4月 09, 2018 15:17 Asia/Tokyo

中国政府は、中国の輸入品に対するアメリカの追加関税は、同様の対抗措置を招くと警告を発しました。中国の崔天凱駐米大使は、次のように語りました。

「アメリカの関税は中国による同様の報復措置を引き起こすだろう」

中国の崔天凱駐米大使

 

この発言は、中国がアメリカからの輸入品128品目に対して関税を引き上げた後のものです。中国政府は、この決定は、アメリカのトランプ大統領による、中国などの国からの鉄鋼製品やアルミニウム製品への追加関税に対する報復措置だとしました。トランプ大統領は、中国との貿易収支だけで5000億ドルに達する、およそ8000億ドルの貿易赤字の削減のために、このような決定を行いました。一方で、貿易収支を均衡にしようとするアメリカの努力は、世界の経済大国2カ国による貿易戦争の展望を生み出しました。この戦争は、どれほどの規模であり、また、この戦争の最終的な勝者と敗者はだれになるのでしょうか。

アメリカは世界最大の経済大国とされています。この国だけで、世界全体のGDP国内総生産の5分の1を占めています。こうした中、どの国もアメリカほど、大きな貿易赤字に直面していません。

アメリカの人々は、毎年多くの製品を海外から輸入しており、それは輸出額をおよそ8000億ドル上回ります。アメリカ国内のあくなき消費欲、国内の製品の質の低下、外国製品に対する競争力の欠如、貿易分野における誤った管理政策が、この状況の要因となっています。

毎年、アメリカの貿易赤字は増加しています。アメリカは半世紀前まで、世界最大の債権国で、外貨と金の備蓄量も世界最大でした。現在、世界最大の債務国に変わり、アメリカの競合国が、アメリカの主な債権国となっています。

この状況を脱するために、トランプ大統領は、アメリカ経済ナショナリズムの代表者として、そして、「アメリカ・ファースト」のスローガンの旗手として、国際的な経済体制を破壊し、経済的な競合国に対する経済戦争を開始しました。しかし、現在、この方法の成功については、大いに疑問視されています。国家間、国民間の貿易戦争は、昔から行われていました。大変昔から、人間の集団は経済的な利益をめぐり、互いに争っていました。一部の競争は、殺人や戦争といった事態を引き起こしました。歴史家は、第一次世界大戦が勃発した理由とは、イギリスとドイツの2つの帝国の貿易競争だとしており、またアメリカが第二次世界大戦に参入した理由とは、東アジアの大日本帝国との貿易競争だとしています。確かに、第二次世界大戦の後、大国は、IMF国際通貨基金や世界銀行、WTO世界貿易機関の前進となるGATTを結成することで、貿易戦争が軍事的な戦争になるのを防いできました。一方、経済大国は、この中で、それぞれ戦争に突入していました。アメリカと中国の貿易戦争の最近の例は、トランプ大統領の就任以前の、21世紀はじめにさかのぼります。

 

ジョージ・ブッシュ大統領

 

2003年、当時のジョージ・ブッシュ大統領は、現在トランプ大統領が行っている正当化により、中国からの鉄鋼製品やアルミ製品に関税を課し、これがアメリカの国内生産を支援することに期待を抱いていました。しかし、そのおよそ2年後、中国の報復措置による輸入への圧力を受けて、この関税を撤廃しました。両国の関係は、再びWTOの規約に基づいて調整されました。

こうした中、15年の間に、アメリカと中国の貿易問題はより大きなものになっています。アメリカは、輸出製品の価格を下げ、輸入品の流入を防ぐために、通貨である人民元の為替レートを操作しているとして、中国を非難しています。一方、中国はアメリカの莫大な貿易赤字は、アメリカの経済的な利益の減少と、アメリカの国内需要の継続的な拡大によるものだとしています。現在、世界では、第1と第2の経済大国の貿易戦争が勃発しつつあります。アメリカは鉄鋼製品とアルミニウム製品にそれぞれ25%、10%の関税をかけましたが、それ以前にも、アメリカは中国製のソーラーパネルや韓国製の洗濯機に関税を課しています。トランプ大統領は、中国が知的財産権の侵害をやめなければ、600億ドル規模の中国からの輸入品に関税を課すとしました。中国も、これに対して、アメリカ産の果実やナッツ類、ワイン、鉄製のパイプなどに対して15%の関税を課し、豚肉などには25%の関税をかけるとしています。予測によれば、アメリカと中国の貿易総額のうち、30億ドルが、この新たな中国の決定の対象になるということです。確かに1兆ドルに上る両国の貿易総額からすれば、30億ドルはたいした額ではありません。一方で、中国はトランプ大統領の基本的な支持者に対する圧力を行使するために、特定のアメリカの輸入品に関税を課すことを決定しています。トランプ大統領は、繰り返し、アメリカの国家経済を変え、あらたな雇用を生み出そうとしていると表明しています。トランプ大統領は、「アメリカ第一」、「アメリカ製品を買え、アメリカ人を雇用しろ」、といったスローガンを掲げ、大統領就任からの1年で、300万人の雇用を創出したと主張しています。この主張の真偽はともかく、アメリカ国内外の多くの人は、輸入品に対する追加関税措置は、アメリカ経済、特に雇用に損害を与えることになると考えています。

ある見積もりは、鉄鋼製品とアルミ製品の追加関税は、アメリカの鉄鋼産業において少なくとも15万人の雇用機会を促進するとしています。一方、農業やサービス業など、ほかの産業における少なくとも500万人分の雇用機会が、アメリカの貿易相手国による報復措置の影響を受けることになることも予想されています。

外国から輸入された鉄鋼製品やアルミニウム製品の価格が上昇することで、金属産業の労働者など、アメリカ市民の生活費も上昇し、一部の雇用者も、貿易戦争による損害の補填のために、労働者を解雇することになるでしょう。

 

トランプ大統領

 

トランプ大統領は、最初の公約に反して、カナダ、オーストラリア、EUからの鉄鋼製品とアルミ製品を課税の対象外とし、アメリカの主要な貿易相手国との貿易戦争の損害を緩和しようとしました。

これらの国が対象外とされたことは、トランプ大統領を代表とするアメリカの経済ナショナリストの主な標的が、アメリカの最大の貿易相手国である中国だということを示しています。中国は、アメリカに対する鉄鋼製品、アルミ製品の主要な輸出国ではなく、トランプ大統領による追加関税は両国の貿易にそれほど大きな影響を与えませんが、アメリカの鉄鋼・アルミ製品に対する関税は、中国の経済力に対抗する中でのより大きな決定のきっかけになると考えられます。このため、中国も、報復措置の中で、アメリカにこの戦争を続けさせないよう、アメリカからの輸入品128品目を新たに関税の対象としました。特に、アメリカ産の豚肉に25%の関税を課しましたが、この関税は、アメリカの村に住む畜産業者に大きな損害をもたらすことになります。彼らは、2016年のアメリカ大統領選挙で、トランプ氏に投票しました。

中国はアメリカにとって第2の豚肉の輸出国であり、輸出規模30億ドルのうち半分が中国向けとなっています。中国がアメリカ産の豚肉に25%の関税をかけたことで、アメリカの畜産業者は大きな圧力を受けることになり、中国はこの圧力が最終的にトランプ大統領にかかることを希望しています。

この問題は、数ヵ月後にアメリカで中間選挙が行われるという点で重要です。トランプ大統領が属する共和党は、上下両院で過半数を維持するため、保守的な地域の村の人々の票が必要なのです。

こうした中、中国は、2兆ドルの外貨備蓄を保有し、また政府による経済の運営のため、アメリカの報復措置に対して、少なくとも政治面ではアメリカより受ける被害が少なく、より長期的に貿易戦争のマイナスの結果に耐えることができます。

貿易戦争の勝者がアメリカになるか、それとも中国になるかは別としても、明らかに、最大の敗者となるのは現在の国際的な貿易体制でしょう。この体制は自由貿易、関税以外の障害の撤廃、資本の自由な流動性、消費市場などに基づき形成されました。この体制を維持する義務は、世界貿易機関にゆだねられており、この20年間、経済のグローバル化の原動力となってきました。

しかし、アメリカのような大国による保護主義政策、イギリスのEU離脱、中国による報復措置の行使により、自由貿易の時代は終焉を向かえ、世界は貿易戦争に向かうことになります。おそらくこの戦争は100年前のように、軍事的な世界大戦に発展することはないでしょう。しかし、明らかに、世界中の非常に多くの人々の生活を危機に陥れ、現在のもろい経済に対する圧力が倍増することになります。

 

IMF国際通貨基金のラガルド専務理事

 

IMF国際通貨基金のラガルド専務理事は、次のように語っています。

「貿易戦争に勝者はいない。アメリカの追加関税に他の国が対抗措置を講じた場合、大変深刻な結果が世界経済を苦しめることになる」中国の李克強首相も、これと同様の発言を行っています。李首相は、こう語っています。

「中国とアメリカの貿易戦争に勝者はいない」

こうした中で、トランプ大統領が貿易相手国、特に中国との貿易戦争をやめる兆候は、まったく見られません。