貧困と自然環境の関係
前回までは、世界の自然環境を脅かしている様々な汚染原因についてお話しました。しかし、環境学者の考えでは、自然環境の破壊の加速には一連の要因があるとされています。そうした要因の1つは、人間社会に存在する貧困です。今夜は、この問題について考えることにしましょう。
地球における最も破壊的な問題の1つは、貧困という現象であり、その影響は人間や自然環境にも顕著に見られます。1970年代以降、この問題に関しては、ほぼ国際的な合意が成立しましたが、自然環境と貧困は切り離せない関係にあります。この問題について、国際環境条約には、次のように述べられています。
「世界の環境問題の主な原因は、貧困である。このため、世界規模での貧困や不平等に潜む要因を含む包括的なアプローチの考慮なしには、環境問題の解決に向けた努力は無意味である」
貧困と自然環境の関係は1974年、スウェーデン・ストックホルムでの国連自然環境会議において初めて取り上げられ、論議を呼びました。当時インドの首相だったインディラ・ガンディー氏は、貧困や発展の遅れをまず環境汚染と関連付けており、彼の報告書には次のように述べられています。
「人口の増加と土地不足は、貧困層に圧力をもたらしている。このため、彼らは都市郊外や村落の環境を利用せざるをえなくなり、このプロセスが天然資源の破壊要因となっている。 もっとも、このこと自体は貧困を生み出すとともに、長期的な生存を危険に陥れることになる」
現状は、このことを明確に裏付けています。今や、世界規模での人口爆発や完全な消費社会の出現により、問題は益々深刻化し、各国の経済を圧迫しています。こうした状況は短期間での自然破壊に追い討ちをかける一方で、経済、社会面での生活の下地の一部を破壊しています。環境破壊やその影響としての貧困の拡大は、先進国のみならず第3世界をも含めた全世界で見られますが、第3世界の方がより深刻化しています。
国連開発計画が2014年に発表した報告によれば、世界における貧困率は低下しているものの、今なお世界の総人口の3分の1に当たる、91カ国の22億人が貧困状態にあり、さらに8億人が貧困に近い状態にあります。こうした貧困者の多くは、世界でも自然破壊に瀕している地域に居住していますが、一部の地域では彼ら自身が環境破壊に大きく関与しています。こうした人々は、手近にある天然資源を無計画に使用するしか生きる方法がありません。このように、貧困と自然破壊の相互関係は、貧困者による「やむなきエコシステムの破壊」とされ、現在、環境破壊を助長しています。
貧しい家庭による樹木の伐採や無計画な放牧、畑作地の過剰な利用、エネルギー利用における不平等、干ばつといった現象に現れている貧困は、貧しい家庭を脅かし、彼らも自分たちにのしかかる圧迫感から、やむなく自然環境を危機に直面させている形になります。貧しい人々は、自分たちが生き延びるために、資源を乱獲するしかありません。例えば、多くの地域では燃料が必要であることから、樹木の伐採を余儀なくされており、このことが土壌の侵食や洪水の引き金となっています。
現在、多種多様なエネルギー資源が取引されているにもかかわらず、貧困国や発展途上国の国民の多くは、暖房や調理に今なお薪を使用しています。このことも、自然破壊の要因の1つとなっています。
例を挙げてみましょう。ネパールでは、消費されるエネルギーの97%が木材により確保されています。さらに、エチオピアやブルキナファソといったアフリカの国々でも、消費エネルギーの90%が木材に依存しています。このため、エネルギーの利用の可能性における不平等から、貧しい人々の多くはエネルギー源を選ぶ権利がなく、結果として自分たちの将来の生活がかかっている基本的な資源を破壊することになるのです。
さらに、いずれの国や社会においても、少数派の人々にとっての不平等が存在します。このため、資源が通常ではない方法で使用され、それがひいては資源の浪費や、自然環境に打撃を与えることにつながります。
自然環境に被害を与えるもう1つの例として、自然環境保護に必要な情報がないことが指摘できます。特に、貧民が多く住む地域や郡部では、必要な知識の欠如から、住民は土壌の正しい耕し方を知らず、これは土壌の疲弊を招きます。また、化学肥料の過剰な使用も、自然環境に更なる弊害をもたらします。一方で、文化・教養レベルが低いことや、自然環境に対するモラルがないことも環境破壊を助長しており、そのような行動の例として、自然環境への廃棄物の違法な投棄や汚水の垂れ流しなどが挙げられます。
もっとも、これまでお話したように、貧困と環境破壊は相互関係にあります。即ち、貧困が環境破壊の原因となると同時に、環境破壊も社会における貧困の出現の引き金となっています。国際的な研究においても、貧しい人々の暮らしに最も過酷な影響を与えるのは、環境破壊と気候の変動であることが認められています。
IPCC・気候変動に関する気候変動パネルが、2014年に発表した報告は、気候変動が貧困者の生活に深刻な影響をもたらすことを示しています。この点から、シリアにおける環境破壊と、それが同国での情勢不安に及ぼす影響は、熟考に値します。
一部のアナリストの見解では、シリアにおける情勢不安と同時に発生した、過去数百年で最大の干ばつに伴う環境問題が、この国の農業関係者や牧畜業者の間の貧困を拡大したとされています。シリアは、2006年から2011年にかけて、過去数世紀でもっとも厳しい干ばつに見舞われました。ある研究所の研究によれば、この期間だけでシリアの農業用地全体の60%以上が破壊されたということです。国連の2011年の予測では、シリアの牧畜業者が自らの飼育する家畜の85%を失ったとされています。さらに、国連は別の報告において、干ばつの影響でシリアの総人口のうち300万人以上が絶対的な貧困状態に陥った、と見積もっています。
自然環境と貧困の相関関係は、新環境の分野で提起されていますが、多くの有識者は自然環境破壊の原因が貧困者にある、との誤った見解を示しています。しかし、自然環境と貧困の相関関係や、貧困が自然環境に影響をもたらすという事実はともかく、貧困者のみを環境破壊の原因と決めつけ、この問題に絡んでいるそのほかの要素を無視することは誤っています。そして、このことは最終的に環境保護と貧困の撲滅に向けた正しい戦略の考案を妨げることになります。
この問題については、人々の間の不平等、行政や政治の誤った構造、誤った運営方法、市場の機能不全、天然資源の利用と管理における地元の社会の役割と参加が注目されないことといった原因を挙げることができます。事実上、貧困は社会、経済、文化的な要因と絡み合った形で自然環境に影響を及ぼすと考えるべきでしょう。ですから、これまでにお話した問題や要因の相関関係、背景に注目しなければ、問題を誤って解釈し、正しくない戦略が打ち出されることになるのです。