先進コミュニケーション技術の誤った使用の影響
今回は、先進コミュニケーション技術の誤った、あるいは過剰な使用が家族関係に及ぼす影響について考えることにいたしましょう。
家庭は、人々の社会生活に決定的な影響を与える要素の1つです。家庭なしには、人類社会の存続が危うくなります。この社会的な組織が健全であるか否かは、社会生活の様々な側面に、深い全面的な影響を及ぼす可能性があります。家庭の機能の弱体化は、社会における文化的、社会的な諸問題や様々な逸脱、弊害をもたらします。
家庭に害を及ぼしうる問題の1つは、テクノロジーの不適切な発展の結果によるものです。このような変化は、家庭的な価値観や家族関係のあり方に根本的な変化を起こす要因になります。今世紀における重要な現象の1つはコンピュータとインターネットです。インターネットは今日、家庭生活の構造上特別なものとして位置づけられるにようになりました。現在、コンピュータと携帯電話は、新たなコミュニケーションツールの1つとして、ほぼ全ての家庭に普及しています。また、インターネット空間においても、あらゆる年齢層のユーザーが特定の使用方法を確立しています。
この先進技術は、家庭に導入されてから、現在まで、数多くのメリットを持っていながらも、各家庭に一連の問題や懸念をもたらしています。インターネット空間は、各家庭を多種多様な生活様式、新たなアイデンティティ、変化に富んだ文化に直面させています。アメリカの調査会社・ピュー・リサーチセンターの新たな調査によりますと、各家庭は携帯電話やEメール、SMSなどの頻繁な通信に由来するストレスやスピードに苦しんでいるということです。
コンピュータやインターネット、衛星放送、スマートフォンといった先進技術が家庭に導入されてから、人々は自分の家族とともに過ごす時間が少なくなり、多くの時間をひとりで、また体を動かすことなく、新たなコミュニケーションツールとともに過ごしています。インターネットは、家族間における会話の役割を薄れさせています。家族の各メンバーは、勤務先、あるいは学校から帰宅すると、集まって親睦を深めるのではなく、コンピュータや携帯電話により、インターネットやソーシャルネットワークを閲覧し始めます。子供たちも、多くの時間をコンピュータ・ゲームに費やすのが普通になっています。
インターネットを通じて、人々は物理的な距離を進むことなくほかの場所に行き、自分がほかの人と一緒だと感じます。このことは、家族のメンバー、特に配偶者にとって苦しみや口論の原因になります。人間の基本的なニーズの1つは、他人との関係の構築であり、配偶者についてはより親密な関係を持ちたいと望みます。しかし、夫婦のいずれかがこのニーズをインターネットで満たす時、配偶者との関係は希薄化します。こうして、家庭環境において自然に満たされるべきニーズの1つが満たされないままとなり、もう一方の配偶者の家庭生活に対する満足度が下がってしまいます。
家族間の対話の不足、あるいは減少は、確実に一定期間が経過した後に、家族間の認識を減少させることになります。それはさらに、家族の信用の低下につながり、マイナスの結果をもたらします。これに加え、インターネットにより、生活様式や文化が変化し、多くの不和の原因となる、配偶者への新たな要求や価値観が出現します。
家族の一部のインターネット依存症も、問題の1つです。家庭におけるインターネットの不適切な、あるいは過剰な使用は、非婚化、夫婦関係や親子関係の崩壊につながります。インターネットやコンピュータ・ゲームにのめり込み過ぎている人は、自分の余暇のほとんどをコンピュータによる活動に費やしています。中には、帰宅すると同時にインターネット空間に浸り、妻や子供との触れ合いが全くない父親もいます。このことは、離婚に至らないまでも、少なくとも家族を精神的に傷つけることになります。
インターネット依存症に陥っている母親も、こうした問題の例外ではありません。彼女たちは、家事や子供の世話を十分にできておらず、これにより、夫と対立し、母親として子どもを気にかけることがなくなります。さらに、インターネットに夢中になりすぎている子供は、他人と交流したいと思わなくなります。このことは、個人的な付き合いや社会的な交流に悪影響を及ぼします。一方で、子供はチャットルームを通して性犯罪のターゲットにされる可能性があり、これは家族を深刻な危機に直面させています。
さらに、インターネットの影響による別の問題が、女性たちに日々大きな影響を及ぼしています。一般的に、女性のインターネットユーザーの多くは、職業を持っている人や高学歴の人、若い女性です。また、家庭では母親であったりします。サイバー空間がいかに、女性の知識のレベルを向上させ、彼女たちが必要とする教育を提供できるとはいえ、それらは実際には西側諸国に存在する文化や価値観を押し付けることで、女性の要求や思考に変化を起こしました。サイバー空間では、フェミニスト思想が入り込んでいることから、母親としての役割が薄れ、女性たちが責任を受け入れなくなってしまったのです。
調査からは、女性たちはインターネット・サイトで、男性以上にショッピングなどを行い、趣味を楽しみたいと考えています。インターネット空間では、幅広く商品の宣伝が行われることから、女性たちの消費志向や贅沢主義を煽っています。一方で、そうしたコマーシャルの多くは倫理に反するものであり、次第に家庭の婦人としての貞節さや羞恥心に対し、倫理に反する影響を及ぼしています。
インターネットが人々に及ぼす最大の悪影響の1つは、不適切な内容によるもので、それらは簡単に誰でも閲覧でき、家庭の倫理的な安全を危険に陥れる可能性があります。性的な画像や映像は、多くの場合ユーザーが否応なしにこうした内容に触れることになり、また、好奇心やその破壊的な影響、またそれに対する認識不足などのために、子供にとって大いに危険です。それは、低俗な内容を目にすることで、自分でも不適切な性的行動を示すようになったり、インターネットによる誘惑にそそのかされる可能性があるからです。さらに、子供時代に逸脱した性的行動を目にすることで、子供時代に不適切な性的趣向が身についてしまい、成人してから性的な逸脱行為が見られるようになる可能性もあります。こうした人々の中には、結婚して家庭を持ってからも、こうした低俗な内容を閲覧したり、チャットルームにアクセスしたがる人もいます。将来における彼らとその配偶者の関係は、確実に大きな問題に巻き込まれることになります。
家庭は、子供を教育する重要な環境です。家庭は、そこに存在する全ての可能性から、最も教育のしやすい場所ともされています。しかし、インターネットが家庭に入ってきたことで、子供たちはそれまでとは違った、あるいは不適切な文化や教育方法に接することができるようになっています。インターネットは、子供にとって様々な生活様式や新たなアイデンティティ、変化の激しい文化に接する下地を生み出しています。このため、子供は自分の家庭の価値観とは全く別の価値観に遭遇し、時には家庭の習慣とは完全に反することになり、そのいずれかの選択をめぐって、親子の衝突や対立に至ることもあります。
家庭に大きな被害を与える危険の1つは、家族のプライベートな内容や画像、秘密の内容が流出することです。時に、子供は知らないうちに怪しいサイトに入り込み、これによって個人情報が盗み出されます。こうして、家庭の秘密が侵害され、時には家庭生活が深刻な被害を受けることもあります。
インターネットは、それ自体は方向性を持ちませんが、大切なのは、この先進技術の使用方法です。インターネットの正しい使用においては、ユーザーは自分の時間やエネルギーを家庭や結婚やそのほかの付き合いといった、生活の重要な側面に費やす代わりに、インターネットに振り回されてはならないのです。子供を持つ親は、子供がこの先進技術を適度に、また適切に利用するための対策を考えるとともに、自らもこの問題において子供の手本となる必要があるのです。