4月 11, 2018 20:30 Asia/Tokyo

今夜からイラン各地の見所をご紹介する新番組「イランの名所旧跡を訪ねて」をお届けします。

このシリーズでは毎回、イランの観光都市の1つを取り上げ、ラジオ・レポートの形式で、皆様に麗しの国イランの見所をご案内してまいります。

 

ラジオでのイランめぐり、第1回目の今夜は、イラン西部ケルマーンシャー州とケルマーンシャー市からはじめることにいたしましょう。すでに皆様もご存知のとおり、ケルマーンシャー州は昨年11月に大震災に見舞われ、この州の一部が被害を受けました。しかし、皆様には是非、ケルマーンシャー州がイランで最も美しい州の1つであり、またケルマーンシャー市が最も美しく悠久の歴史を誇る町であることを知っていただければと思います。

ケルマーンシャーには、非常に魅力的な名所旧跡や大自然の景勝地が存在しており、誰にとってもイラン西部を是非訪れる十分なきっかけになるものです。さて、皆様はケルマーンシャーと言えば、何を思い出されますでしょうか?米粉でできたパン、岩のアーチの中に掘り込まれた大きなレリーフのターゲ・ボスターン、それとも、世界遺産にもなっている楔形文字とレリーフのビーソトゥーンでしょうか。やはり、ケルマーンシャーと聞いて多くの人々が真っ先に思い浮かべるのは、ビーソトゥーンの碑文のようです。これは、世界最大規模を誇る、岩の表面に刻まれた碑文を含む遺跡群であり、その正面に立ってみると、改めてその壮観さに驚かされます。

 

ビーソトゥーンの碑文

 

ビーソトゥーンの碑文は、ケルマーンシャー州内の唯一のユネスコ遺産であり、大きな岩の表面に数多くの浮き彫りが施されています。ビーソトゥーン山の岩盤の表面には、アケメネス朝のダリウーシュ1世の命により、ゾロアスター教の神アフラ・マズダーから委ねられた王位、即ち神の位置づけという意味の言葉がアッカド語、エラム語、古代ペルシャ語の3つの言語により楔形文字で刻まれています。これらのレリーフや碑文は、当時のダリウーシュ王の権力の偉大さや、王朝時代の華やかさを地域の人々に誇示するものでした。

そして、このビーソトゥーンの遺跡群の中にある、ヘラクレスの像も見逃せません。丹念に彫刻されたこの像は、左手に椀をもち、ゆったりと気持ちよさそうに背後の岩にもたれ、横たわっている男性ヘラクレスです。

 また、この遺跡群のもう1つの見所は、サファヴィー朝のアッバース大王の隊商宿です。もっとも、この隊商宿はこの数年間に改修工事が行われ、現在では設備の整ったラーレ・ビーソトゥーンという名のホテルに様変わりしています。

 

ヘラクレスの像

 

さて、ビーソトゥーンの碑文に続きまして、今度はそこから数キロ離れたケルマーンシャー市内に足を踏み入れてみたいと思います。市内に入ってまず目に付くのが、大きな岩山にくり貫かれたアーチの中に、いくつもの石のレリーフがある、ターゲ・ボスターンの遺跡群です。この石のレリーフには、サーサーン朝ペルシャの王の戴冠式や狩猟の光景、さらには竪琴を奏でている様子が描かれています。

ターゲ・ボスターンは、隣り合わせに並んだ大小2つのアーチの中に、数多くの石の浮き彫りが施されたものです。さらに、この2つのアーチの前には、湧き水により小さな湖ができており、その周辺には森林が繁茂して1つのリゾート地を形成しています。ここはサーサーン朝の王ホスロー・パルヴィーズが当時、狩りを行った場所とされています。

 

2つのアーチの中の石のレリーフ・ターゲボスターン

 

ここで少々、街中を歩いているときに、美味しそうなイラン式の焼肉キャバーブの匂いが漂ってくるところを想像してみてください。ケルマーンシャーでは有名な、胸骨のついたキャバーブが直火であぶられ、ここを訪れる人々のおもてなしのために常に用意されています。また、この地域のもう1つの行楽地は、先にご紹介した石のレリーフ・ターゲボスターンの北方に位置する山の斜面にある自然公園です。

 

 

 

ターゲ・ボスターンの遺跡群の映像

 

ケルマーンシャーには、そのほかにもガージャール朝やパフラヴィー朝といった近代に属する歴史的建造物もあります。その1つは、イランでも最高の美しさを誇るモスクの1つ、シャーフェイー・モスクです。

ケルマーンシャーにあるシャーフェイー・モスク

 

 シャーフェイー・モスクは、トルコのモスクの形式で造られており、高さのあるミナレットが存在することから、この町の景観に美しさを添えています。スンニー派のイスラム教徒の礼拝場所となっているこの美しいモスクの一角は、ケルマーンシャーの市場に通じています。

ここで、現地からIRIB通信記者のレポートです。

 

 

 

「ケルマーンシャーの市場、即ちバザールは、150年以上の歴史を誇ります。ここには、様々な隊商宿や宿場、商店やモスク、ズールハーネと呼ばれるイランの伝統的な体操を行う道場、数多くの公共浴場などがあり、これらは過去から現在までの歴史や繁盛ぶりを物語るとともに、ケルマーンシャーの町の人々の文化や思い出、歴史を再現しています。また、この町の市場は、かつては中東で最も大きいアーケードつきの市場とされており、生産、文化、社会的な活動が見事に組み合わされ、商店街がいくつもあります」

 

ケルマーンシャーのバザールの様子

 

「ケルマーンシャーのバザールにやってきた観光客の目にまず留まるのは、伝統的な建築様式と近代的な建築様式が同時に存在していることです。このバザールには、今なおフェルトの製造職人のような、一部の昔ながらの職人が存在しており、またケルマーンシャーの町で製造された各種の生地や衣類、手工芸品をここで買い求めることができます。このバザールはまさに、米粉でできたパンやナツメヤシの混ざったパン、郷土銘菓、さらにはキリムやジャージームと呼ばれる薄手の絨毯や敷物、ギーヴェと呼ばれる手作りの靴、この町に多く住むクルド人の民族衣装といった、ケルマーンシャーの町のお土産が勢ぞろいしている場所といえます」

 

 

ケルマーンシャーで必ず見ておきたいもう1つの建造物として、モアーヴェノルモルクの宗教施設が挙げられます。これは、モスクのようなもので、その一番の特徴は幾何学的な模様を形成している化粧タイルにあり、ガージャール朝時代から残る最も美しい建物とされています。これは、1903年に建てられ、当初は宗教的な儀式を開催したり、部族間同士の対立を調停するための場所として使われていましたが、後になって立憲革命運動の集まりの場へと変わってゆきました。

この宗教施設の建物に使われている化粧タイルは、100%の天然色素が使われ、凹凸があるという、他にはない珍しいものです。化粧タイルの表面には、異教徒に対する預言者の聖なる戦い、シーア派初代イマーム・アリーが参加した戦争、イラクの聖地カルバラーでの出来事の光景や、アケメネス朝をはじめとする古代イランの歴代の王たち、イラン南部の古都ペルセポリスの情景などの図柄が刻まれています。テキエとも呼ばれるこの宗教施設内にはまた、充実した服飾博物館や民族博物館もあります。

 

世界最大のミニアチュール式テキエ・モアーヴェノルモルクの宗教施設

 

ケルマーンシャー市内で見逃せないもう1つの宗教施設に、ガージャール朝時代の宗教施設とされるビグラルベイギーのテキエがあります。この宗教施設の大きな特徴は、壁や天井に鏡を敷き詰めた内装がなされていることです。また、中庭の中央には池があり、さわやかな雰囲気をかもし出しており、西側にはホセイニーイェという名で知られている、鏡細工の施された大きな広間があります。この広間には、19世紀中盤から20世紀はじめにかけてのモザッファロッディン・シャーの時代のものとされる、いくつもの碑文や装飾が存在します。さらに、このテキエにある書道博物館も、他にはない見所の1つです。

 

ビグラルベイギーの宗教施設内の鏡細工による壮観な空間

 

また、ケルマーンシャーを訪れたからには、ここにある睡蓮沼にもぜひ足を運びたいものです。この沼には、数多くの睡蓮が生息しており、夏になると睡蓮のつぼみと葉が水面に出てきて、一面の美しい光景を生み出します。

地元民の間では、この沼は最も深いところで水深が32メートルにも及ぶと言われています。また、この美しい沼の水の水源は、いくつかの湧き水とされ、しかも透明度が非常に高いことから、この沼の水面下に伸びる睡蓮の茎がよく見えます。さらに、そよ風が水面をなで、水が動くことで、睡蓮の花がさながら舞い踊っているように見えることから、人々の目を楽しませてくれます。

ケルマーンシャーの睡蓮池の映像

 

 イランの文化では、睡蓮は聖なる花とされていることから、他の花々とは違う特別な位置づけにあります。また、平和と心地よさを具現したものとされ、最も美しい睡蓮の花を、ケルマーンシャーにあるこの沼で見る事ができるのです。

 

ケルマーンシャーの睡蓮沼

 

ケルマーンシャーを訪れたなら、美しい沼やビーソトゥーンの碑文、ターゲボスターンの岩のレリーフ、伝統的なバザールや宗教施設、カラフルな民族衣装や郷土銘菓のみならず、優しさあふれる地元民やそのもてなしぶり、忍耐力にも是非注目したいものです。ケルマーンシャーの人々はイラクの旧バース党政権軍という敵の侵略に対し、8年もの間にわたって自らの郷土の威信と面目、栄誉を守るために、自らの命をなげうち、果敢に忍耐強く抵抗しました。彼らの心と体にはなお戦争の影響が残るものの、このことは自らの国家と町の繁栄のために前向きに物事を見つめ、将来に向かって希望を持ち、努力していることを示しているのです。

次回もどうぞ、お楽しみに。