6月 22, 2022 14:55 Asia/Tokyo

イランの広大な大地は、多くの自然や観光名所を有し、エコツーリズムの可能性という点で、世界のトップ5に名を連ねています。このシリーズでは、イランの自然の恵みをご紹介して参りましょう。

力強く聳える山々は、威厳ある自然の美しさの象徴であるとされています。ザグロス山脈を形成する山脈のひとつ、デナーには、ダマーヴァンドに次ぎ、イランで2番目に高いとされ、イランの南部に位置しています。雪を頂くデナー山脈には、至る所に小川が流れ、氷河が存在しているため、多種多様な動植物が見られます。この地域の希少なエコシステムの存在と、これを保護していく必要性から、イラン環境保護最高評議会は、ザグロス山脈の一部を、「デナー自然保護区」に指定しています。

 

●デナー山脈

 

デナー山脈は、ずっと昔から登山家たちの注目を集め、イランのみならず、世界各地の多くの登山家が、この壮大なる山々の登頂に挑戦してきました。このためデナー山脈は、世界でもよく知られた山のひとつとなっています。自分の死後の永遠の場所としてデナー山脈を指定し、現在、この地に眠っているヨーロッパの登山家もいます。デナー山脈は、長さおよそ80キロ、幅は平均20キロから30キロで、ファールス州、コフキールーイェ・ブーイェルアフマド州、そしてイスファハーン州の3つの州にまたがっています。とはいえ、この山脈の大部分はコフキールーイェ・ブーイェルアフマド州に位置しており、特に山麓の町スィーサフトは、風光明媚な景観と温暖な気候を有しています。

 

デナーの北部にあるマールボル川は、東から西に向かって流れており、しばらく進んだ後に、その方角を南に変え、狭く深い流れになった後、森林を抜け、バシャール川に合流します。バシャール川は、デナーの南部を、東から西に向かって流れており、この2つの川は、カールーン川の最も重要な源流のひとつ、ヘルサーンに流れ込んでいます。カールーン川は、イランで最も水量の豊かな川であり、ペルシャ湾に流れ込んでいます。マールボル川は、途中でヘルサーンという名に変わりますが、このヘルサーンとバシャールが合流する一帯には、非常に美しい森林が見られます。この地域で最も高い山は、デナー山脈にあるガーシュマスターンと呼ばれる山で、標高4435メートルに及びます。

デナーの南側は、コフキールーイェ・ブーイェルアフマド州の北東部に位置しています。この場所は崖のようになっていて、すそ野には、樫の林が広がっています。また、デナーの北側は、半乾燥地帯で、森林はほとんど見られません。この地域に生える草は放牧地の雑草で、氷河や積雪があることから、泉など、水資源が豊富にあります。農地のほとんどではリンゴ栽培が行われ、中でも最も重要な栽培地は、セミーロムと呼ばれる場所です。また、デナーの山麓には数多くの渓谷が存在し、大小様々な泉が見られます。これらの泉の多くは、雪の下から湧き出ており、その水は、急斜面になっているデナーの山裾に、泡が立つほどの激しい流れを作り出しています。高く聳える岩から流れ、美しい滝を作り出し、地表で川の流れとなっているのです。カールーンの源流も、これらの川がつながってできたものです。

 

●デナー自然保護区の自然

 

デナー自然保護区では、1200種にものぼる、この地域独特の多種多様な植物が見られますが、そのうち90種類は、森林の木々や低木で、残りは雑草や灌木となっています。この地域一帯で最も多く見られるのは、樫の木ですが、この他、ピスタチオ、柳、プラタナス、桜などの木も存在します。デナーの南側の山麓は、標高2500メートルまで、樫の木が散在しています。しかし、2500メートルの地点で樫の森林が終わり、それ以上の地点では、代わって野生のアーモンドなどの低木が姿を現します。また、3500メートル以上の場所は、木が一切生えておらず、土がある場所に、雑草やレンゲ草が生えるのみです。さらに、4000メートル以上の場所になると、灌木も姿を消し、強風から身を守るようにして、岩の割れ目や裏側に美しく小さな植物が生えています。これらの植物は、夏の初めになると、細かな色とりどりの美しい花をつけます。

 

デナー山脈は、標高が非常に高く、酷寒の季節が長期に渡ることから、大抵、秋に初雪が降るまで、前年の雪が残っています。このため、美しい自然の氷河ができあがり、デナー山脈に生える植物の成長の季節は、ほんの僅かの期間しかありません。花の咲く期間も非常に短くなっています。夏になると、この地域には多くの植物が生え、それぞれが、一年のうち、ある一定の時期に花をつけます。デナーで昔から見られ、他では見られない植物のひとつに、野生チューリップがあります。また、プランゴス属の植物が広範囲に渡って生えているため、遊牧民の格好の放牧地となっています。

 

またこの他、この地域に多く生えているのが、チャヴィールと呼ばれる香りの良い草で、4月の終わりから7月の半ばにこの地域を訪れる登山家には、よく知られた植物です。また、ちどり草、にら、ちょうじ、さくらそう、逆さチューリップ、ひなげし、わけぎ、めぐさはっか、かみつれ、かんぞう、はあざみなど、様々な薬草や食用植物が生え、これらが地域一帯の美しさに花を添えています。これらの薬草からは蜜が取れますが、この地域で生産される蜜は、良質で、治療の効果も期待できるものです。

 

デナー自然保護区の東側と西側に生息する動物の種類は大体同じですが、その多様性は、デナーの壮大な魅力を増しており、生態系と関連づけて提起されています。この地域で見られる哺乳動物としては、クマ、やぎ、ひょう、山猫、狼、ジャッカル、きつね、ハイエナ、イノシシ、野ウサギ、リス、くろてん、はりねずみ、こうもりが挙げられます。中でも、クマ、ヒョウ、山猫は、保護動物とされています。また、デナーで見られる鳥類には、シャコ、おじろわし、はやぶさ、鷲(わし)、きつつき、あおかわらひわ、ふくろう、つばめ、かも、のばとがいます。さらに、まむし、とかげ、亀、へびなどのは虫類も見られます。

 

概して、デナー自然保護区は、様々な動植物に加え、非常に美しい景観を有していると言えるでしょう。例えば、4000メートル級の山が数多く存在しており、至る所に見られる谷間や峡谷は、デナーの雄大な自然を感じさせる魅力のひとつです。デナーには40を超える大峡谷がある他、大小多くの洞窟が存在し、これらは、山岳地帯の地表が浸食されてできたものだと考えられています。デナーの自然の神秘のひとつは、滝です。岩を伝い、デナーの峡谷の間を流れる水が、壮大な滝を作り出しています。中には特定の季節にだけ、生まれる滝もあります。

 

これまでにもお話ししたように、イランの国土の半分以上は、山岳地帯が占めています。この中のひとつ、アルボルズ山脈は、西から東に、数百キロ以上に渡って延びており、壮大な壁のようにそびえ立っています。イランにはもうひとつ、北西から南東に向かって延びるザグロス山脈があります。ザグロス山脈は、深い渓谷のある山々が平行に連なっており、その山裾は急斜面になっています。この山を抜けるには、美しい緑の広がる曲がりくねった谷をいくつも越えなくてはなりません。ザグロス山脈は美しい山々、風光明媚な景観を有しており、イランを訪れ、この山々を登ったことのある旅行家が、それぞれの言葉で、目にした景観について語っています。この山脈を登ることは非常に危険だとする者もあれば、崇高で静寂に満ちた落ち着きを与えてくれる場所だとする者など、彼らの意見は様々です。

 

前回、デナー自然保護区についてお話しした際にも少し触れましたが、ザグロス山脈は、4000メートル級の山々が連なって成り立っています。この山脈の自然の美しさは、言葉で語り尽くせるものではありません。中でもザルドクーフと呼ばれる地帯は、4000メートルを超える山が10以上も並んでおり、ザグロスの見所のひとつとなっています。ザルドクーフは、イラン西部・チャハールマハール・バフティヤーリー州の州都シャフレコルドの西73キロのところに屹立しています。この中で最も高いとされるのは、標高4221メートルを誇るクルーンチー山です。この他、ザルドクーフには、シャーシャヒーダーンや、クーフラングという名の山々があります。ザルドクーフの山肌は黄土色で、山裾は春になると、一面、美しい黄色い花で覆われます。また、クーフラング山は、日中、太陽の光を浴びることによって、様々な色を醸し出します。ザルドクーフは、19世紀末まで手つかずのままであり、外部の人間を受け入れることはありませんでした。

 

●ザルドクーフ

 

現在、誰でも簡単にチャハールマハール・バフティヤーリー州を訪れ、ザルドクーフを登頂することができるようになっています。とはいえ、この広大な地域には、他では見られない希少価値のある自然が詰まっています。この山を登る人々は、誰でも、歩みを進めるたびに、数多くの美しい泉、大小様々な湖、そして自然の氷河など、自然を、感じずにはいられないでしょう。さらに、紀元前6世紀から4世紀のアケメネス朝、あるいは3世紀から7世紀のサーサーン朝時代のものとされる古代の城壁の存在も、この神秘をより強く感じさせるものです。

 

ザルドクーフでは、壮大な石のライオン像を見ることができます。これは、長い間、変わらずに山の急斜面に堂々と存在し続け、バフティヤーリー族の若い勇者のたくましさを伝えてきました。ザルドクーフを頂上に向かって登る途中に、彫刻が施された簡素な形の石がありますが、これはその昔、墓石であった形跡が見られ、墓地の場所の目印として、あるいは装飾のために置かれていたと考えられています。

 

ザルドクーフの傍らには、チェルゲルドという名の小さな村があります。この村は、チャハールマハール・バフティヤーリー州にある最も美しい村のひとつで、寒い冬には、スキーなど、ウィンタースポーツを楽しみたい人々にとって、うってつけの場所となります。チェルゲルドの住民のほとんどはスキー上級者です。なぜなら、長い冬の間、町を往来するのに、スキーが必要となっているからです。スキー場の存在と、非常に美しい自然の景観は、この地域を観光する上での魅力となっており、特にイスファハーンやシャフレコルドからは、多くの人々が訪れています。

 

今年、この地域に150センチ以上の積雪が見られたため、チェルゲルドで、雪の町の祭典が催されました。この祭典では、イラン全国から芸術家グループが集い、歴史的建造物をはじめ、有名人の雪像や、宗教的、民族的シンボルとなっている建物の雪の彫刻が披露されました。

 

ザルドクーフを登頂するには、州都シャフレコルドから、チェルゲルドに至り、そこからクーフラングダムを通過しなければなりません。クーフラングダムと、クーフラングトンネルを流れる美しく澄んだ滝は、この地域の自然の魅力のひとつです。クーフラングトンネルは、クーフラングや、ザーヤーンデルード川周辺にある泉の水を移送するために、1953年、クーフラング地区に建設されました。その昔、ザルドクーフ周辺で生活を営んでいた遊牧民は、時の経過と共に、次第に遊牧生活から離れ、定住地を構え、牧畜業に従事するようになりました。とはいえ、この地域を訪れたり、あるいはザルドクーフの登頂に挑戦したりする際には、この地域に今も存在し、自然と共に自由な生活を送る遊牧民の姿を目にすることができるでしょう。

 

さらに、自然氷河、数多くの湖、美しい沼地、そしてザルドクーフ西部にある樫の木の深い森は、見る者すべてを魅了し、創造の驚くべき世界を証明するものです。また、ザルドクーフの山麓には、20を超える川が流れており、標高のある山脈であるにも拘わらず、スポーツや散策、ピクニックに適した地域となっています。ザルドクーフ、ハフトタナーン、クーフスーフテ、シャーシャヒーダーン、美しい景観を有するこれらの山脈を訪れることは、多くの登山家にとって大きな魅力であると言えるでしょう。

 

概して、ザルドクーフは、イランで最も水資源の豊かな地域であると言えるでしょう。山のすそ野では、一般に、岩や石の隙間から流れ出る泉が見られますが、これは、春の初めになると、この地域一帯で見られる現象です。空高く聳え、雪を頂くザルドクーフの山々、豊かな雨量、遅い雪解け、これらが、クーフラング、シェイフアリーハーン、マールボルといった、豊かな水を湛える泉の形成の要因となっています。この地域は、イランで最も水量が多い川とされるカールーンと、最も代表的な河川のひとつ、ザーヤンデルードの源流となっています。

 

また、気候やその他の自然の要素がそろっていることから、ザルドクーフ一帯は、多種多様な植物で覆われています。南側の山麓は、比較的、傾斜も緩やかなものとなっており、生物が生きるのに適した状況が整っていることから、樫の密林が広がっています。この他、テレペンチン、ピスタチオ、サンザシ、アーモンドの木も見られ、その根元には、主に数種の一年草の他、レンゲ草、様々な灌木が茂っています。一方、この樫の林よりも高い場所や北側の山麓には、レンゲ草などの草が一面に生えています。また、斜面が急で、地表はほとんど石で覆われており、その隙間から、山岳地帯の植物や花々、薬草が顔を出しています。ザルドクーフの平原の一角には、春になると逆さチューリップなどの花畑が広がり、他では見られない美しい光景を作り出しています。

 

●チェルゲルド

 

前回もお話ししたように、ザグロス山脈にあるザルドクーフの一帯は、イランで最も水資源の豊かな地域とされています。山の麓には岩や石の間から泉が湧き出、澄んだ水が流れており、自然氷河、数多くの湖、美しい沼地や池、樫の生い茂る林が、ザグロス山脈の自然の魅力となっています。また、ザルドクーフの傍らにあるチェルゲルドという町は、スキー場や風光明媚な景観を有し、多くの人々が訪れる観光地で、この地域を訪れる観光客のために、クーフラングという名のホテルが存在しています。

 

チェルゲルドから10キロのディーメと呼ばれる村の近くには、村と同じ名前の泉があり、イランの代表的な河川のひとつ、ザーヤンデルード川の源流となっています。この泉の水は、非常に澄んでおり、この水を飲むと、虫歯予防や腎臓結石の治療に効果があると言われています。さらにこの泉の水から、ミネラルウォーターが生産されており、泉のすぐ近くに工場があります。ディーメの泉の澄んだ水、そして周辺の美しい景観は、毎年、特に春や夏になると、多くの観光客を惹き付けています。

 

●ザグロス山脈一帯の自然

 

ザグロス山脈の北側の山麓、イラン中部イスファハーン州のダーラーンとハーンサールに至るおよそ1万平方キロメートルには、ヨウラクユリの咲き誇る野原が散在しており、バフティヤーリー族が、夏の放牧地として利用しています。中でも最も広大な花畑は、チェルゲルドから12キロ離れたバフティヤーリー地区にあり、クーフラング行政区郊外の村の近くに位置しています。赤や黄色の美しいヨウラクユリが一面に咲き誇る野原は、散策に最適です。この野原のヨウラクユリが成長し、蕾みを開くようになるのは、4月の初めから5月の半ば頃までで、この時期、この一帯では、言葉で描写することができないほど美しい光景が見られるのです。

 

ヨウラクユリは、学名フリティラリア・インペリアス、多年草の球根植物で、20センチから50センチの茎に数多くの葉をつけます。葉は茎のちょうど中央辺りに生えており、花の直ぐ下や根元の部分には、全く生えていません。また、ヨウラクユリの花は、赤みがかった橙色や黄色で、数個が釣鐘状になっています。ヨウラクユリは、イランで最もよく知られた球根植物のひとつで、およそ300年前にヨーロッパに広がり、現在、広く栽培されています。イランでは、西部のコルディスターン、ガスル・シーリーン、アルヴァンド、オシュトラーンクーフ、アゼルバイジャン地方の山すそにも見られますが、主な生育地は、バフティヤーリーの山岳地帯とされています。

 

イスファハーン州にある都市、ハーンサールから15キロ離れた所に、ゴレスターンクーフという名の、空気の澄んだ緑豊かな避暑地があります。このゴレスターンクーフ一帯には、ぎょりゅう、わけぎ、各種のチューリップといった植物が広がっています。

 

ザルドクーフには、高山が連なっていることから、深い峡谷が数多く存在しており、土地の人々はこうした山峡を、山あいの険しい谷を意味する「タング」と呼んでいます。ザルドクーフの主な山峡としては、イールベイクやバーゾフトが挙げられます。ザルドクーフの自然条件から、山あいの深い峡谷は、数年ごしの積雪が溶けずに氷となって残り、その中でも最も美しいのは、氷のトンネルです。ザルドクーフのみならず、イラン全国で最も素晴らしいとされる氷のトンネルは、ハフトタナーン山の北西の峡谷にあるものです。このトンネルの長さは、8月の夏の盛りでも、およそ1キロに及び、中を通過することが可能です。

 

イールベイクの峡谷は、ハフトタナーン山の北西に位置し、人が訪れることのできる場所では、イランで最も長い氷の峡谷で、その長さはおよそ10キロから15キロとなっています。また、シェイフアリーハーン村の近郊には、チャハールマハール・バフティヤーリー地域で最も珍しい氷の洞窟、「チャマー」が存在します。この洞窟の内部には、数多くの氷のつららがあり、冷たい冷たい泉の水が、クーフラングダムに流れ込んでいます。

 

ザグロス山脈の高山の雪解け水によってできた湖が、この山岳地帯には多く見られます。世界的にも知られる美しい湖、チョガーホルも、ザグロス山脈にある湖のひとつです。この湖は、ボルダージーと呼ばれる町の近くの山麓地帯に位置し、その面積は、およそ2300ヘクタールです。チョガーホル湖は、自生の植物に囲まれ、自然を満喫できる場所です。チョガーホル湖を訪れるには、まず、ブルージェンからザグロス山脈に向かい、その後、バフティヤーリー族の住むボルダージー地域に入ります。ボルダージーからさらに西に向かって、ひとつの集落と小さな川を超えると、そこに、チョガーホルの美しく光り輝く湖面を目にすることができるでしょう。

 

この広大な湖には、多くの渡り鳥が一時的にやって来ます。また、湖の西側には、いくつかの集落も見られます。また、この湖の周辺は、バフティヤーリー族の一派が毎年夏の間、避暑地として一時的に居住する場所となっています。概して、チョガーホル湖は、鳥たちの鳴く声を聴きながら、風光明媚な景観と気持ちよい空気を味わうことができ、チャハールマハール・バフティヤーリー州の観光名所のひとつとされています。またこの湖には、地域特有の珍しい魚も生息しています。

 


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