マーフール旋法(2)【音声】
昔から、多くの作品が、マーフール旋法で作曲されてきました。ラジオ日本語の放送の冒頭で流れる現在のイランの国歌も、マーフール旋法にのっとって作曲されたといわれています。
そして前回の番組では、マーフール旋法は晴れやかな明るい曲を基本とするものの、劇的に転調する体系として、序の部分であるダルアーマドと、重要な曲、デルキャシュについてお話しました。そして、音階が変化し、曲の中心となる音が変わりながら、最終的にはフォルードというフレーズで下降し、元に戻ってくるとお伝えしました。
序の部分であるダルアーマドと、重要なデルキャシュ、日本語で言うと「傷心」の間には、決まったリズム形式をもつフレーズ、あるいは曲が演奏されることがあります。その二つに、ケレシュメというものがあります。ケレシュメは、各体系で演奏され、そのいずれもパターンが存在します。
このケレシュメについて、イラン現代の巨匠、ホセイン・アリーザーデ氏は次のように語っています。
「ケレシュメのリズムはペルシャ語詩の韻律に基づいており、マファーエロン・ファーエラートン・マーファーエロン・ファーエラートの韻律のパターンを基本とする。この規範に従い、さまざまな形で繰り返される」
ケレシュメのリズムの元になった韻律に関しては、さまざま提唱されていますが、いずれにせよ、詩の韻律が基本となっているのは定説とされています。
また、神戸大学の谷正人準教授は、著書『イラン音楽』の中で、次のように記しています。
「ケレシュメというグーシェも、そこで最もよく詠われる詩の韻律を反映した、八分の六拍子と四分の三拍子が交互に現れるヘミオラのリズムを明確な特徴として持つグーシェである。このグーシェには詩と音楽のリズムの完全な一致が見られる。このグーシェは、旋法や音域を問わず、どこでも同じように用いることのできるグーシェなのである」
つまり、ケレシュメとは、詩の韻律を基本とする共通するリズム体系を持つ曲をさすのです。
先ほど述べた、デルキャシュの後、ナスィールハーニーやアーザルバイジャーニーといった小曲が入れられることがあります。これらはいわばマーフール旋法の基本的な音階を踏襲したものとなっていますが、基準となる強調される音は変わり、フェイリーやマーフール・サギールといった曲では、序の部分のダルアーマドがドだとした場合、ソに上昇します。その後、シェキャステという部分で、第2の変調を遂げます。シェキャステというのは、日本語で、「崩れた」という形容詞ですが、ここでマーフールの基本的な音階は崩れ、ミが微分音となり、シがフラットとなります。
シェキャステの音階は、アフシャーリー旋法というモードとよく似ています。しかし、アフシャーリー旋法とは違うのは、アフシャーリー旋法の場合、ラの音が微分音になることがありますが、シェキャステでは、ラは一貫してナチュラルです。また、ここでも、最後の部分では、音階が元に戻ります。