米ロの核競争の激化が新START条約の将来に及ぼす影響とは?
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ドナルド・トランプ米合衆国大統領(右)とウラジーミル・プーチン・ロシア大統領
アメリカ・ロシア間で唯一残された核軍縮の枠組みである「新戦略兵器削減条約」・新START条約の来年2月の失効を前に、この両国の間では核をめぐる緊張が高まり、この条約の将来は先行き不透明となっています。
【ParsToday国際】新STARTが来年2月に期限切れとなる中、ドナルド・トランプ米大統領とウラジーミル・プーチン露大統領は数週間にわたり核実験再開をちらつかせるなど、緊迫化を扇動する形となっています。
プーチン大統領が去る10月下旬にロシアの新たな核ミサイル実験を発表した後、トランプ大統領は30年ぶりに米国による核実験を命じたと発表しました。またロシアも核実験再開を検討していると反論するなど、米ロ両国からの攻撃的な言葉の応酬は世界的な懸念を引き起こしています。
両国は現在、2026年2月4日に失効する新START条約の失効問題に焦点を絞っています。新STARTは2010年に米国とロシアの間で署名され、ICBM大陸間弾道ミサイルと戦略的爆撃機に搭載される核弾頭の数を制限することを目的としていました。この条約は、両国に対しICBM、SLBM潜水艦発射弾道ミサイル、爆撃機などの運搬システムに搭載される核弾頭の数を最大1550個に制限しています。新START条約には査察メカニズムと信頼醸成メカニズムも盛り込まれ、二大国間で現在も有効な最後の核軍備管理協定とされています。
ジョー・バイデン前米大統領によって5年間延長されたこの条約は、期限切れが近づいているものの、代替協定に関する進展は見られないままです。トランプ大統領は当初、プーチン大統領の申し出を受けて延長に同意していましたが、複数の報道によれば、その実現に向けた真剣な協議は今のところ行われていません。しかし、マルコ・ルビオ米国務長官は、これに関して予想されるロシアとの協議が進行中であると表明しています。
激化する核競争
近年、特にウクライナ戦争勃発以降、米露関係はますます緊迫化しています。米露間の核競争の激化により、新START条約の将来は崩壊の危機に瀕しています。2つの超大国間の最後の核軍備管理協定とみなされるこの条約は、政治的・軍事的緊張によって極めて脆弱化しており、その延長や完全実施の可能性は低下する一方です。実際に、ロシアは2023年に新START条約への参加停止を発表しました。そして米国も、新たなミサイルシステムの開発や実験の実施を通じて、核競争への復帰を明確に示しています。
米ロは核兵器の近代化を目指していますが、これは新STARTの精神に反するものです。専門家らは、1991年以来初めてとなるこの協定の未更新は、長距離核兵器の無制限な配備を許し、誤解や誤算を招き、危機リスクの増大につながりかねないと警告しています。また一部のアナリストの間では、現在の核兵器保有量の上限維持のための1つの政治的合意こそが即効性があると考えています。同時に、米共和党による協定更新拒否の圧力は高まっているものの、トランプ大統領はロシアだけでなく中国に対しても核兵器の制限と管理に関心を示しています。
新START条約の将来について想定されるシナリオ
1. 条約の完全崩壊:緊張が続く中、この条約は2026年2月に更新されずに失効する可能性が高い。これは、核兵器に対する最後の正式な制限の終了を意味する。
2. 短期延長:一部のアナリストは、米ロが本格的な軍拡競争を回避すべく、この条約の短期延長に合意する可能性があると見ている。実際にプーチン大統領は、1年間の延長を提案している。
3. 新たな法規範の再設定: 米国とロシアは、現行条約の維持ではなく、現在の地政学的状況や中国などの他国の存在と一致する新協定の設定を目指す可能性がある。
世界の安全保障への影響
軍拡競争のリスクの増大:新STARTの破棄・崩壊は、核弾頭の製造と配備における無制限競争につながる可能性がある。
軍備管理システムの脆弱化:新STARTの終了は、核軍備管理システムの最後の柱の破壊を意味することになる。
国際的な不信感の増大;米ロ以外の他国は自国の兵器拡充化の必要性を感じる可能性があり、世界の安全保障が脅かされる。
結論
新START条約の失効と核実験の増加により、世界は数十年ぶりに核兵器が無制限に配備される可能性に直面することになります。これにより、条約の延長あるいは、新たな協定の策定かの緊急の決定が迫られており、遅延は戦略リスクの増大と世界規模での情勢不安につながる可能性があります。しかし、米ロ間の核競争の激化により、新START条約の将来は先行き不透明な状況に陥っています。短期的な延長や協定の見直しの可能性はあるものの、この条約が完全に崩壊し、新たな軍拡競争が始まる可能性は極めて現実味を帯びてきています。この状況は、両国間の関係のさらなる緊迫化につながるとともに、世界の安全保障を危険にさらすことになるのです。

