イヌワシ
今回は、IUCN・国際自然保護連合により、絶滅の恐れがある動物に指定されているイヌワシをご紹介することにいたしましょう。
イヌワシは、山岳地帯や丘陵地帯に生息しており、押しも押されぬイランの野鳥の王というに相応しい存在となっています。
イヌワシは、タカ目タカ科イヌワシ属に分類されます。この大型の猛禽類は、英語でゴールデンイーグルと呼ばれていますが、それは頭部の後ろの部分や首周りの羽毛が光沢のある黄色をしていることに由来します。体の長さは76センチから96センチとなっていますが、翼を広げると1メートル80センチから2メートル30センチにも及びます。
イヌワシは、大胸筋や翼に大量の脂肪や血液を備蓄できることから、持久力や敏捷性に優れており、速いスピードで空中を飛行することができます。
イヌワシは、平常時には時速50キロで飛びますが、その鋭敏な視力で獲物を見つけたときには、時速160キロにもスピードを上げ、急降下して獲物を捕らえます。また、途中で休むことなく何時間も飛ぶことが出来ますが、そのためにエネルギーを備蓄する必要があります。高速のジェット機は、イヌワシのこうした特色にヒントを得て設計されています。イヌワシのこうした特長は、翼や体のつくり、そして地表で温まった空気が大気圏に上昇する際に生じる暖気流によるものです。
イヌワシは、冬の終わりから春の初めにかけて交尾します。2羽のイヌワシが互いに向かって一直線に突撃する様子は、さながらある種の軍事演習を連想させるものであり、空中で戦い、下に向かって回転しながら落下する様子は、見る者をうならせます。
交尾が終了すると、巣作りが始まります。イヌワシのつがいは、互いに協力し合いながら木の枝を使って高さのある岩に巣をつくり、その中に柔らかい植物をしきます。もっとも、イヌワシのつがいは広い縄張りの範囲内に幾つもの巣を作り、一定期間ごとにそれぞれの巣にとどまります、しかし、産卵期に当たる2月の終わりから5月の初めに葉、その中で最も住み心地のよい巣を選びます。イヌワシは、毎年1回に1つから4つの卵を産むのが普通です。これらの卵は、43日から45日ほどで孵化します。
ヒナが孵化してから数週間は、メスはヒナたちの傍らにいるのみで、オスがエサを運んできてひな鳥に食べさせます。およそ72日から84日後に、ヒナは飛べるようになり、さらに32日から80日後には親鳥とともに狩りに出かけ、獲物の取り方や危険から身を守る方法を学びます。それ以降は、巣立ちして独立した生活を営みます。さらに興味深いことに、イヌワシは一生涯を通じて最初に選んだ配偶者のみと暮らすという、一夫一妻制をとっています。
イヌワシのえさは、主にウサギやリス、イタチや各種のノネズミといった小型の哺乳類ですが、時にはカメやヘビ、トカゲ、さらには子羊や小型のキツネまでをも襲うこともあります。イヌワシのオスは体重がおよそ3キロから5キロで、メスは4キロから5,6キロほどです。イヌワシは、自分と同じくらいの体重の獲物を地面から持ち上げ、高度の高いところにある自分の巣穴まで運ぶことができますが、自分の体重より思い獲物を持ち上げることはできません。
イヌワシは、直接カメの甲羅を割ってその肉を食べることはできませんが、カメを捕食することもあります。即ち、カメを足のカギヅメでつかんで空中へ運び、高いところから岩石に向かってカメを落とすのです。こうすることで、カメの甲羅が割れ、イヌワシは容易にその肉を食べるのです。
イヌワシは、標高の高い場所で暮らし、非常に速いスピードで空高く飛び、高い攻撃力を持つことから、自然界に天敵がいないように思われます。しかし、残念ながらイヌワシの天敵は人間であり、人間は様々な活動によりイヌワシに数多くの危険をもたらしています。これまでにも、イヌワシがDDTなどの農薬で汚染された小型の哺乳動物を捕食したために死亡したケースが数多く報告されています。また、獲物を捕らえる経験の浅いイヌワシのヒナが、獲物を襲った際に電線に引っかかり死亡するケースもあります。
また、山岳地帯を切り開いての道路建設も、イヌワシの生存にとってのもう1つの危険因子です。道路建設により、イヌワシガスを作るための原生林が破壊され、人間がイヌワシの生殖・産卵場所に容易に立ち入ることが可能となり、イヌワシが住処を追われることになります。
こうした問題が原因となり、現在ではイヌワシの個体数が激減しており、イヌワシはイランで絶滅が木々される動物のリストに掲載されています。こうした中、食物連鎖のピラミッドの最上位に位置するイヌワシのような猛禽類の個体数が減少することは、地域のエコシステムに直接影響を及ぼします。このことは、世界でも重視されており、イヌワシは国際自然保護連合のレッドリストにも含まれています。このため、この貴重な猛禽類の生存が保障されるべく、政府系機関や国際機関による、イヌワシとその生息場所の保護に向けての系統だった計画が考案される必要性が生じています。