4月 10, 2018 20:25 Asia/Tokyo
  • カスピカイニシン
    カスピカイニシン

今回も、前回に引き続き、カスピ海に生息する珍しい生物をご案内してまいります。今夜は、カスピカイニシンをご紹介することにいたしましょう。

カスピ海

 

イラン北部に横たわるカスピ海には78種類の魚が生息しており、そのうち最も重要なものは、この湖にしか生息しないカスピカイニシンです。この魚は体が小さいものの、栄養価が非常に高く、カルシウムのほかに、ビタミンD,E,B,A,Kなどを豊富に含んでいます。

 

カスピカイニシンは普通、水深が50メートル以上あり、それほど塩分が高くない水域に生息し、沿岸に近づくことはまずありません。しかし、一方でカスピ海の沖合いで、水深がおよそ300メートルある海域にも見られません。このため、この種の魚の生息水域は、主にカスピ海の南部海域とされています。

カスピカイニシン

 

カスピカイニシンの頭部から尾びれまでの長さは、平均して7センチから13センチほどあり、最大でも15センチほどです。また、全体重の12%が脂肪分で、うろこが丸く、尾びれが背びれよりも大きくなっています。(次の分削除)

 

カスピカイニシンの平均寿命は5年ほどで、2歳で成熟し、水温が摂氏6℃から13℃、塩分の濃度が12.6pptから13pptの状態にある水域で産卵します。

 

カスピカイニシンは、寒さに比較的強く、水温が摂氏3℃の水域でも見られます。ですが、冬は水温が摂氏7℃から10℃の水域で過ごすことが多くなっています。

カスピカイニシン

 

カスピカイニシンは普通、1日を通して、自らの身を守るために集団で行動することが多くなっています。しかし、日暮れと共に暗くなると、四方八方に散ってゆきます。このため、カスピカイニシンを捕獲する際、漁師は日が沈んで暗くなる前に、魚群探知機を利用してカスピカイニシンの群れを追跡する作戦を行います。

 

カスピカイニシンは、ある決まった深さの水域に生息していいます。このため、漁師たちは夜になると電灯で直接、ある深さの水域を照らし、その水域にいるカスピカイニシンの群れを、光の方に向かって泳ぐよう仕向けます。さらに、漏斗のような形状の漁網を使用して、カスピカイニシンが漁獲されます。カスピカイニシンの個体数が多かったころには、1回の漁で200キロから300キログラムが水揚げされていました。

カスピカイニシン

 

一部の専門家は、近年では乱獲によりカスピカイニシンの個体数が激減したと考えていますが、中にはその主な原因が、クシクラゲの一種であるムネミオプシス・レイディであるとする人もいます。

 

ムネミオプシス・レイディは、小魚や動物性プランクトンを捕食する肉食性の水生生物で、船舶のバランスを維持するバラスト水の貯水タンクに混入することで、全世界の海域に拡散しています。環境への適応能力が非常に高く、外来種として他の海域に持ち込まれることで、その海域のエコシステムに深刻な被害を及ぼしています。カスピ海よりもこの生物により甚大な被害を受けているのは、黒海や地中海、黒海北部の内海のアゾフ海です。クシクラゲの一種であるこの生物は、カスピカイニシンの卵や稚魚を際限なく食べつくすほどの食欲を有しています。

カスピカイニシン

 

カスピ海にクシクラゲ類が混入して以来、この湖の動物プランクトンの量は75%も減少しました。カスピカイニシンとその稚魚が、こうしたプランクトンを主なエサとしていることから、カスピカイニシンの個体数は激減し、その水揚げ高も、クシクラゲ類が混入する前の時代の4分の1以下に減っています。

カスピカイニシン

 

クシクラゲ類の存在は、カスピカイニシンのみならず、カスピ海に生息するそのほかの水生生物をも危険に陥れています。それは、カスピカイニシンがチョウザメやサケ、カスピカイアザラシといったこの湖に生息する動物の多くにとって、最も重要なエサとなるからです。このため、これらの動物にも被害が及んでおり、その結果カスピ海における食物連鎖全体がかく乱されています。

 

この問題に注目し、イランは近年、カスピ海のエコシステムの改善や危機の打開、そして侵入生物であるクシクラゲへの対策の効果の査定に向け、幅広い努力を行ってきました。しかし、カスピ海への侵入生物に対処するには、カスピ海の全ての沿岸諸国の協力が必要です。これについては、複数の計画が立てられており、これにより政府高官や責任者による最終的な合意の後、カスピ海のクシクラゲ対策が本格的に実施されると考えられます。