May 13, 2024 14:26 Asia/Tokyo
  • イスラム世界最高の知識人イブン・スィーナーがAI時代の我々に教えてくれること
    イスラム世界最高の知識人イブン・スィーナーがAI時代の我々に教えてくれること

10世紀にイランで生まれたイスラム世界最高峰の知識人であるイブン・スィーナー(980~1037)は、活版技術が発明される前の時代に活躍した人物でしたが、AI(人工知能)時代を生きる我々が抱える問いをすでに提起していました。それは、「どうすれば人間は人間たりうるか?」というものでした。

多くの哲学者らが、我々を人間たらしめるものを「知る能力」に求めました。しかし、「知る」こととはどのように定義できるでしょうか? 知ることを外面から判断できる基準はあるのでしょうか? こうした問いに対する統一した回答は、いまだに見つけられていません。そのことが、AIに関する議論に終わりが見えない要因となっています。

現代の研究者らが、人間とAIが答えを導き出すプロセスを比較するように、イブン・スィーナーも人間と動物の間で、外見上の行動に結び付く内面のプロセスを比較しました。

イブン・スィーナーは、人間を動物と分け隔てるものは「抽象的なものを理解できること」であると考えました。動物が実際に自分の目の前に存在する「個別的なもの」だけを理解できるのに対し、人間は抽象的なものにもとづいて考えることができるというわけです。

イブン・スィーナーは著書の中で、狼と鉢合わせた羊の例を挙げています。人間の思考回路は、「狼は危険な動物である。今自分の目の前にいるのは狼である。したがって逃げる必要がある」というものです。しかし、動物はこのようには考えません。

動物は、抽象的な存在としての狼は考えず、目の前の狼を見ただけで逃げる必要があると判断します。狼が一般に持つ特徴にもとづいて考えるのではなく、個々の狼だけを見るのです。イブン・スィーナーのこうした考えは、現代の学者たちがAIについて考える時のそれときわめて似ています。

最新の研究では、人工の神経回路は普遍的な事柄を体系的に考える能力を持たないことが分かっています。一方の人間は、言葉から意味を連想し、それをより複雑な概念に結び付けることができます。AIは、個別の目的に応じた個別のデータを検索しているにすぎません。

このことは、人間の思考回路が独特のものであるというイブン・スィーナーの考えと一致します。

イブン・スィーナーは著書の中で、知的存在がどのように共通のもの/共通でないものを見つけるかについて記しています。人間は様々な対象の中から共通点を見つける能力を持っているのです。

我々は、物の本質的な特徴とそうでない特徴とを区別し、普遍的な概念を見つけることができます。そして、その普遍的な概念を使って論理を組み立て、それを様々な対象に適用するのです。

羊と人工知能が違うのは、人工知能がはるかに大容量のデータを扱うことができるということです。

イブン・スィーナーが唱えた「人間たる基準」は、体系的な普遍化によく似ています。この基準は、人格の有無を判断する指標として利用できる可能性を秘めています。現在までのところ、AIはこの基準をクリアできていません。

 


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