9月 25, 2016 19:59 Asia/Tokyo

イラン伝統音楽で重要な旋法体系のひとつ、セガー旋法についてお話しすることにいたしましょう。

セガー旋法は、イラン音楽の中で特に日本人に聞きなじみのないメロディだと思われます。その大きな要因のひとつは、音階の中に、半音と全音の中間、つまり西洋音楽には存在しない微分音を多く含むことにあるといえるでしょう。

それでは、セガー旋法は、どのような状況や場所で演奏されることが多いのでしょうか、これについて、イランの歌謡曲に詳しい美術家のナーデル・サッファーリー氏は、次のように語っています。

「セガー旋法はこれまでノウヘハーニーなどといった、宗教的な哀歌で使われることが多く、また、アボルハサン・サバーなどといったイラン音楽の巨匠が死去した際は、セガー旋法の追悼歌が作られた。一方で、昔の市井の音楽家たちは、セガー旋法で、明るい雰囲気をもつ曲をつくり、それに詩をつけて歌っていた。このように、セガー旋法は、深い悲しみと、その真逆の明るさを表現するのに使われていた。とはいえ、市井の音楽家たちの明るい曲にも、その裏には悲しみがあったと考えられる」

セガー旋法の基本的な音の構成は、四分の1低いラの微分音を、曲の中で中心となり、強調される音とするとき、ラの微分音、シのフラット、ド、四分の1低いレの微分音、ミのフラット、ファ、ソとなります。このように、セガー旋法は微分音程が多く、展開によって、ミのフラットが四分の1低いミの微分音となり、音階の中にさらに微分音が追加されます。

先ほど軽く触れましたが、セガー旋法も展開によって、使われる音が変化し、曲の中心となり、強調される音が上がっていきます。ムーイェ、日本語でいうと、悲嘆という曲に入ると、使われる音が高くなり、先ほどの例で挙げた音階にしたがうと、ド、レの微分音、ミのフラットの間を下降するフレーズが強調され、それまで持っていたセガー旋法の雰囲気から少し離れるようになります。これに関して、神戸大学の谷正人準教授は、著書『イラン音楽―声の文化と即興―』で、ムーイェで見られる音の動きと音階の構造は、他の旋法体系にかなり共通して見られ、他のイラン音楽の典型的なイメージを想起させるきっかけとなりうるとしています。

そして、モハーレフという曲に入ると、上昇を続けていた音の高さは頂点に達し、中心となる音は、最初から数えて7度上、つまり先の音階の例ではソにまで上昇します。モハーレフについては、以前お伝えしたチャハールガー旋法でも見ましたが、セガー旋法のモハーレフとフレーズの点で似ており、先ほど提示した音階においては、それまでフラットだったミが、4分の1音上がり、微分音となります。

そして、チャハールガー旋法と同じように、マグルーブ、日本語でいうと「逆の」、「ひっくり返った」という意味を持つ曲に入ります。ここでは、音の上昇が強調されながら、また下降するというフレーズが大変重要視されています。ここで、一時的に序曲の音の構成に戻り、その後最終的にフォルードという音が下降するフレーズが入ることで、元の序曲の構成に戻ることが決定的となります。このように、セガー旋法でも、最終的に元に戻ることが基本的な原則となっています。