日本の航空業界に押し寄せる新たな危機
長期化する新型コロナウイルスの影響で、経営不振にあえぐ日本の航空業界が、別の大きな“危機”に直面しています
NHKが5日金曜、報じたところによりますと、国連の気候変動対策の会議「COP26」を目前に控えた10月下旬、羽田空港でのインタビューで、日本の2大航空会社ANA「全日空」の平子裕志社長とJAL「日本航空」の赤坂祐二社長の2人の社長から、「いちばん恐ろしいのは、飛行機を飛ばせなくなることだ」という驚異的なコメントが出ました。
日本の航空業界で言わずと知れたライバル関係にあるトップが並んでインタビューに応じるのは、極めて異例のことですが、それにはもちろん理由があります。日本の航空業界が直面する、ある“危機”について語るためです。
日本の航空業界に迫る危機とは、業界の脱炭素を実現するうえで欠かせない代替燃料、いわゆる「SAF」をめぐる世界的な争奪戦です。
「SAF」とは、持続可能な航空燃料(Sustainable Aviation Fuel)という英語の頭文字をとったもの、従来の化石燃料と違い、原料に石油を使わず、トウモロコシなどの植物以外にも、最近では、食品廃棄物や廃プラスチックなど、さまざまな原料から開発されています。
こうした燃料も、飛行機のエンジンを動かす際には現在話題となっている二酸化炭素を排出するものの、製造過程を含めた全プロセスで見れば、従来の化石燃料より80%程度、二酸化炭素の排出量を削減できるとされています。
そして2050年に二酸化炭素排出量、実質ゼロを目指す航空業界にとって大幅な削減を実現する切り札と考えられているのが、まさにこの代替燃料=SAFなのです。
2人の社長が語ったのは、SAFをめぐる厳しい現状、すなわち日本はSAF確保のための取り組みにおいて大きく遅れをとっているということです。
これについて、赤坂JAL社長は「(欧州などに比べ)率直に言って遅れています。遅れているというより、日本での取り組みは、まだ始まってもいないという方がいいかもしれない」とし、また平子ANA社長は、「日本でSAFを調達できなければ、飛行機の運航がストップしかねない。いまから第一歩を踏み出しておかないと間に合わないのではないかという危機感があります」と切実なコメントを口にしました。
両社がとりわけ危機感を強めているのが、SAFをめぐるヨーロッパでの規制の強化で、日本の国土交通省によりますと、イギリス、フランス、ドイツ、オランダ、スペインなどでも、SAFの義務化や導入目標の設定を検討するなど、規制強化の動きが広がっているということです。
特にヨーロッパでは、「飛び恥(Flight Shame)」即ち二酸化炭素の排出が多い飛行機に乗るのは恥ずかしいという意味の表現まで生まれています。十分なSAFが確保できなければ飛行機を飛ばせないという事態が、現実味を帯びてきたのです。
もちろん、日本の航空会社も、ただ手をこまねいてるわけではなく、JALはアメリカの企業に出資して、アメリカの空港でSAFを給油できる体制作りを進めているほか、ANAは、大手商社と組んで、独自のサプライチェーン(供給網)を構築し、去年から、フィンランドの会社からSAFの輸入を始めました。
しかし、輸入に頼るだけでは、十分な量を確保できないのが現状であり、こうした中で両社のトップが強く訴えているのがSAFの「国産化」です。
両者の社長は「世界的な争奪戦が激しくなるなか、日本を離着陸する飛行機が確実に給油できる体制を構築するには、国産の燃料が欠かせない」とし、SAFの「国産化」を強調しています。
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