米諜報機関に筒抜け? WhatsAppのプライバシーに疑念
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米諜報機関に筒抜け? WhatsAppのプライバシーに疑念
メッセージアプリのWhatsAppはメッセージを暗号化していると謳っていますが、そのプライバシー保護に疑念の目が向けられています。
【ParsToday国際】デジタルセキュリティやユーザーのプライバシー保護がこれまで以上に注目される中、WhatsAppの運営元である米メタ社の幹部の1人が米軍の要職に就いたというニュースが大きな関心を集めました。
メタの最高技術責任者(CTO)であるアンドリュー・ボズワース氏は、6月に少佐の階級で米軍テクノロジーアドバイザーの座に就任しました。ボズワース氏が配属されたのは「デタッチメント201」と呼ばれる特別部隊で、OpenAIやPalantirといった大手テック企業の幹部たちで構成されており、人工知能(AI)や仮想現実(VR)などの先端技術を軍に導入することを目的としています。
ボズワース氏は入隊式において、「自分の能力が許す限り、軍を支援する」と誓いました。この協力が始まった背景には、アメリカ政府の公的デバイスでのWhatsApp使用が、安全保障上の理由から禁止されたという事実があります。下院のサイバーセキュリティ部門は数日前、WhatsAppを「高リスク」と判断し、外国機関によるアクセスの可能性、保存データの暗号化の脆弱性、データ保護方針の不透明さを理由に、政府職員にはMicrosoft Teams、Signal、iMessage、FaceTime、Wickrなどの使用を推奨すると発表しました。
暗号化されていても安全とは限らず
WhatsAppは、エンドツーエンド暗号化を採用しており、メッセージの内容は送信者と受信者だけが閲覧できるようになっています。このため、安全性が高いと考えられがちですが、それでもホワイトハウスはこのプラットフォームの使用を禁止しています。
2014年にメタ(旧Facebook)の傘下に入ったWhatsAppは、メッセージそのものではなく、付随情報である「メタデータ」を保存しています。メタデータには、送信時間、送信者と受信者の電話番号、おおよその位置情報などが含まれます。アメリカの元サイバーセキュリティ専門家であるエドワード・スノーデン氏によりますと、こうしたメタデータは、ユーザーに対する広範な監視を可能にする強力な手段になり得ると指摘されています。
WhatsAppのデータ収集とアメリカ政府との関係
WhatsAppは、エンドツーエンド暗号化を根拠にメッセージ内容の安全性を強調していますが、実際には収集される情報はそれだけにとどまりません。FBIの報告によりますと、WhatsAppは電話番号、氏名、プロフィール写真、連絡先リスト、参加しているグループ、使用端末の機種、OSの種類、言語設定、そしてGPSが有効な場合は位置情報までも収集しているとされています。
これらの情報の一部は、メタの他の製品―たとえばFacebookやInstagramなど―と共有され、ターゲティング広告やユーザー行動の分析に活用されています。このようなデータの広範な収集は、テック企業と政府機関との間にある協力関係への懸念を引き起こしています。
スノーデン氏が暴露した機密文書によれば、Google、Apple、Microsoft、Facebookといった大手企業が「PRISM」と呼ばれるプログラムのもとで、アメリカ国家安全保障局(NSA)と協力していたとされています。この協力により、NSAはユーザー情報への大規模なアクセスを可能としていました。これらの文書は、FacebookがまだWhatsAppを買収する前の時期に関するものですが、このような前歴は、ユーザーの信頼を大きく損なう要因となっています。さらに、CLOUD法のように、アメリカ政府が国外のサーバーにあるアメリカ市民のデータにもアクセスできる法律が存在することが、WhatsAppに対するプライバシー懸念を一層深めています。
懸念はWhatsAppにとどまらず
こうした情報がメタやアメリカ政府だけに留まらない点も見逃せません。2019年には、イスラエルの企業が開発したスパイウェア「ペガサス」が、WhatsAppの脆弱性を利用してスマートフォンに侵入していたことが明らかになりました。この事実はWhatsApp自身が公表し、NSO社を提訴しましたが、それでもこの事件は、エンドツーエンド暗号化でさえ、高度なサイバー攻撃の前では無力であることを証明するものでした。
単なるメッセージアプリではない― デジタルの自由への脅威
2021年、WhatsAppはユーザーにさらなるデータ共有を求める新ポリシーを導入し、プライバシー保護団体から強い批判を受けました。フランスの弁護士アルテュール・メサウド氏はこのポリシーを「違法」と呼び、「ユーザーはメッセージアプリの利用とプライバシー保護のどちらかを選ばなければならなくなっている」と警告しました。
この抗議の波は、数百万人規模のユーザーがSignalなどの代替アプリへ移行するきっかけとなり、イーロン・マスク氏も「Signalを使おう」と呼びかけました。専門家の間でも懸念の声が上がっています。ハーバード大学のサイバーセキュリティ研究者クリスティン・クレメンス氏は、「Facebookの所有下にあるWhatsAppによる過度なデータ収集は、ユーザーのプライバシーに対する重大な脅威である」と述べています。
また、電子フロンティア財団(EFF)のデジタル権利専門家であるララ・ウォン氏も、「WhatsAppが収集する膨大な量のデータは、ユーザーのデジタルな自由を深刻に脅かす」と警告しています。
結論として、WhatsAppは日常的なコミュニケーションのためのシンプルなアプリに見える一方で、その背後には多くのセキュリティ上の問題や、重大なプライバシーの懸念が隠されています。ユーザーのメタデータから技術情報、位置情報に至るまで、あらゆるデータが監視、悪用、あるいはサイバー攻撃の対象となる可能性があるのです。