視点
世界における米ドル備蓄量の減少
世界各国の中央銀行における金の備蓄量が増加し、2021年には過去31年で最大量に達した一方で、各国の米ドルによる備蓄量・資産は激減しています。
金の国際調査機関、WGCワールド・ゴールド・カウンシルの報告によりますと、過去10年間で各銀行は4500トン以上も金の備蓄を増やしています。
昨年9月までの時点でこの総量は既に約3万6000トンと報告されており、これは1990年以来最大量とされ、過去10年間と比べて15%の増加を示しています。
同時に、過去10年間で各国の米ドルによる外貨備蓄は大きく減少し、2020年には過去四半世紀で最低水準に落ち込みました。
アナリストらは、各国の中央銀行、特に経済新興国において金への方向転換の傾向が続いており、このことはドルに依存した金融システムへの懸念を示しています。
各国の中央銀行や政府系金融機関は、2008年のリーマンショック以降は金の備蓄の増量に力を入れてきました。これによりアメリカ政府の発行する資産から脱却し、その結果米ドルの資産価値が減少した形となっています。
三菱UFJ信託銀行のマーケットアナリスト、豊島逸夫氏は「米ドルやこれに対する世界的な信用度は著しく下がっている」と語っています。
IMF国際通貨基金は昨年4月、「昨年の第4四半期に世界の外貨準備における米ドルの割合は59%にとどまり、これは過去25年間で最低の水準となった。その一方でユーロは21.2%上昇し、中国人民元は2.3%上昇している」と発表しています。
ドルの割合の減少は、その指数が2010年以来最大の下落を示した時期と重なり、最も優れた外貨準備通貨としての米ドルの地位の維持に赤信号が点灯しています。
米国は常に、他の国に圧力をかけるための主要な国際通貨としての手段としてのドルの利用を、自らの措置の筆頭に掲げてきました。アメリカ政府は、各国の企業や銀行および国際金融システムの対ドル依存をてことして繰り返し使用し、それによって他の国々にアメリカの要求への服従を強制し、米国が望まない、もしくは米国の利益とならない政策や行動の追求を阻止する、といった行動に出ています。
この問題は、反米諸国はもちろん、同国に同盟する欧州諸国からも反発を招いた上、国際社会を次第に、特に反米的な国やアメリカのライバル国をはじめとした他国に対する経済、貿易、金融面での圧力行使の手段としてのアメリカの米ドル利用継続をやめさせるべきだ、という一致した見解へと導くこととなりました。
金融・経済の専門家であるアラスデア・マクラウド氏は、「米国はドルを武器として使用している。米国は、国際金融システムにはまだドルの代替手段がないとを知っている故に、この問題を利用している」との見解を示しています。
世界貿易からのドル排除プロジェクトに着手している国々は、制裁回避による他の諸国との対外貿易円滑化を図ったり、または世界銀行の外貨準備における自国通貨のシェアの増加を狙っています。
現在、ロシアと中国が他国に先駆けて、金融・通商取引でドルの代わりに自国通貨の使用に踏み切っています。ロシア財務省は2021年7月、ドル脱却化に向けて声明を発表し、約650億ドルを含む自らの国家資産からの完全なドル排除および、他の通貨への転換を宣言しました。
また、ロシアと中国はドル排除に向けてこの数年重ねてきた相互間の協議の結果、この目標を達成し、2020年の第1四半期は相互間貿易でのドルの割合を50%以下にまで引き下げるという目標を達成しました。
ロシアと中国に加えて、他のいくつかの国もこれに類似したパターンを踏襲しており、経済・通商取引におけるドルの割合の引き下げに踏み切っています。こうした傾向は、長期的に見て米ドルの国際的な地位に大きな打撃を与えるものと思われます。