西部ケルマーンシャー州パーヴェ行政区(音声)
イラン西部・ケルマーンシャー州はテヘランから西、およそ500キロの地点にあり、イラクと国境を接しています。昔、ここはバーフタラーンと呼ばれていました。興味深いのは、イランで最も暑い場所と寒い場所がこのケルマーンシャー州に存在する、という点です。その州の、他に類を見ない町のひとつがパーヴェです。
おそらく、イラン北部の有名な観光地であるマースーレの名前を聞いたことがある方もいらっしゃると思われますが、パーヴェは、マースーレの数倍の広さを誇り、山に沿って築かれています。
「マースーレの1千倍の町」パーヴェ
家々は、山裾の全域に広がり、その建築物も類を見ないものとなっています。家々の屋根は、その上の家の中庭になっています。パーヴェだけでなく、その周辺の集落はこのような作りとなっています。美しい村であるハジージもその一つで、そこには、クーセイェ・ハジージとして知られるシーア派8代目イマーム・レザーの兄弟の聖廟があります。
また、美しいボルの滝も、この村の中にあります。総じて、この自然との共生は、パーヴェやその周辺の村の建築の中に最高の形で見ることができます。パーヴェは、ザグロス山脈にある高いシャーフーという山の裾野に築かれています。平坦な場所は少なく、山の下は谷となっており、そこにはくるみやざくろ、イチジクなどの木が生い茂る果樹園があります。しばしば夏の盛りまで、シャーフー山の頂には雪が残っています。
パーヴェには、さまざまな木が茂っており、このため、パーヴェやホウラーマーンは絶景スポットとなっています。シャーフー山は、特に4月下旬から5月中旬にかけてさまざまな春の花が咲きます。こういった花の中に、逆さチューリップがあり、シャーフー山の高いところやパーヴェのアーテシュガー地区の中でよく見られます。
アーテシュガー地区は、シャーフー山の高い場所にあり、3世紀から7世紀にかけてイランで栄えたサーサーン朝の時代、ここはゾロアスター教のアフラマズダ崇拝のシンボルとなっていました。現在、ここで多くの逆さチューリップが見られ、訪れる人々の目を楽しませてくれます。
パーヴェにおける自然
逆さチューリップは、鈴のような形をした花で、色はオレンジから赤で、イランの自然における貴重な財産とされています。人々は、イランの国民的叙事詩『王書』の登場人物、スィヤーヴァシュが首を斬られたとき、逆さチューリップがそれを目にし、スィヤーヴァシュの死後、悲しみに浸ったと考えています。チューリップはこの悲劇により赤い色となって逆さになり、スィヤーヴァシュの無実の罪に涙したと伝えられています。逆さチューリップの涙は、実際のところはこの花の透明な分泌液に当たります。
この逸話により、パーヴェやホウラーマーンでは、逆さチューリップをスィヤーヴァシュの涙の花と呼んでいます。イランのクルド人は、この花を摘むことで、神の恩恵が閉ざされることになると考えています。
イランの歴史の中では、この貴重な花の話が良く出てきます。逆さチューリップの図柄やデザインは、サーサーン朝時代の建物の柱や、ケルマーンシャー州にあるサーサーン朝時代の遺跡、ターゲ・ボスターンにおいてもよく見られます。
逆さチューリップは、スィヤーヴシュの悲劇的な死から、イラン・イラク戦争の時代まで頭をたれ続け、悲しみを訴えています。この花は、春になると、聖なる防衛の時代の殉教者の死を思い起こさせます。この花は愛や罪のなさ、悲しみの象徴とされています。
それでは、パーヴェから数キロほどの距離にある観光地、グーリー・ガルエ洞窟についてお話しすることにしましょう。この洞窟は、アジア最大の水が流れる洞窟で、また、この種の洞窟においてイラン最長となっています。
この洞窟の中には、湖や、さまざまな形の鍾乳石が作られています。この鍾乳石はそれぞれ特別な形を有しており、さまざまな名前がつけられています。たとえば、聖マルヤムのような形をした鍾乳石がある場所は、マルヤムのホールという名前がつけられています。
この洞窟の奥1キロの地点には、世界で最も美しい池があります。そしてその周囲には、カーテンのような形になっている鍾乳石があります。それぞれに触ることで、楽器のような音が出ることから、この一帯はベートーベンのホールと呼ばれています。
その少し先には、白い石英でできた、ウエディングドレスのような形の鍾乳石がある美しいホールがあります。また、1700メートル奥には美しい滝がありますが、これは一般公開されていません。この洞窟には、まだ発見されていない場所が多く、今後、より多くの部分が、一般に公開される可能性があります。
ウエディングドレスのような形の鍾乳石