視点
米仏間の緊迫化と、米豪駐在仏大使の召還
アメリカとフランスの関係の緊迫化と同時に、フランス政府が米ワシントン駐在の仏大使を召還しました。
フランス政府派はまた、アメリカに対する抗議の証として、オーストラリア駐在大使を本国に呼び戻しています。
フランス政府は今月16日、同国企業とオーストラリア政府との間での潜水艦製造契約破棄を引き起こすことになった、米英豪による新たな安全保障協力の枠組み「オーカス・AUKUS」の発表への、公然とした不満を表明していました。
この3者協定の締結を受け、在ワシントン仏大使館にて今月17日に開催が予定されていた、仏軍が英軍を破り米国の独立につながったチェサピーク湾の戦いの240周年記念関連の祝賀イベントは中止されています。
特に米仏間の同盟強化のアピールを目的に予定されていたこの式典の主催者側に当たるフランスのある当局者は、「今回の新たな3者協定が発表されたことで、この式典はもはや”お笑い草”にしか見えないだろう」と語っています。これに対し、ブリンケン米国務長官は事態の収拾を狙い、「アメリカは対仏協力関係を特に価値あるものとみなし、大切にしている」と言い繕いました。
どうやら、大西洋をはさんだ両側に位置する2つの国の関係は、またもや新たな緊張の関係に入った模様です。バイデン米大統領は就任した際、声明や演説の中で何度も、トランプ前大統領の政策や行動が原因で、大西洋を隔てて位置する米欧の関係が望ましくない状況にあり連携に不協和音が生じていることを指摘し、これに関する見直しと欧米の意見摺合せプロセスの開始を約束していました。
しかし、今となってはこうした表明が威勢のいい掛け声だけに終わったことがはっきりしています。また実際にアメリカ政府は、行動の上では依然として、懸念を与える自国の利益に基づいた一方的なやり方を、ヨーロッパの利益を斟酌せずに、政策や措置の指針に置いているのです。
こうした方針の代表例が、アフガニスタンをめぐるバイデン大統領の行動です。バイデン大統領は西側諸国の軍のアフガン撤退に際しては、NATO北大西洋条約機構のメンバー国の見解を完全に度外視した形となりました。ヨーロッパの視点から見て、アフガンでの体験は、今後地域・国際問題においてアメリカに追従する際には、より慎重な対応がなされるべきであることを証明した、とされています。
現在、バイデン政権は再び、アメリカの利益利益のために、EU圏内第2の重要な自らの同盟国であるフランスに、大打撃を与えたことになります。アメリカは、インド・太平洋地域の戦略的舞台において、英豪という旧来からの2大同盟国と新たに連携したことで、原子力潜水艦の製造技術をオーストラリアに提供する用意を整えました。
この行動は、アメリカの同盟国に精密兵器技術を供与するという点で、異例の措置とされています。アメリカは1958年、原子力潜水艦の製造技術をイギリスに提供していました。そこから言えるのは、今回の措置が、米国のインド太平洋地域での安全保障戦略における、オーストラリアの重要性を示すものだということです。実際アメリカは、オーストラリアの軍事力のさらなる強化により、この旧来からの同盟国をこの地域での中国の行動に対抗する極として提示しようとしています。
イランの政治評論家のレザー・ゴベイシャーヴィー氏は、「米英は中国への対抗措置の中で、オーストラリアを中国の軍事行動への対抗の最前線に据えようとしている」とコメントしました。
しかし、それでもこうした措置の代価は、特にフランスをはじめとするヨーロッパ諸国に対しては非常に大きなものとなりました。12隻の原潜製造を約束したフランス・オーストラリア間の契約が取り消されたことは、フランス側にとって経済・威信面での打撃とみなされます。
実際、米仏関係が良好であるというバイデン政権関係者の発言からして、フランスは決して、大西洋を越えた再度の同調を主張したバイデン政権側からこのような打撃を受けることは、予想していなかったのです。
ルドリアン仏外相は、この行動を「フランスに対する想定外のどんでん返し」、かつトランプ氏の行動を想起させる「背信行為」だとしました。
一方、EUは、米英およびオーストラリアによる安全保障協力の新たな枠組みを批判し、今月17日には中国の権力増大のけん制、そしてインド太平洋地域での駐留強化に向けた、正式な戦略を発表しました。このことからは、ヨーロッパ側がアメリカの独りよがりな政策に照らし、この戦略的地域における自らの独自の戦略を追求しようとしていることが見て取れるのです。
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