May 15, 2018 16:06 Asia/Tokyo
  • 中絶  
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今回は、西洋におけるジェンダー革命の結果としての中絶についてお話することにいたしましょう。

西側諸国における性の自由は、1つのジェンダー革命とも称され、表面的には西洋の現代文明の誇りの1つとされています。もっとも、この革命の最大の犠牲者は、成人の女性や未成年の女子です。シングルマザーや孤児の発生をはじめ、エイズなどの性病、人々の間の感情面での動揺、そして何よりも重大な現象として見られる大々的な中絶行為といったものは、こうした自由の産物であり、西側諸国の女性の心と体に最大の被害を及ぼしています。

人工妊娠中絶は、女性の子宮に宿った胎児を除去することで、妊娠を停止することであり、外科手術あるいは薬剤の服用によって行われます。中絶は多くの場合、妊娠後間もない時期、または胎児が母体外で生き延びられる状態にまで成長していないうちに実施されます。

西洋社会では大抵、中絶は人権や自由のシンボルとみなされ、事実上1つの選択肢となっています。イランの女性問題の専門家であるアーホンダーン博士は、次のように語っています。

「中絶は、様々な社会で物議をかもしている問題の1つであり、この問題に対してはそれぞれの社会で多様な対応がなされている。神の啓示宗教の見解では、中絶は罪とされ、それには独自の処罰が定められている。一部の国では、中絶は罪ではなく、まったく普通の行為とみなされる。だが、中絶はしかるべき悪影響を伴っており、西側諸国の社会でこの問題が多発していることは、西側や先進国でのモラルの欠如、正式な婚姻なしでの妊娠、家庭を持つ事からの逃避といった現象が広まっていることを示すものである」

「宗教を持たない世俗的な人間が、人間中心主義に基づいて自らを世界の中心とみなしていることから、自分と自分以外の人間との関係、さらには自分と動植物などの自然との関係を定義する際にも、所有者と所有される側という関係で捉える。このため、世俗的な人は人間の子供をその子供の親の所有物とみなすことから、妊娠中の胎児の中絶も母親の権利とみなしている」

 

 

中絶は、19世紀中盤までは胎児に魂が宿っていないうちに、すなわち母親が胎動を感じないうちに行う場合のみ合法とされていました。中絶への反対の理由としては、これが母親に多大な危険をもたらすことにあります。

20世紀初頭までは、中絶に反対する運動が成果を挙げ、西側諸国の多くでは中絶が違法行為に断定されていました。しかし、1950年代から60年代にかけて、フェミニストがこの動きに抗議し、中絶に関する法律の改正を試みました。これらの人々は、当時中絶に関する法律には効果がないと考え、多大な圧力を行使して、遂に1973年、アメリカの最高裁判所により中絶を許可する法案を可決させたのです。

アメリカでは、最高裁判所が中絶を合法的なものとして承認した1973年以降、5000万件もの中絶が実施されています。専門家の見解では、アメリカでは1年間に中絶される胎児の数が、これまで同国の歴史上に記録されている戦争で死亡した軍人の数に等しいとされています。また、ニューヨークで届出のあった妊娠全体のうち、41%が中絶にいたることが報告されています。さらに、いくつかの研究調査によれば、中絶件数全体のうち、86%が妊娠による苦痛を逃れ、楽をしたいという理由によるものだということです。

アメリカで中絶件数が多くなっている最大の原因は、未成年の女子の妊娠率が高いことです。アメリカでのこのデータは、カナダの2倍を上回り、さらにフランスの3倍以上、そして日本の7倍以上とされています。妊娠はしたものの、まだ母親としての重責を果たす能力がなく、出産後の育児という責任を受容するための、十分な社会的成長を遂げていないことから、このような問題が発生しているのです。

 

ほかにも、中絶件数の多い国としてフィンランド、アイスランド、イギリスなどがあります。イギリスでは、毎年平均して妊娠した1000人のうち、235人が中絶しており、また出生にこぎつけた新生児の多くは児童養護施設に預けられているのが現実です。カナダ人の歴史学者イアン・ジェントルズ(Ian Gentles)は、カナダの法律には子供の権利に関して矛盾が存在するとし、次のように述べています。

「カナダでは出生しなかった子どもには相続権があり、母親の胎内において第3者を相手に訴えることができるが、生存権がない。それは、カナダ政府が母親に子どもを殺す権利を与えているからである。さらに驚いたことに、カナダの法律では未成年の女子は耳にピアス用の穴を開けるのに親の許可が必要であるにもかかわらず、親に知らせないで中絶できるのが現実である」

 

 

西側諸国における中絶に関する法律はそれぞれ異なっています。例えば、アメリカ・テキサス州、ヨーロッパでもポルトガルやポーランド、北アイルランドといったカトリック教国では、中絶に関する厳しい法律が定められています。

特に、北アイルランドで定められている中絶に関する法律は、ヨーロッパでも最も厳しいものとされ、母親の生命が危険にさらされている場合にのみ、裁判所が中絶判決を下すことができます。このことから、北アイルランドでは望まない妊娠をした女性たちの多くが、裁判所での中絶判決を出させるために薬を服用し、自らの命をわざと危険に陥れるという行為が行われているのです。これにより、北アイルランドでは毎年数多くの女性が命を落としています。

一方、ヨーロッパの別の国ではまた違った法律が定められています。それは、妊娠10週から14週までは、中絶専門の病院で、裁判所の判断を得ることなく中絶手術を受けられるというものです。ですが、この時期を過ぎた場合は、法律に基づき胎児を出産しなければならず、母親に出産後の育児能力がない場合には、子どもを孤児院に預けなければなりません。

ヨーロッパ諸国では、中絶を許可する妊娠週数にもわずかながら違いが存在します。しかし、オランダでは母親が子どもを生みたくない、あるいは産めない、育児ができないと感じたときに病院にかかり、中絶手術を受けることができるのです。

 

アメリカでは、中絶に関する法律は州ごとに異なっています。例えば、テキサス州では中絶が法律で厳しく規制されており、中絶を希望する女性の多くはほかの州に渡航せざるを得なくなっています。この問題は、こうした女性たちにとって健康や経済面で多大な危険をはらむものです。もっとも、アメリカ下院は最近、妊娠20週以降の中絶を禁止する法案を可決しています。

この法案は、「胎児が痛みを感じ得る後期中絶を禁止する法案」として知られ、「数多くの医学的な資料によれば、受精あるいは妊娠成立から少なくとも20週が経過している胎児は、痛みを感じている事がわかっている」としています。この法案は、出生前の胎児の生命に関する知識に基づく捉え方やアプローチを含んでいます。

最近の研究調査から、胎児の体に痛みを感じる組織が形成されるのは、妊娠20週であることが判明しています。一方で、イスラムでは受精した時点からの胎児の権利が考慮されており、中絶は基本的に犯罪とされています。

 

 

中絶は、その後何年もにわたって女性の心と体、そして日常生活に深刻な悪影響をもたらします。アメリカで実施された中絶に関する全国的な統計によれば、自らの個人的な意思で中絶した女性全体の10%が、その悪影響に悩まされているということです。

フィンランドで行われた調査の結果、意図的に中絶した女性が死亡する確率は、自然流産した女性より102%も多いとされています。また、同国カリフォルニア州で、中絶した女性と出産した女性の合計17万3279人を比較調査した結果、中絶した女性が死亡する可能性は62%高いことが判明しました。婦人科の専門医の見解では、中絶した女性の死亡率が高い理由は、中絶という危険な行為がもたらす心理的なプレッシャーに関係があるとされています。

こうした問題が存在することから、現在西側諸国の大半は二者択一という現実に直面しています。それはすなわち、望まない妊娠の結果として中絶が広まったというジェンダー革命を断念し、再び倫理や合法的な結婚、家族中心の社会に注目するか、もしくは現在のようなジェンダーの乱れをこのまま放置し、中絶に絡んだ数多くの問題に直面するかのいずれかです。

 

 

次回もどうぞ、お楽しみに。

 

 

 

 

 

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