです。さらに、ヌマワニには上下に動かす事の出来る口蓋帆(こうがいほ)があり、これが閉鎖されることで、口をあけたままの状態でも胃に水が入るのを防ぐ事ができます。

 

ヌマワニの瞳は楕円形となっており、夜の暗闇の中で活動するために都合よくできています。また、瞬膜と呼ばれる第三の瞼があり、これは透明な獏で、水の中で目の表面を覆い、保護する役目を果たしていますが、視界をさえぎることはありません。

 

ヌマワニ

 

ヌマワニは、頭頂部に目がついていることから、体全体が水に潜った状態で、目だけを水面から出して遠くを見ることができます。また、耳や鼻の穴も、瞳と同じような位置にあり、即ち視覚、聴覚、臭覚器官を水面上から出したまま、水に潜る事が出来ます。

 

興味深いことに、ヌマワニは生息地にある水溜りや川岸などに、深いトンネルを掘るという習性を持っています。深さ数メートル、長さが15メートルにも及ぶトンネルを掘ることで、日中の蒸し暑い時間帯を快適に過ごす場所を造るとともに、そこに水を備蓄して蒸発を防ぐのです。ヌマワニのこの活動により、降水量が少なく熱さの厳しい季節においても、水溜りや湿原が維持されることになります。このため、イラン南東部に住むバルーチ族はヌマワニに非常に愛着を抱いており、彼らの間ではヌマワニの生息する場所にはぞこでも、豊かな水源がある、と考えられています。

 

 

ヌマワニは、毎年3月の中旬に交尾し、6月に産卵します。ヌマワニは、十分な湿り気のある場所に深い穴を掘り、およそ20個から35個の卵を産みます。それらの卵のうち、およそ60%は産卵後65日で孵化します。生まれたばかりのヌマワニの子どもは、およそ20センチから25センチほどです。

 

孵化したばかりのヌマワニの子どもは、昆虫やその幼虫、両生類やその幼生、小魚などを捕食します。しかし、彼らのうちで成熟し、5歳から100歳という年齢まで生きられるのは全体の5%から10%に過ぎず、残りは野鳥やキツネ、ジャッカル、野良犬などに捕食されてしまいます。

ヌマワニ

 

ヌマワニは、イラン南東部の住民と仲良く共存しています。イラン南東部の人々は、この稀少動物を聖なる生き物と見なし、ヌマワニに危害を与えないよう配慮しています。彼らは、降水量が少ない干ばつの時期にも、ヌマワニを干上がった水溜りから水の豊かなところに移し、ヌマワニのえさの確保に努めてきました。その結果、人間の住む地域がヌマワニを脅かすことはなく、また現在までにイランではヌマワニが捕獲された事例は報告されていません。

 

しかし、過去20年間における干ばつ、そしてそれに伴う水溜りや湿原の枯渇により、ヌマワニの多くが死亡しています。また、ヌマワニの生存を脅かす自然的な要因として、その生息地が大規模な洪水に襲われたり、成熟したヌマワニがその子どもを捕食してしまうという現象が挙げられます。さらに、農薬や除草剤、漂白剤といった化学物質を含む各種の汚染要素による河川の水質の変化も、ヌマワニの生存を直接、或いは間接的に危険にさらすことになります。

 

このことから、イラン自然保護機関はヌマワニの保護とその繁殖に向けた特別な措置に着手しました。このため、この組織の関係者は、ヌマワニの生息地域の巡回や管理を行い、この稀少動物が繁殖・産卵する地域の保護活動に当たっています。イラン自然保護機関はまた、地元社会に対し、必要な情報の伝達や教育などにより、ヌマワニを本格的に保護しようとしています。