自然環境における空気の役割
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自然環境について考える
今回は、生物の存続に重要な役割を果たしている、自然環境の構成要素の1つである空気についてお話することにいたしましょう。
空気は、水や食物、熱や光と並んで、生物の存続に欠かせない5大要素の1つです。人間は、1日に2万2000回近く呼吸し、およそ15キロの空気を必要としています。普通、人間は食物なしで5週間、水なしでは5日間生きられますが、空気なしでは5分さえも生存することはできません。
私たちが吸っている空気は、複数の気体が混合したもので、その内訳は窒素が78%、酸素が21%、アルゴンが0.9%、二酸化炭素が0.03%となっています。動植物や微生物をはじめとした、酸素を必要とする生物の生存には、空気の存在が欠かせません。空気は、太陽から地上に届く温かさを維持するとともに、太陽が放射する有害な紫外線などから土壌を守る働きをしています。
しかし、産業革命の始まり、そしてこの数百年間における科学技術による急速な変化の後、大気汚染の原因となったのは人間でした。化石燃料を使用する工場の煙や車の排気ガス石油採掘の際に発生するガスの燃焼、そして地球の心肺機能とも言える森林の焼却により煙が発生し、これに含まれる大量の炭素が大気汚染の原因となり、地球の存在物の健康を脅かしているのです。
WHO・世界保健機関が、2014年に発表した報告によりますと、2012年には世界でおよそ700万人が大気汚染により死亡したとされており、これは事前の予測の2倍となっています。また、この700万人のうち400万人以上は、調理用の機材や燃料による家庭内の空気の汚染や煙のため命を落としています。この統計からはまた、全世界の都市や村落の戸外での大気汚染により、370万人以上が死亡したことが明らかになっています。
一部の国では、大気汚染で死亡する人の数が交通事故の犠牲者数を上回っています。これらの人々の死亡原因の内訳は、喘息や気管支炎、呼吸困難、心臓発作、そのほかの各種の呼吸器系のアレルギーをはじめとする病気が占めています。もっとも、一部の人々はそのほかの人々よりも大気汚染による被害を受けやすく、そうした人々には年少の幼児や高齢者が挙げられます。
現在、大都市の多くが大気汚染の問題を抱えています。WHOの報告によりますと、大気汚染によりヨーロッパの都市の住民の平均寿命は9ヶ月から2年ほど短縮されているということです。さらに、最近特に大気汚染が悪化しているギリシャ・アテネでの死亡率は通常の何倍にも上り、またハンガリーでは17件の死亡例のうち1件は大気汚染やその影響が原因とされています。この数字は、アメリカの大都市に住む45歳以上の人々については、他の地域よりも13%高くなっています。そして、最も汚染度の高い空気を吸っている地域の人々の、ガンによる死亡率は大気汚染の度合いが低い地域の人々より、50%高いということです。
複数の調査から、大気汚染による最も重要な悪影響の1つは、生殖器官や妊娠中の女性、そして胎児や新生児に対するものであることが分かっています。また、男性を対象とした調査からは、鉛や二酸化硫黄、そして空気中に拡散しているそのほかの有害な粒子などの汚染物質が、不妊の原因となることが判明しています。さらに、汚染物質による胎児への悪影響の例として、低体重での出生、子宮内での発育の遅れ、また胎児の死亡などがあり、これらの最も大きな原因は一酸化炭素や二酸化硫黄だということです。特に妊娠8ヶ月の女性が空気中の汚染物質や炭化水素に触れることは、胎児の成長に直接影響します。こうした現象は、特に工業地帯や大都市で、冬に起こることが多くなっています。
植物も、大気汚染の影響を受けています。自然環境の専門家の調査によれば、空気中の汚染物質により、植物の葉の表面にある気孔が汚染物質から自らを守るために閉じてしまいます。さらに、大気汚染により植物に含まれる葉緑素が失われ、植物や樹木に必要な物質を調達する植物の葉が黄色くなります。こうして、植物や樹木に必要な栄養が行き届かなくなるのです。大気汚染による植物の中毒症状の兆候は、植物がしおれたり、あるいは植物細胞の死亡という形で現れます。汚染濃度が低くても、そうした空気に長期間触れることで、植物の葉が散ってしまい、これにより植物が病気に対して敏感になり、被害を受けやすくなります。このように、大気汚染により植物の光合成や葉の面積が減少し、水を十分に摂取できなくなり、その結果花が咲かず果実が実らなくなります。
専門家の見解では、大気汚染とは大気中に様々な期間にわたり、1種類、或いは複数の種類にまたがる様々な量の汚染物質が存在し、大気を変質させ、人間やそのほかの生物、そして都市構造に弊害を与えることを指しています。既にお話したように、都市部における大気汚染は、産業革命による結果の1つであり、300年前から始まり、産業の拡大と細分化とともに日々高まっています。
石炭や石油、天然ガスなどの化石燃料に基本的に依存し、これらの物質の燃焼により発生した物質が空気中に放出されることで、有害な物質も拡散され、特に人間をはじめとする生物の存続を脅かします。20世紀初頭に、自然環境の破壊と大気汚染の間に関係が見られることが判明したため、先進工業国の多くが非常に有害な物質を制御するために、学術的な研究計画を開始しました。しかし、残念ながら発展途上国の多くにおいては、この問題はそれほど注目されず、こうした国々の大都市における大気汚染は日増しに悪化しています。
大気汚染を悪化させる要素は4つあり、それらは主に工業化により起こります。1つは、大都市の増加と都市文化の拡大、渋滞や人口の密集、急速な経済発展、そしてエネルギーの消費の拡大です。
人間の活動によって生じ、大気汚染の原因となる最も重要な汚染物質は、一酸化炭素、二酸化硫黄、窒素酸化物、温室効果ガスとしても知られるメタンガスなどです。有毒ガスに加えて、空気中に滞留している有毒な粒子状物質も、大都市の大気汚染につながります。粒子状物質とは、大気圏内に拡散し、微生物或いはそれ以上に小さい固体、または液状の粒を意味します。粒子状物質は、人間の肺にまで入り込み、その一部は血流にまで侵入した様々な呼吸器系や心臓の疾患の原因となることから、非常に危険なものとされています。こうした粒子はまた、土壌や河川などの水にも入り込み、水質や土壌の汚染の原因となります。
大都市の大気汚染の原因となるもう1つの重要な要素は、地上のオゾンです。地上でオゾンが形成されるのは、燃料を消費するバスなどの移動手段から排出される有毒ガスが太陽光線に反応する時です。これは、人間にとって極めて有毒なオゾンガスとなります。このガスは、熱帯性の気候において空気中に滞留し太陽光線を受けたときに発生します。地上に存在するオゾンを、大気圏よりはるか上空にあり紫外線を吸収する、良質のオゾン層と混同してはならないのです。
今日、大気の質を計測する単位として、AQI・空気質指数が使用され、大気汚染の度合いに従って0から500までの指数が6つの段階に分けられています。これらの指数は、主に地上のオゾンや粒子性物質の量を示しますが、二酸化硫黄や二酸化窒素の量も考慮される場合があります。この指数が100を超えると、大気の質が好ましくないことを示します。このため、この指数が100を超えている地域では普通、人々に大気汚染を回避するよう警告が出されます。
しかし、この数十年間で自然環境や生物の健康に大きな問題をもたらした、大気汚染による危険な影響の1つは、温室効果ガスです。ラジオをお聞きの皆様、今夜はここで時間がきてしまいました。次回もこの続きをお届けします。どうぞ、お楽しみに。