欧州は実行不可能な約束でウクライナ戦争を終結させられるか?
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ウクライナでの戦闘が激化するにつれ、4年目に突入したウクライナ戦争の終結に向けた政治的な動きが高まっています。
(last modified 2025-11-22T11:05:50+00:00 )
11月 22, 2025 13:05 Asia/Tokyo
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    欧州は実行不可能な約束でウクライナ戦争を終結させられるか?

ウクライナでの戦闘が激化するにつれ、4年目に突入したウクライナ戦争の終結に向けた政治的な動きが高まっています。

米国の新興メディア・アクシオスや政治特化メディア・ポリティコなどのニュース筋は、トランプ米大統領が提案した28項目の停戦計画について報じています。アメリカからからEU、ウクライナにまで至る報道は、ウクライナ戦争終結に向けたトランプ大統領の「28項目の計画」が単なる提案以上のものであることを物語るとともに、欧州安全保障秩序の再構築および、欧州東部の国境におけるウクライナの位置づけの再定義を狙った組織的な取り組みだと言えます。またこの計画は、ウクライナからは公然と反対され、また欧州からの懐疑的な見方、そしてロシアからの慎重な反応に直面しています。一方、EUはウクライナに「夢を売り込み」続ける路線を進みながら、EU内で政治的な後ろ盾がなく戦場でも実現不可能な約束を公言しているのです。

この枠組みにおいて、トランプ氏提案の28項目の計画は「平和と欧州安全保障の再編のための枠組み」と表現されています。アクシオスに加えてロイター通信、英フィナンシャル・タイムズなどのメディアによれば、米国の計画は以下の3つの主要な骨子に即したものとなっています。第1の点は、ウクライナ領土の一部をロシアに割譲することであり、それにはロシアの支配下にない地域も含まれます。第二の点は、ウクライナの軍事力の半減と軍備制限、そして第3の点は将来におけるロシアからの攻撃防止という米国からの保証提供です。

ウクライナは、この計画を「実行不可能」かつ「絶対に受諾できない」として非難しています。ウクライナ当局者はこの計画を「あまりにも旧態依然とした繰り返しが多い」もので、実際にはロシア政府の当初からの思惑だと見ています。加えて、ゼレンスキー・ウクライナ大統領と駐トルコ米大統領特使との会談が取りやめになったことは、米・ウクライナ間の亀裂の深さを如実に物語っています。

複数の欧州諸国の支持を得ているゼレンスキー大統領は、代替案を提示するためにトルコ首都アンカラを訪れたものの、米大統領特使との協議を拒否しただけでなく、米国当局者によれば、ウクライナ国家安全保障会議との以前の合意からも離脱したということです。この行動は、ウクライナが米ロの接近を恐れていることを裏付けています。こうした中で、ウクライナ側は自らにとって戦況・形勢が不利になってきている中、押し付けられた合意への署名により歴史に名を残したくないと考えています。

一方で、EU欧州連合内でも不協和音が続いており、カイア・カラス外務安全保障政策上級代表をはじめとするEU当局者は「いかなる計画の策定もウクライナと欧州が参加していなければならない」と強調し、舞台裏での米ロ交渉への反対を表明しています。EUは、大きな課題に直面しアメリカの支援・同調なしにはもはや対ウクライナ支援を継続できない状況におかれている中、トランプ大統領の新たな計画に躊躇的な反応を示しています。

EUは政治的に弱い立場にあり、内部危機、極右への懸念、EU圏拡大をめぐる見解の対立、そして対ロシア直接対決には突入したくないという思惑に苦悶しています。米政治専門誌フォーリン・ポリシーはこれを「ウクライナに対するヨーロッパの夢売り」と表現しています。EU加盟プロセスの促進という美辞麗句的な約束には汚職や改革の失敗への批判、そして新規加盟の受け入れ準備不足への絶え間ない警告がつきまとっています。

EUはウクライナを勇気づけた後で、腐敗や民主主義制度の弱体化、そして市民社会への圧力に関する年次報告書で、その希望を打ち砕いている格好です。結局のところ、EUからの真のメッセージは、戦争が続きウクライナ領土の一部がロシアの支配下にある限り、ウクライナのEU加盟は「百年河清を俟つ」状態のままであるということなのです。

同時に、欧州各国の政府も戦争の今後に懐疑的な見方を示しています。フランスはEU拡大を懸念し、オーストリア、チェコ、スロバキアはウクライナのEU加盟受け入れに難色を示しているほか、ドイツでは世論調査でリードしている極右政党AfD「ドイツのための選択肢」がウクライナのEU加盟に反対しています。こうした政治情勢の中、アメリカの対ロシア懐柔計画により、欧州は真剣に反対もできず、代案も提示できないという状況に追い込まれています。

しかし、ロシアはこの計画に自国の要求の大部分が含まれていることから、これを正しい方向への一歩だと捉えています。ロシア政府の視点からすれば、米国が「新たな欧州安全保障体制」について議論する意思を示すことは、ウクライナにおける軍事的圧力戦略の成功の兆しになると考えられます。ロシアは、次回の米ロ首脳会談までにハイレベル交渉のための文書を準備し、現地での成果を固め、西側諸国との関係の再定義に向けた新たな段階へと進むことを期待しています。

全体として、トランプ大統領が提唱した28項目の計画は、アメリカが政治的合意によってウクライナの消耗戦の終結を目論んでいることを示しています。もっとも、その合意はウクライナやヨーロッパにとっての利益にはならず、米国の支出の制限、軍事上の約束の削減、そして対ロシア取引への道を開くために計画されたものなのです。

ウクライナはこの計画に対し自らの存亡の危機を感じており、欧州は交渉で蚊帳の外になることを懸念し、ロシアは自らの勝利が正式承認されることを期待しています。一方で、最も大きな打撃を受けているのは、西側諸国の戦略におけるウクライナの立場です。ウクライナはEUからの漠然とした夢に支えられている一方で、アメリカから押し付けの妥協案の受諾を迫られた形となっているのです。

この状況は、ヨーロッパが売り込む願望とアメリカが追求する合意の狭間でウクライナの行動範囲がこれまで以上に狭まっていること、そして西側諸国の支援で勝利するはずだった戦争が今や、おそらく世界のどこよりもロシアで最も祝われるであろう合意に向かっていることを物語っています。

 


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