西側諸国の女性の就労をめぐる現実
今回は、西側諸国における女性の就労を取り巻く現実についてお話することにしましょう。
世界各国における女性の位置づけに関して注目すべき指標の1つは、様々な職業への女性の進出です。この指標はたいてい、各社会における文化、政治、経済面での違いを考慮することなく、全ての国の女性たちの政治的なアイデンティティを一律に定義しています。時には、西側諸国はイスラム諸国をはじめとする一部の国に圧力を行使するために、女性の就労の問題を利用しています。
女性の自宅外での就労は、そのほかの社会現象と同様に、これまでの様々な時代において変化してきました。女性は古くから主婦業以外にも、農耕や牧畜、手工業、さらには軍隊などで、男性とともに活動してきたのです。
家庭が1つの経済単位と見なされていた時代には、女性の生産的な役割といったものが、家庭内で果たされており、それらは家事の一部と見なされていました。そのため、彼女たちがその賃金を受け取ることはありませんでした。西洋諸国では、産業革命の勃発と同時に、仕事の概念や形態にも根本的な変化が生じ、女性の経済活動の場は、家から工場へと移ったのです。
西洋諸国では、第2次世界大戦により数百万人に上る男性が死亡したことから、労働力が失われ、工場で就労する男性の賃金が上昇しました。このため、ヨーロッパの資本家たちは、よりやすい賃金で男性と同じように就労できる労働力を求めるようになったのです。当時、工場で就労していた女性たちは、男性のわずか3分の1の賃金で、1日12時間という長時間にわたり就労していました。そしてこのことから雇用者側は女性を盛んに雇用するようになりました。
このようにして、西側諸国では女性が就労により賃金を得ることが、彼女たちの自由として解釈されるようになりました。アメリカの歴史家ウィル・デュラントは、『哲学の喜び』という著作において、この問題に触れ、「女性の自由は、産業革命の副産物の1つである」と述べています。
研究者の多くは、女性の就労や経済活動への進出の拡大が、女性の社会参加により彼女たちの地位が高まるためではなく、産業社会の強いニーズにより安価な労働力を必要としていた事によるものである、と考えています。
産業革命の勃発からこれまで、女性たちは様々な経済活動に従事していますが、女性に対する西側社会は、決して男女平等に基づいたものであることはありませんでした。そして、この事は、国際機関の正式な統計や情報においても証明されています。数多くの資料からは、賃金の水準や就労の質という2つの点において、西側諸国の女性たちは男性よりも低く位置づけられていることが明らかになっています。
国連ウィメンは、2015年の時点における西側諸国での女性の就労状況について、次のように述べています。
「今日、女性たちは確かに表面的には様々な職業分野に進出しているが、有益な資料や統計によれば、その内容から見て、彼女たちの多くは副次的な職務についており、高賃金で重要な役職、あるいは安定性や発展性のある職業は男性に独占されている。もっとも、一部の事例では、女性もそうした職務を果たしているが、その数はごくわずかである」
国連ウィメンの統計によれば、アメリカ、カナダ、オーストラリアでの女性の就業率は64%、西ヨーロッパでは62%、中央ヨーロッパと東ヨーロッパではおよそ50%となっています。しかし、これらの女性全体のうちのおよそ63%は低いレベルの職務についているのが現実です。こうした現実は、アメリカなどの一部の国に関して最近発表されている報告でも認められています。
ドイツでも、就労している女性の70%以上がレベルの低い、しかもサービス関連の職務についています。さらに、ドイツの大学などの高等教育機関のパート職員の73%は女性であり、同国の大企業の幹部職の女性は全体の2.3%、中小企業の女性幹部はわずか5.5%に過ぎません。
さらに、ドイツの大企業の幹部会のメンバー1万3153人のうち、女性はわずか496人のみであり、しかもこの中に取締役の女性は見られません。こうした性差別は、フランスでも見られます彼女たちの多くはアルバイトに多い職務についているのです。
それではここで、西洋社会における女性の就労について、女性問題の専門家であるアーホンダーン博士の話をお聞きください。
「この20年間において、就労における男女平等の実現に向けた措置を講じることは、西側諸国にとって重要な課題の1つとされてきた。西側諸国の女性の間にフェミニズムが広まったことにより、彼女たちにもたらされたものは、最低賃金しかもらえないレベルの低い職をあてがわれる事だった。中でも、女性に対する抑圧行為の1つは性的な嫌がらせだが、これは現実には西洋社会ではもはや日常茶飯事となっている。女性の就労においても、西側諸国でこれまで起こった事は、就労面をはじめとするすべての分野での男女の権利と義務の完全な平等を目指す政策やそれに似たものでは、女性の人権を保護する有効な方法にはなりえなかったことを物語っている」
「イスラムやその聖典コーランの教えを紐解くと、女性の就労に関する重要な原則が伺える。まず、第1の原則は、イスラムでは家庭の経済的なニーズを確保するのは男性の義務であるとされている。これは、イスラムでは女性が経済面で自立した存在とされており、女性は職業を持ち生産活動に従事してもよいし、逆に家庭の経済に対する責務を全く負わなくてもよく、家事に関して、夫にその代償や賃金を請求する事もできるということである。そして、夫はこれを請求された場合、必ず支払わなければならない。男性と女性はいずれも、自らの身体や精神の状況にかなった責務を負っており、自分にとってより好ましい条件や職業を求めている。それは、彼らは単独で就労する権利と所有権を持っているからである。イスラムでは、女性の就労条件に関して4つの重要なポイントが指摘されており、それは、社会にとっての利益、家庭にとっての利益、個人的な条件、そして個人の問題である」
西側諸国の様々な研究所や機関は、女性の進歩を阻む障壁は全くないと主張しています。しかし、現実には恵まれた状況にある女性はごくわずかであり、また専門職や管理職などについている女性ですら、同じような職業の男性と比べると、彼女たちの給与ははるかに低いものです。こうした現状は、商業関係の組織や学術機関、法的機関や医療機関などでも見られます。
イギリスでは、就労する女性の平均賃金が男性よりも非常に低くなっています。確かに、この20年間で男女間の賃金の格差は少なくなりましたが、それでも大半の女性が男性よりも低い賃金で就労しています。同じ職務内容でありながら、女性は今なお、平均すると男性よりも低い賃金となっています。例えば、イギリスでは女性事務員の賃金は同じ職務内容を履行する男性職員の60%にとどまっており、女性販売員の給与は男性の賃金の57%に過ぎません。
アメリカ人の女流作家マリリン・フレンチは、『女性への戦争』という著作において、特にアメリカを始めとする西側諸国での、女性の就労上の問題について取り上げ、このテーマに関する貴重な情報を提示しています。それによると、アメリカでは、女性の55%が給与所得者であり、しかも彼女たちは全員が差別待遇を受けているということです。
西側の産業社会では、労働環境における女性への性的暴力や差別待遇が非常に増えており、女子差別撤廃条約は、特に1995年の第4回世界女性会議で採択された北京宣言において、就労女性に対する性的な嫌がらせや不平等の拡大に関して、国際世論に向けて警告するとともに、日増しに高まるこの現象を食い止めるための対策に乗り出しました。
このように、西側諸国における女性の就労状況を俯瞰すると、これらの国がアピールするスローガンとは逆に、西洋社会では女性や女性の就労に対する考え方が女性にとって適切なものではないという事がわかります。
次回は、この問題についてより詳しくお話する予定です。どうぞ、お楽しみに。