4月 04, 2017 16:05 Asia/Tokyo
  • アブーアター旋法・バヤーテコルド旋法

これまで、この番組ではイラン古典音楽の体系を紹介きましたが、今夜はその最後の回として、アブーアター旋法とバヤーテコルド旋法についてお話しすることにしましょう。

それでは、まずアブーアター旋法による音楽をお聞きください。セタール奏者ジャラール・ゾルフォヌーン率いるグループによる演奏です。

アブーアター旋法も、前回、前々回にお話したバヤーテトルク旋法、アフシャーリー旋法、ダシュティ旋法と同じく、シュール旋法の派生系とされています。

アブーアター旋法の音階の一例を挙げると、ド、レ、ミフラット、ファ、ソ、4分の1低いラの微分音、シフラット、ドです。アブーアター旋法は、いくつかのキーとなる曲を含みます。序曲のダルアーマド、その後のサヤヒーといった曲がそうですが、アブーアター旋法で大変重要なのは、ヘジャーズという曲です。ヘジャーズとは現在のサウジアラビアにあたるヒジャーズ地方のことを指し、またアラブ諸国の音楽体系にはヒジャーズという名の音楽体系が存在します。しかし、アブーアター旋法のヘジャーズは、アラブ諸国のヒジャーズとは異なっています。

このヘジャーズでは、それまでシュール旋法よりも高かったアブーアター旋法の音が、シュール旋法に落ち着いて終わるような形で、音の下降を示します。また、先ほど上げた音階の例では、終盤にラの微分音が1時的にフラットに下がります。

ハーバード大学のホルモズ・ファルハート元教授によりますと、アブーアター旋法はシュール旋法に移行しても、もとの体系に戻ることができないとされています。これは、元に戻って終わるという、大まかな美学的な規範を持つイラン音楽にとって、例外的といえるでしょう。

最後に紹介するイラン音楽の体系は、バヤーテコルド旋法です。まずはバヤーテコルド旋法の曲をお聞きください。ホセイン・アリーザーデとマジード・ハラジによる演奏です。(音楽4)

バヤーテコルド旋法は、独立した旋法体系とみなされるかについて、議論があるようです。多くの識者は、シュール旋法の曲の一部であるとして、バヤーテコルド旋法をひとつの音楽体系とみなさず、この旋法体系を抜かして、イランには12の音楽体系があるとしています。

バヤーテコルド旋法のコルドは、おそらくイラン西部・コルデスターンに住むクルド人のことを指すと思われますが、その由来については、まったくわかっていません。そして、おそらくこの旋法体系とされた作曲作品は、現在でもあまり見られません。

バヤーテコルド旋法の音階はシュール旋法の一部と同じで、一例を挙げると、ソ、ラ微分音、シフラット、ド、レ微分音、ミフラット、ファです。この音階では、シュール旋法がソを曲の中心とする場合、バヤーテコルド旋法はレが中心となります。

バヤーテコルド旋法で特徴的なのは、定型のフレーズで、序曲のダルアーマドのメロディが重要であるという点が指摘できます。それでは、ダルアーマドのサンプルをお聞きください。

以上、これまでイラン古典音楽の体系とその詳細について、ごく大まかに紹介してきましたが、ここで説明した以上に、さまざまな仕組みが存在します。またそのバリエーションは、似通っている部分もありながら、非常に豊富です。さらに、これほど体系立った音楽は、ほかの中東地域には見られないといえるでしょう。さらに、イランには独自の体系を持つ地方音楽が存在します。これについては、次回以降にお話したいと思います。