ラマザーンへのいざない(9)-アブーザルの逸話
(last modified Wed, 22 May 2019 19:30:00 GMT )
May 23, 2019 04:30 Asia/Tokyo
  • アブーザルの逸話
    アブーザルの逸話

今回は、逸話をお届けすることにいたしましょう。

ある夏の終わりのことでした。現在のサウジアラビアに位置するメディナでは、人々は厳しい暑さと干ばつに苦しんでいたものの、それも終わりを迎えようとしていました。それは、そろそろナツメヤシの収穫期が到来しており、それにより人々は一息つくことができることになっていたからです。このような中で、イスラム預言者ムハンマドのもとに、ローマ人がイスラム教徒を攻撃しようとしているとの知らせが届きました。そのため、預言者はすべての人々に対し、戦争と防衛に向けて準備を整えるよう指示しました。

 

人々は、大変厳しい状況に置かれていました。干ばつに見舞われている一方で、厳しい暑さに加えて、メディナから現在のシリア一帯を指すシャームまでの長い道のりは耐え難いものでした。表向きにはイスラム教徒を装う偽善者たちが、預言者から人々を遠ざけるため、預言者の命に従わないようそそのかしました。しかし、そのような状況においても、人々は神の預言者を固く信じ、敬愛するとともに、どのような状況のもとでも預言者に従い、偽善者の言うことには耳を傾けませんでした。3万人の兵士による軍隊が結成され、人々は暑さや干ばつなど気にせず、ローマ人に対抗するために砂漠の中を進みました。

 

厳しい暑さの中で、多くの人々は徒歩で進軍していました。食糧も十分ではなく、このことは人々を圧迫していましたが、信徒たちはしっかりと歩みを進めていました。その中で、信仰心の弱い人々のグループは、ためらいを感じ、メディナに戻り作物を収穫して食べようか、それともこの厳しい道を歩み続けてローマ人と戦おうか迷っていました。こうした考えにより、一部の者は途中で脱落し、メディナへと戻ってしまいました。そこで、預言者の教友たちが預言者に、誰それがメディナに戻ってしまったと告げました。しかし、預言者は次のように述べたのです。

 

“放っておくがよい。彼らの中に善良な者がいれば、その者たちは間もなくあなた方のところに戻ってくるはずだ。もし、そうでなければ、神があなた方を彼らの悪から解放して下さったことになる”

 

預言者の教友の中に、アブーザルという名の人物がおり、彼は聖なる戦いを目的に、ほかのイスラム教徒たちとともに、メディナの町から出てきました。しかし、途中で、アブーザルの乗っていたラクダが力尽きてしまい、彼がいくら促してもラクダは歩こうとしません。そのため、彼はほかのイスラム教徒の一団から遅れをとってしまいました。この様子を目にした教友たちは、預言者にアブーザルも戻ってしまったと告げました。しかし、イスラムの預言者はまたもや、次のように答えました。

 

“そのままにしておくがよい、もし、アブーザル自身が善良な人間であれば、彼は間もなくあなた方のもとに戻ってくるだろう。そうでなければ、神があなた方を彼の悪から解放したことになる”

 

アブーザルは、仲間の一行に追いつくためにラクダを歩かせようとしましたが、やはりだめでした。そこで、彼はやむなく徒歩で残りの道を進む事にし、自分の荷物を背負って歩き出しました。灼熱の太陽がアブーザルに照りつけ、彼は強いのどの渇きを覚えたものの、預言者とその教友たちの一行に少しでも早く追いつくことだけを考えていました。さて、さらに歩き続けていると、空に一筋の雲が見えました。どうやら、雲の向こうは雨が降っているようです。そこで、アブーザルは雲の方向に進路を変更しました。さらに進んだとき、大きな石に出くわしました。その真ん中にあるくぼみには水が溜まっており、彼はそのうちのわずかを飲み、残りは自分の持っていた皮袋に入れました。そのとき、アブーザルは預言者もきっとのどが渇いているだろうから、この水を預言者のところに持っていったほうがよいと考えました。彼は、何度も皮袋を肩にかけ、焼け付くような暑さの中で、喉が渇いたまま歩き続けました。

 

アブーザルは、遠くにイスラム教徒の軍勢を目にし、喜びを感じて歩く速度を上げ、残りの道を進みました。一方で、イスラム軍の兵士の1人が、一人の男が向かって来るのに気づき、預言者にそれを伝えました。すると、預言者は次のように答えました。

 

“これがアブーザルだったらどんなによいだろう” 

 

兵士の1人が近づいていくと、男が叫びました。「アブーザルだ」 

アブーザルは、次のように述べました。

 

「実は、ここにくる途中で、大きな石を見ました。その石にあったくぼみの中に冷たい水が溜まっていました。私は、そのうちの少しだけを飲みましたが、それ以上は飲まないで、それを預言者に飲んでもらおうと考えたのです」

 

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