奴隷制被害受けた社会への賠償で求められる国際法廷設置
(last modified Sun, 05 May 2024 06:26:18 GMT )
May 05, 2024 15:26 Asia/Tokyo
  • 奴隷制被害受けた社会への賠償で求められる国際法廷設置
    奴隷制被害受けた社会への賠償で求められる国際法廷設置

アメリカ在住のジャーナリスト・作家であるリチャード・スーダン(Richard Sudan)氏は、「西側が奴隷制時代に行った犯罪の賠償金を支払った時にこそ、世界中の黒人コミュニティは真にそこから解放されことになる」と指摘しています。

奴隷制時代の罪を贖う賠償金を請求し、その遺産である「構造的人種差別」に立ち向かうことは、新たに始まった運動ではありません。

アメリカの黒人男性ジョージ・フロイドさんが殺害された後、世界中で「Black Lives Matter(黒人の命は大事)」をスローガンとする抗議活動が起こり、正義を求める声が強まりました。

奴隷制の助けを借りて発展した西側諸国は、賠償金の支払いを無視したり遅らせようとする政府の代表格と言えます。

例えば、アメリカでは2021年、アフリカ系アメリカ人への補償提案を検討する委員会の立ち上げを内容とした「HR40法案」が提出されましたが、この件は数十年にわたり停滞しており、同法案も成立しないと思われます。

また、世界の奴隷貿易を先導した国であるイギリスは、この問題に自国が果たした役割を認めることを避け続けています。イギリスの教科書では、自国が1807年に世界で最初に奴隷制度を廃止したと書かれていますが、実際にはその前の1804年、ハイチの奴隷が革命を起こし、自力で同制度を廃止したのが最初でした。

実際、イギリスの産業革命、科学革命、発展は、奴隷制およびアフリカを発展途上のままに維持したことと、密接に結びついています。

黒人の搾取は、当時の大英帝国の富と力の基盤だったのです。

このように、アメリカやイギリスといった国々が奴隷制の賠償を意図的に無視したり政治的意思を示さない一方、この制度により傷つけられた国々は、公正を求めて戦うべく団結し始めています。

今月初めにスイス・ジュネーブで開催された、第3回アフリカ系の人々に関する常設フォーラム(PFPAD:the Permanent Forum on People of African Descent)では、第二次世界大戦後のニュルンベルク裁判をモデルとした、賠償をめぐる国際的裁判が提案・議論されました。

大西洋横断奴隷貿易は現在、世界の歴史において最大の犯罪の一つとされています。 黒人に対するこのホロコーストにより、アフリカでは数千万人もの人々が故郷から連れ去られ、自身を平等な人権を持つ住民としてすら扱わない西側の国々へと強制的に移住させられました。

賠償金の支払いは、このようなアフリカ系黒人が抱える根深い経済的不平等の問題に対処し、奴隷制により引き起こされた世代を超えての損失の部分的緩和を助ける可能性があります。

賠償金支払いまでの道程で問題が起きるであろうことは間違いありません。しかし、PFPADで国際的裁判設置の意見がまとまったことは、この件をめぐる対話が拡大していることを物語っています。

このような対話は、構造的な不平等が続いている限り止まることはないでしょう。特にカリブ海諸国は、残念なことに未だに、世界銀行や国際通貨基金のような金融機関からの植民地主義的の支配下を受けています。

アメリカでは、警察の黒人に対する行動が問題となっていますが、これは、奴隷制時代に黒人をパトロールで監視していた精神が残っているためと思われます。さらに同国刑務所のシステムは、「新しい形の奴隷制」と呼ばれるもので、黒人が多くを占めるその収容者は、多くの場合で安価な労働力として搾取されており、民営刑務所に関わる企業の利益となっています。

黒人への非人道的な扱いは、アフリカ系の人々が最も多く奴隷として連れてこられたブラジルでも見ることができます。

しかし各国の政治団体は、奴隷制問題を巧妙に避けています。

リベラル派は、ユダヤ系をはじめとする各コミュニティでの公正確立を支持するものの、黒人については沈黙しています。彼らに望める最大限の行動は、実現しないような対人種差別措置を提案するか、警察の黒人に対する対応の改善を求めるデモに、プラカードを持って時々参加する程度でしょう。

一方の右派も、継続的に黒人を貶めており、時には、奴隷制がアフリカ人や移住させられた黒人に文化的利益をもたらしたとさえ主張しています。

ヨーロッパの発展における特徴の一つは奴隷制であり、その代価は、黒人が絶えず払い続けているのです。

アフリカ人およびアフリカ系黒人は、賠償を求めています。この賠償とは、経済的援助ではなく、支払われるべき負債を意味します。

アフリカとカリブ海の諸国が賠償を求めて裁判を行おうとしていることは、良い着想だと言えます。この考えは、黒人解放運動指導者のマルコムX氏も暗殺される前に思いついていたものでした。賠償請求のコミュニティは現在、組織される過程にあり、この件をめぐる連携は、日に日に強化されています。

イギリス国教会は、奴隷貿易という過去の間違いを正すための基金設立に1億ポンドを拠出するとしました。

世界中の独立した公正を求める社会は、このような働きかけを支持していくべきでしょう。

 

この記事は、英ロンドンを拠点とするメディア「TheNewArab」に掲載されたリチャード・スーダン氏の寄稿「Black people globally are demanding reparations. It's time politicians listen」を要約したものです。

 

 


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