4月 15, 2018 19:04 Asia/Tokyo
  • 雄鶏と狐
    雄鶏と狐

あるところに美しい雄鶏が一羽、畑で暮らしていました。この雄鶏は美しい声の持ち主で、時折、その自慢の声を披露していました。誰もがこの雄鶏の声に聞きほれていました。ただし、一匹のずるがしこい狐を除いて。

あるところに美しい雄鶏が一羽、畑で暮らしていました。この雄鶏は美しい声の持ち主で、時折、その自慢の声を披露していました。誰もがこの雄鶏の声に聞きほれていました。ただし、一匹のずるがしこい狐を除いて。

 

狐はいつも、遠くから雄鶏を観察してその動きを伺っていました。そしていつも、こう思っていました。

「どうにかして姿も声も美しいあの雄鶏を食べてみたいものだ」。

狐は雄鶏を捕まえるために、いくつもの計画を立てました。こうしてとうとう、「これなら絶対に成功するぞ」という計画を思いついたのです。

 

狐は計画を実行するために、ある朝早く、ゆっくりと雄鶏に近づいて行って、こう話しかけました。

「こんにちは。この畑に、懐かしいガリー・ゴルバガリーという名の雄鶏は住んでいませんか?」

雄鶏は答えました。

「さあ、ここにいる雄鶏は私だけです。そんな名前の雄鶏は知りません」。

狐はしめしめと思い言葉を続けました。

「いや、もちろんそれは、ここから離れた畑に住む動物たちが、美しい声の雄鶏につけた名前です。その声に、誰もが魅了されています。私はこの土地のことを良く知りませんし、知り合いもいません。でも、他の動物たちのように、遠くから、その雄鶏の美しい声を聞いたことがあります。もしその雄鶏をご存知でしたら、私に会わせてください。私のために一度でいいから鳴いてくれと頼みたいのです」

 

美しい声の雄鶏は、その辺りには、彼のほかに雄鶏はいないことを知っていました。ですから、この狐のたくみな誉め言葉に有頂天になってしまったのです。そして、その美しい声の雄鶏とは、まさに自分のことなのだと言いかけたとき、狐が言葉をはさみました。

「もちろん、あなたも美しくてよい声の持ち主でしょうとも。いえ、もしかしたら、ゴルバガリーとは、あなたご自身のことでは?もしそうなら、どうでしょう。一度、鳴いてもらえないでしょうか?そうしたら、伝説のゴルバガリーという雄鶏に会えた名誉を信じることができますから」

 

雄鶏はいつものように目を閉じて、最も美しい声で鳴こうとしました。そのときです。狐はこのチャンスを逃すものかと雄鶏に飛びかかり、彼をくわえて駆けだしました。


雄鶏はけたたましい叫び声を上げました。同じ畑に住む犬たちが、それを聞き逃すはずはありません。犬たちは声のする方へと駆け寄ってきました。そして雄鶏をくわえた狐を見つけると、吠え立てながら狐を追いかけました。

 

狐のお世辞にまんまと騙されたことに気づいた雄鶏は、狐に話しかけました。

「もし犬たちから逃げたいのなら、こう言えば良いんですよ。私が下の畑の雄鶏で、あなたはそこに私を連れて行こうとしているだけだって」。

 

狐は、犬たちに今にも彼に追いつかれそうなのを見て、こう叫びました。

「ちょっと待ってくれ。この雄鶏は、あなたたちの畑に住む雄鶏じゃない!」

その瞬間、狐は自分が騙されたことに気がつきました。そう、口を開いたために、雄鶏は自由の身となって、犬たちの方へと走り去ってしまったのです。

 

犬たちは、雄鶏が無事に狐の牙から逃れたことから、狐を許してやりました。狐は、もう犬に追いかけられていないことを知ると、畑の片隅にうずくまり、今起こった出来事について考えてみました。そして思わず大声で叫んでしまいました。

「まったくなんて愚かなことよ。不用意に口を開けてしまうなんて!」

 

この狐の声を聞いた雄鶏は、狐が意図するところを汲み取りました。そして、大きな声で叫び返しました。

「まったく何と愚かなことよ、肝心なときに閉じた目など、見えない方がましだ!」

 

その後、言うべきときではないのに不用意に言葉を口にしたり、軽率なふるまいをして、損をするような人に対して、このことわざが使われるようになりました。

 

「肝心なときに閉じた目など、見えない方がまし」