8月 07, 2016 14:45 Asia/Tokyo
  • 海と大洋の汚染
    海と大洋の汚染

今回は、海や大洋の汚染について考えることにいたしましょう。

今日、自然環境の健全性を脅かしている問題の1つは、海や大洋の汚染です。クウェート地域海計画の第1条によりますと、海洋環境汚染とは人間が直接、あるいは間接的に海洋環境にエネルギーや物資を投棄することであり、それによって生物資源に対する弊害と同様に有害な影響、人間の健康にとっての危険、漁業などの海域での活動における支障、海水の利ができないほどに海水に弊害を及ぼすこと、あるいはこれらに類似した危険が起こる可能性が出てきます。

 

こうした定義づけから、今日、海や大洋は日々増大する汚染の危機に瀕していると言えます。タンカーの事故などによる原油の流出、産業排水、家庭用ごみ、家畜のし尿、鉱山や産業廃棄物、化学廃棄物の海洋への流出が、海洋汚染の最も重要な要因とされています。このため、海洋環境の破壊は、海洋に存在する天然資源の乱用のみに限られず、人間が海洋を無限大のごみバケツと見なしていることでもあるのです。

 

複数の調査によれば、海洋汚染の75%以上は陸地で発生しています。これらの汚染は、余剰物質が直接、河川を通じて陸地から海洋に流出するというもので、その主な原因は農業廃水や工業排水のための下水溝がないことから、汚水が浄化されないま河川や海洋に流されてしまうことにあります。1997年の国連の報告によりますと、大西洋に排出される下水の70%は、浄化処理が全くなされていないということです。地中海地域に関する国連の環境報告の1つによれば、大都市からは17億立方メートルの下水が排出されているものの、その75%は浄化されていないとされています。

 

もっとも、こうした問題の発生においては、北の裕福な国と南の貧困国はいずれも似たような条件を有しています。発展途上国は、人口の激増と財政的、専門的な可能性の不足により、自然環境の汚染の問題を食い止められないでいます。例えば、地中海に面したエジプトのアレキサンドリア湾は、汚水の排出により毒化しており、中でもアブキャル投錨地は生物学的にはもはや死んだ場所とされています。

 

化学物質でできた農薬により、害虫や雑草、農業にとって有害なそのほかの要素を排除することで、一部の人々が十分な食料を得られるものの、多くの人々はその弊害に気づいていないことが殆どです。ユネスコ政府間海洋学委員会・国際水文学計画の元責任者レイ・グリフィス氏は、次のように述べています。「こうした化学物質の余剰分は、陸地から河川へ、そして最終的には海洋に流出し、海中生物、特に稚魚や稚貝に影響を与える可能性がある。さらに、水面に浮かぶ植物の生活体系にも影響を及ぼし、それらの植物の光合成をかく乱するかもしれない」

 

さらに、化学肥料に含まれるリン酸塩や硝酸塩は、間接的なルートにより海洋に流れ出し、赤潮などの原因となるプランクトンの異常な繁殖を引き起こします。海水から養分を摂取する生物の体内では、プランクトンに含まれる毒物が、魚の成長と同様に雪だるま式に蓄積されることになり、それらを食することは危険です。こうしたプランクトンはまた、水中に解けている酸素を過剰に消費することから、もともとその海域に生息していた生物を窒息死させる可能性もあります。このように、この種のプランクトンが存在する海域では、その他の海中生物の生活が脅かされ、それらが次第に絶滅していきます。

 

学者らは、最近の調査において、海中エコシステムが死滅している400以上の海域を割り出しました。例えば最近、国連環境計画は、「地中海および黒海では水深150メートルから200メートルに至ると、もはや酸素は水中に存在せず、この問題が海中生物、特に海中のそれほど深くない海域に生息し、繁殖する各種の魚類をはじめとした生物の生息場所を狭めている」と警告しています。

 

化学肥料や毒性のある化学物質に加えて、産業による汚染も海や海洋に深刻な被害を与えています。例えば、紙の原料となるパルプの生産者は、年間30万トンの汚染物質を含む廃棄物や塩素、水銀をバルト海に放出しており、産業による汚染を飽和状態に至らせています。世界のあらゆる場所において、重化学工業は工業排水を河川や海洋に、また亜硫酸ガスなどの汚染ガスを大気中に放出しています。例えば、地中海には年間660億立方メートルの工業排水が放出されているのです。世界の海洋は、重油や洗浄剤、リン酸塩、さらには水銀や鉱産資源の採掘や溶解のプロセスを通して、カドミウムや鉛、銅、すずといった重金属の多くを吸収してしまっています。

 

河川を通じて海や大洋に流れ込む汚染物質以外にも、大気中の汚染物質のおよそ3分の1が降雨や降雪により直接海洋に入り込んできます。人間の活動により1年間に生産される70億トンの二酸化炭素のうち、少なくとも20億トンが海洋に吸収されています。大洋は、大気中に生じるガスを自然に浄化しますが、海洋によるこうしたリサイクル作用は限られており、ある決まった量しか空気中の有毒ガスを受け入れられないのです。

 

固形廃棄物や毒物を含んだ廃液、プラスチック製廃棄物をはじめ、その他の多くの廃棄物が陸地から水域に流出し、或いは海路を航行する船舶により海洋に投棄されます。これらも、海中生物にとって非常に危険な結果をもたらす汚染の1つであり、時には海中生物の死滅につながる可能性もあります。海中に生息する哺乳類や魚類、鳥類は、これらをエサと間違えて摂取してしまいますが、こうした廃棄物を食べることは、彼らにとって致命的です。

 

ある特定の地域では、海流によってプラスチック系やその他の廃棄物が集積し、その結果廃棄物に覆われた地域が出来上がってしまっています。北太平洋では、さまざまな廃棄物が大量に蓄積し、アメリカ・テキサス州の面積にも相当する範囲にわたる、北太平洋廃棄物循環サイクルが形成されています。もっとも、このような現象は北太平洋のみに限られたものではありません。

 

プラスチック系廃棄物は、自然環境における最大の懸念要素の1つとされてきましたが、これまで、その正確な量は明らかにされていません。しかし、近年になって世界の6つの国々の研究者グループが、海洋レベルでの調査により入手したデータを集め、分析しています。こうしたデータの分析により得られた結果によれば、全世界の海洋には5兆以上もの、大小様々な大きさのプラスチック系廃棄物が投棄されており、これらの廃棄物が海流にのって循環することは、世界の海の健全性を強い危険に陥れる可能性があります。

 

大型のプラスチック系廃棄物は大抵沿岸部を、また小さめのものは沖合いの海域を浮遊するのが普通です。学者の見解では、このような状況が長期間にわたって続いた場合、水中生物をはじめとする数多くの生物の生命が危険にさらされるということです。ある自然環境学の研究者は報告の中で、「プラスチック系廃棄物も、原油や重金属、その他の毒物の流出と同様に、水中生物の死亡原因となりうる」とし、その例として、海鳥や海がめのエサとなるクラゲを指摘し、海鳥や海がめが(クラゲと間違えて)小さなプラスチック系廃棄物を飲み込んでしまう可能性があることを挙げています。廃棄物の海洋への投棄が法的に禁じられているにもかかわらず、海洋を航行する船舶から投棄されるプラスチック容器やビニール袋の数は1日に50万個以上に上ると見積もられています。

 

海面を浮遊する廃棄物は通常、海鳥やその他の海中生物の負傷や窒息状態、内臓への支障、感染症や死亡につながります。中には、海鳥などの嘴から釣り人が放棄したプラスチック製の釣り糸が垂れていたり、または死亡した海鳥の内臓からプラスチック容器が出てきた、という事例も報告されています。現在、研究者らはエコシステムの中のプラスチック系廃棄物に存在し、最終的に人間の生活サイクルに入ってくることになる毒物などの汚染物質が、長期的にもたらす影響について調査を行っています。このことから、リサイクル不可能な物質やプラスチック系廃棄物による汚染は、海洋のエコシステムにとって深刻な脅威であり、最終的にはその汚染が人間にも及ぶことになります。これはまさに、現代人が自分や自然環境のために生み出した運命だと言えます。