国連の凋落とパン事務総長
2016年12月31日、国連のパン事務総長の10年の任期が終了し、2017年1月1日に、グテーレス氏が事務総長に就任しました。
今回の番組では、パン前事務総長の10年の任期について検討することにしましょう。
国連事務総長は、国連のトップにあたり、ヨーロッパ、ラテンアメリカ、アフリカ、東南アジア、東アジアの出身者がつとめ、これまでペルシャ湾岸諸国からは誰も出ていません。
初代国連事務総長のトリグブ・リーは、ソ連の敵意により辞任しました。また、2代目のハマーショルドも、在任中に死去しました。
エジプト出身のブトロス・ガリ元事務総長も、アメリカの拒否権により2期目の就任を阻止されました。アメリカはガリが国連の改革において無力だったとして、拒否権を行使し、2期目就任を妨害したのです。
これまで国連事務総長をつとめてきた人物8人のうち、ウ・タント、ヴァルトハイム、ハビエル・ペレス、コフィー・アナン、そしてパン・ギムンの5人は2期つとめてきました。グテーレス新事務総長は、1995年から2002年の間、ポルトガルの首相をつとめました。
パン前事務総長は2007年1月から、アナンの後継者として、国連事務総長に就任しました。
パン事務総長は就任時代の10年間、154カ国を訪問しました。彼は国連においてほとんど何もできない中で任期を終え、各国政府、特に途上国の国連に対する信用も落ちていました。
国連はパン事務総長時代、アメリカ政府に同調しない国々に対する同国の圧力行使の道具となり、様々な危機、特にアラブ諸国の危機において、アメリカが満足するような立場をとってきました。しかし、国連憲章の第100条では、事務総長及び職員は、その任務の遂行に当って、いかなる政府からも又はこの機構外のいかなる他の当局からも指示を求め、又は受けてはならない、事務総長及び職員は、国際的職員としての地位を損ずるいかなる行動も慎まなければならない、とされています。
2008年、2012年、2014年のシオニスト政権イスラエルのガザ攻撃、スーダンの虐殺、シリア危機、サウジアラビアのイエメン攻撃、過激派とテロの拡大、難民危機は、パン事務総長時代の最も重要な問題といえます。これらすべてにおいて、国連はただ失敗しただけでした。
ガザに対する戦争やインティファーダ・聖地ベイトルモガッダス・エルサレムの抵抗運動を伴ったパレスチナ危機における、国連の行動は、完全に消極的なものでした。10年にわたる国連総会では、イスラエルの犯罪に対する非難決議が何度も採択されましたが、この決議が実施されることはありませんでした。
パン事務総長の任期の終了間近、国連安保理はイスラエル非難決議を採択しました。これにアメリカは棄権しました。国連安保理はこの決議の中で、パレスチナ被占領地におけるイスラエルの入植地建設の継続を非難し、これを即時停止するよう求めました。
国連はシリア危機においても、完全に失敗しました。
パン事務総長もシリア危機におけるこの機関の無力さは、自分の事務総長時代の最大の失敗だとしました。
パン事務総長はサウジアラビアのイエメン攻撃でも、消極的な態度をとりました。サウジアラビアが最大の子供の権利侵害国として登記されていた一方で、パン事務総長はサウジアラビア政府、サウジ同盟国のアラブ諸国、アメリカの圧力により、やむなくこの子供の権利侵害国一覧からサウジアラビアを除外しました。
これにより、パン事務総長は、国連は独立組織ではなく、大国の道具になっていることを明らかにしたのです。
国連憲章の99条において、事務総長は、国際の平和及び安全の維持を脅かすと認める事項について、安全保障理事会の注意を促すことができると記されている中で、国連は重要な危機において失敗しています。国連はパン事務総長時代、難民危機、過激主義とテロの拡大において、建設的な役割を果たしませんでした。
国連はパン事務総長時代、持続可能な開発についても、多くの目標を果たすことができませんでした。戦争の増加、内乱、国連の戦争管理における失敗により、貧困は世界レベルで拡大しました。貧困の減少は、持続可能な開発計画の目標のひとつとされています。
パン国連事務総長の事務総長としてのわずかな成功のひとつに、気候変動問題に関する成功が挙げられます。
パン事務総長は外交努力を拡大し、気候変動問題を世界的な優先事項としました。これに関して、2015年12月、パリ協定が締結され、2050年までに世界の平均気温の上昇を2度以下に抑えるため、初めて世界各国が温室効果ガスの排出削減に関する義務を負うようになりました。また、この会議で、世界の富裕国は2020年まで毎年1000億ドルを発展途上国の温暖化対策に拠出することが定められました。
パン事務総長は、2007年の就任当初、国連の強化と、世界体制におけるその地位の向上を目標としていました。しかし、パン事務総長の10年間の任期終了時における国連の状況は、彼が2007年に提示していたようなものではなかったのです。
国連はパン事務総長時代の10年間、各国の信用、紛争や危機における行動においても、凋落の一途をたどってきました。グテーレス新事務総長は、こういった状況下で国連を引き継ぎました。もしグテーレス事務総長がシリアやイエメン、イラクなどの危機において、西側の覇権主義大国に屈することがなければ、国連の失った信用の一部を取り戻すことができるのです。