マーフール旋法(3)【音声】
これまでの2回に渡り、イラン伝統音楽の旋法体系、マーフール旋法についてお話してきました。
そしてその中で、マーフール旋法は全音、全音、半音、という音の間隔を持つ4つの音、テトラコルド2つを組み合わせた音階を基本にするとお伝えしました。そしてこれは、ドを2つのテトラコルドの中心とした場合、ドレミファソラシドの音階になります。このため、マーフールはメジャー調といえますが、途中で変調し、雰囲気が変わります。
前々回、前回と、序の部分の曲、ダルアーマドを経て、ダードやケレシュメといったフレーズを経て、いったんデルキャシュという曲で暗転するように変化するものの元の音階に戻り、またフェイリーやアーザルバイジャーニーといったメジャー調のフレーズに入り、シェキャステという曲で音階と雰囲気が再び変わり、またもとの音階に戻る、とお伝えしました。
シェキャステの後、アラークというフレーズ、または曲に入ります。アラークで重要なのは、マーフールがドレミファソラシドの音階を基本とする場合、ドを中心としたダルアーマドから、ソの音を曲の中心とし、強調されるデルキャシュやシェキャステに移行した後、アラークでは音の中心がドに移ります。ちょうどこれは、ダルアーマドと比べて1オクターブ音階があがったことになります。
そして1オクターブ上がったドを中心としたアラークの後の、アーシューラーヴァンド、エスファハーナクといったフレーズでは、レの音階が半音に変わります。
そして、マーフール旋法の終盤では、ラークという曲に入ると、また雰囲気が大きく変わります。音階はレが半音になっているのに加えて、ラが再び微分音になります。イラン伝統音楽の規範ともいえるミールザー・アブドッラーのラディーフでは、ラーケ・ヘンディ、ラーケ・ケシミール、ラーケ・アブドッラーの3つが収められています。
ラークの時点で、マーフールとしては、フレーズの音階は最も高くなっていますが、ここでも、元の音階に戻る、フォルードというフレーズを経て戻ることになっています。この一連の流れを、例としてお届けしたいと思います。
最後に締めとして、レングというリズムつきの曲が演奏されます。レングは日本語で舞曲と訳されますが、これは8分の6拍子の曲がほとんどを占めています。
3回に渡ってマーフール旋法でみてきたように、イランの伝統音楽では、一連の順序が存在します。しかし、この順序も、全部を抑える必要はなく、実際には演奏者によって、選択的に演奏が行われます。また、マーフール旋法では転調が多く、そのまま別の旋法体系に移ることもあります。たいていはもとの音階に戻ってきますが、場合によっては別の体系に移行したまま戻ってこないこともあります。これに関して、イラン国立芸術大学で講師を務めるイーラジ・ダシュティザーデ氏は、次のように語っています。
「たとえば、マーフール旋法で演奏を開始し、マーフールで進行してデルキャシュに移行した後、シュール旋法にうつり、シュール旋法からセガー旋法へという転調を経た後、最後のリズムつきの曲でマーフール旋法に戻ってくるときもある。しかし、しばしばもとのマーフールに戻らないときもあり、チャハールガー旋法に移動したまま戻ってこず終了することもある。」