バヤーテトルク旋法(音声)
バヤーテトルク旋法は、マーフール旋法やラーストパンジガー旋法のように、明るい雰囲気を持つ旋法体系です。
バヤーテトルク旋法と、シュール旋法の間には、そのかもし出す雰囲気が大きく違います。そのため、派生系といわれても、なぜこのように分類されるのか、不思議に思われるかもしれませんが、これは、シュール旋法の一部で使われる音の並びが、3番目の音から音階を数えると、7番目の音以外は、ピアノの白い鍵盤の並び、誤解を恐れずにわかりやすくいえば、ドレミファソラと同じ音の間隔をもつようになるからです。このため、明るい雰囲気を感じるのです。ただし、七番目の音だけは、四分の1低くなり、微分音となります。
元ハーバード大学のファルハート教授によりますと、バヤーテトルクのトルクは、現在のトルコ共和国やアゼルバイジャン共和国ではなく、イラン南部に住む遊牧民族ガシュガーイー族をはじめとした、イラン南部のトルコ語系民族を指しており、彼らはこの音楽体系の歌を歌っていたことから、これが音楽の体系とされたということです。また、バヤーテトルクは、バヤーテザンドと呼ばれています。これは、18世紀にイラン南部のシーラーズを首都としたザンド朝、およびその一族であるザンド部族を指しているといわれています。ザンド朝との関係についてはさまざまな説があるようですが、ザンド朝が滅亡し、ガージャール朝がイランを支配してからは、バヤーテトルクと呼ばれたようです。また、バヤーテトルク旋法のトルク、という言葉についても、20世紀の初期の詩人で音楽家のアーレフ・ガズヴィーニーも、トルコにはバヤーテトルク旋法の音楽は存在しないとしています。
先ほど軽く触れましたが、バヤーテトルク旋法の音階の一例を挙げると、ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、4分の1音低いシの微分音、ドです。つまり、シ以外がわれわれのよく知るドレミファソラシドのならびになっています。この微分音が、バヤーテトルク旋法の特徴と、イラン音楽らしさを物語っているといえるでしょう。
体系上、バヤーテトルク旋法はドレミファソラシドと基本同じ音階を持つマーフール旋法と別の体系とされていますが、それでもマーフール旋法と一部、同じ曲を共有しています。たとえばホスラヴァーニーという曲は、マーフール旋法と同じです。
バヤーテトルク旋法も、明るい雰囲気を持つまま進行するということはなく、変化を遂げます。重要な変化としては、シェキャステという曲における変化があげられます。
これもマーフール旋法のときと同じで、先ほどの例による音階であれば、ミが微分音に、シが半音に変わります。後にお話しする予定のアフシャーリー旋法に近い形になります。しかし、アフシャーリー旋法は6番目の音、つまりラが頻繁にナチュラルから4分の1低い微分音に変化しますが、このシェキャステでは、ラが固定です。
また、その後のルーホルアルヴァーフという曲では、バヤーテトルク旋法の明るい雰囲気がすこしトーンダウンし、シュール旋法のにおいを感じさせるようになります。ここもバヤーテトルク旋法における重要な変化とみなすことができます。
結論として、バヤーテトルク旋法はほかの旋法体系と比べて簡単ながらも、変化を遂げる旋法体系です。しかし、その基本的なキャラクターの魅力が大変に大きいことから、その基調を大切にした作品が数多く作られています。また、先ほど軽く触れたものの、地方音楽においても、バヤーテトルク旋法の作品は多く見られます。