西側諸国における女性の位置づけ(12)
今夜は、西側諸国の軍の内部に女性が存在することによる問題についてお話することにいたしましょう。
多くの国や社会の軍事組織に女性が進出するようになって、すでに3000年以上が経過しています。古代の女性兵士に始まり、現代では女性の志願兵が、最前線の戦場で男性と共に戦っています。
女性兵士の存在は、以前はタブーを破るものとされ、男性兵士の目からも隠されていたはずでした。しかし、フェミニズムや性的平等の思想の拡大に伴い、1970年代初頭から、この問題に対するヨーロッパ人の捉え方が変化し、次第に、多くの国が戦闘行為への参加という女性の選択の自由や権利を支持するようになりました。しかし、このことは西側諸国の女性たちにとって数多くの問題をももたらすことになりました。
1970年代の初頭から、西側諸国の軍隊の多くが、女性兵士を採用する許可を出しました。現在すでに、世界の9カ国では女性の兵役が義務付けられています。
1938年には、イギリスが世界で初めて女性に軍服を着せ、兵役に就かせる可能性を整えました。これらの女性兵士たちは、男性兵士の給与の3分の2を給与として与えられていました。もっとも著名なイギリスの女性軍人として、第2次世界大戦中に首相を務めたウィンストン・チャーチルの娘が挙げられます。
ロシアも近年において、軍務や兵役への女性の採用の意向を示しています。ロシアのある軍事基地では、特別な形での女性兵士の訓練教育が検討されており、またロシアのほかにもアメリカとドイツといった国が、軍隊への女性の参加を歓迎しています。
(ウィンストン・チャーチルと軍服を着た彼の娘)
ナチス・ドイツも、一般的な考え方とは逆に、女性が軍隊に参加すべきだという強い信念を持っていました。1940年代の中盤には、およそ50万人のドイツ人女性が軍の内部での救助活動に志願しました。これらの女性の多くは、銃弾が飛び交い戦火が燃え盛る前線に勇敢に参加したことから、その勇敢さを称えるメダルを授与されています。もっとも、ヒトラーが指示したドイツ人女性の役割は、将来戦争に参加するための兵士となりうる子供を生み、増やすことでした。
西側諸国の軍隊に多数の女性が存在するにもかかわらず、この事に反対する声も決して少なくありません。こうした反対は、第1次世界大戦時から現在まで続いています。この間の長い歳月において、女性の社会的な役割が大きく変化したにもかかわらず、女性が軍隊で活動する事には以前として疑問が提示されているのです。こうした反対は、女性を排斥するという考え方によるものではなく、軍隊という環境における女性の生命や精神状態の安全に関する懸念に端を発しています。
女性の軍隊への参加の歴史には、彼女たちに対するセクハラの実例が数多く記録されており、そのもっとも代表的な例はアメリカ軍の中で起こったものです。
それではここで、イランの女性問題の専門家であるアーホンダーン博士のお話をお聞きください。
「人権問題をめぐって、西側諸国が主張し、名誉とするものは、これらの国における女性の権利と自由である。こうしたアプローチにおいては、男女の本質的な違いを無視した男女平等が提唱されており、すべての分野における男女同権が主張されている。就労や雇用の分野においても、こうした男女平等が台頭しており、それには兵役や戦争への参加といったきわめて耐え難い過酷な職務も含まれている。だが、そのような職務は、女性らしさや女性的な感情とは釣り合わず、女性に多大な精神的プレッシャーを与える」
「さらに、女性の精神面に与える悪影響、そして残念ながら女性に対する性的虐待や、セクハラといった問題も存在する。これらの国の軍隊における女性への性的暴行やセクハラにより、多大な懸念が生じており、それは日増しに高まるとともに、被害者の多くは身体的、精神的な問題に巻き込まれている。その一方で、イスラムは平等の原則を遵守する一方で、男女が本質的に違うものであるという原則も提起しており、女性の社会活動への参加は、あくまでも女性の身体的、精神的な能力に適合した形で行われるべきだとされている」
2013年以降の統計によれば、アメリカ軍に勤務するスタッフ110万人のうち、15.6%を女性が占めており、1990年と91年の湾岸戦争の際には4万人近い女性兵士が戦闘に参加したということです。1994年以降はある決まりに基づき、小規模の部隊に属していた女性兵士は、地上戦には参加できないことになっていました。
ある統計によれば、25万5000人のアメリカ人女性が、イラク戦争とアフガニスタン戦争の従軍に志願し、軍隊に入ったとされています。これらの女性の一部は、入隊後に敵軍からではなく、味方の軍が原因で、劣悪な状況を強いられたのです。
アメリカ国防総省の正式な統計によりますと、2011年にはアメリカ軍の内部で、3192件に上る女性兵士への性的暴行事件が発生したとされています。2010年にも、アメリカ軍内ではほぼ同じような件数の性的暴行が報告されていますが、その実際の数はこれよりもはるかに多いとされています。それは、性的暴行の多くが公には報告されず、被害者が沈黙するためです。アメリカ軍に勤務するある女性はこれについて、性的暴行の被害を受けたことを通報したために、自分たちは失職したと述べています。
イギリスの新聞デイリーメールのインターネットサイトは、昨年、アメリカ軍で2万6000件以上の性的暴行事件が発生したものの、被害者は再び暴力を振るわれることや解雇される事への恐れから、通報しなかったことを明らかにしました。デイリーメールはまた、性的暴行事件は7件のうち1件しか通報されず、また届出があった事件についても裁判所に提訴される事例は10件のうち1件に過ぎないとしています。
BBCも、2016年、この問題に触れ、過去10年間において、性的暴行がアメリカ軍の内部で最も大きな問題となっていると報じています。
この事実は、アメリカの政府関係者も認めており、アメリカ国防総省の性的暴行防止・対策室次長のアラン・メツラー空軍大佐は、あるインタビューで次のように述べています。「様々なデータに注目した結果、性的暴行の発生件数は我々が把握している以上に多いということに気づいた」
メツラー空軍大佐はまた、次のように語っています。「性的暴行の被害者は、これを正式に提訴するのを断念し、事件として公になることや加害者からの仕返しを回避するために、単純な医療ケアを受けるだけで済ませてしまう事が多い」
残念ながら、性的暴行事件で通報された加害者の男性は、処罰を受けていないのが現実です。例えば、正式な統計によれば、2011年においては性的暴行の加害者のうち、起訴されたのはわずかに8%に過ぎず、有罪判決を受けた加害者は191人にとどまっています。
報告によれば、勇気を出して加害者である同僚の兵士や上官を相手に訴訟を起こした女性兵士の多くが、軍人としての資格がないことや精神障害を理由に解雇されています。言い換えれば、アメリカ軍は全力を挙げて、こうした事件の発覚を防ごうとしていることになります。
加害者を訴えた女性兵士が解雇されたことで、性的暴行を受けたその他の女性の多くは沈黙し、相手を訴える事を思いとどまります。アメリカ空軍のある関係者によれば、アメリカ軍内で女性スタッフが男性スタッフを性的暴行で訴えれば、逆にその女性が嘘の内容を語ったと非難されるということです。
(韓国駐留中に同僚の男性兵士から暴行を受けて妊娠したアメリカ軍の女性兵士。この女性に対するアメリカ軍の支援はまったくなかった)
CNNは、最近放送された番組で、性的暴行を受けた女性兵士の何人かにインタビューを行いました。これらの女性たちは、カメラの前で堂々と、事件として通報した後に根拠のない口実で軍から解雇されたと証言しています。
これらの女性の1人は、CNNの記者に対し、2002年に同僚の男性兵士から暴行を受けた事を明らかにしました。また、この事実を上官に報告した際、上官は逆にこの女性が嘘の内容を述べたとして非難したということです。この女性は、この事件からしばらく後に、人格障害を理由に軍から解雇されました。
こうしてみてくると、アメリカが常に人権擁護を主張し、他国を人権侵害で非難している一方で、アメリカ軍の内部での性的犯罪件数は世界最多であるということがわかります。アメリカ軍内で性的暴行を受ける女性たちは、職を失わないために沈黙せざるを得ないのが現実です。これはまさに、西側諸国の視点から見た性的平等や自由がもたらした副産物だといえるでしょう。
次回もどうぞ、お楽しみに。