ペルシャ語ことわざ散歩(86)「あなたの陰が私たちの頭の上から減らないように」
皆様こんにちは。このシリーズでは、イランで実際に使われているペルシャ語の生きたことわざや慣用句、言い回しなどを毎回1つずつご紹介してまいります。
今回ご紹介するのは、「あなたの陰が私たちの頭の上から減らないように」です。
ペルシャ語での読み方は、Saaye shomaa az sar-e maa kam na-shavadとなります。
この表現に出てくる「陰」とは、相手の好意や恩恵、注目などを意味しており、ご機嫌伺いの際や別れの挨拶の際などに、「これからもよろしく」、「お元気で」といったような意味で使われています。
この表現の由来は、紀元前4世紀ごろの古代ギリシャの哲学者・ディオゲネスが残した言葉にあるとされています。
ディオゲネスはソクラテスの孫弟子の一人で、「必要なものが少ないほど神に近い」という思想を持ち、樽(たる)の中に住んでいたことから「樽のディオゲネス」とも呼ばれています。当時の権力者アレクサンドロス大王がディオゲネスの住む樽の家を訪れて「何か欲しい物はないか」と尋ねたのに対し、ディオゲネスは「何も欲しい物はないが、日が当たるようにそこをどいてくれ」と返したとされています。
このせりふにおいては、ディオゲネスにとっては日光をさえぎるものや日陰は必要ないものということになります。
ところが、この文言が人々の間に伝わるにつれて全く反対の意味で解釈され、自分が必要とするもの、他人や相手に目をかけてもらうことや好意、注目という意味に変化し、ここから「あなたの影が減りませんように」という表現が生まれ、「今後ともよろしく」といったような意味で使われるようになったとされています。
ちなみに、孤立して生活している高齢者などが身だしなみに無頓着となり,不要な物を溜めこむことによって,生活環境が極端に悪化する様子は、専門用語で『ディオゲネス症候群』 と呼ぶそうです。ディオゲネスは確かに偉大な哲学者だったそうですが、「ディオゲネス症候群」のような状態に陥ることは避けたいものですね。それではまた。