3匹の魚
ある湖に、3匹の美しくて大きな魚が住んでいました。
ある湖に、3匹の美しくて大きな魚が住んでいました。
ある日のこと。数人の漁師たちがそこを通りかかり、この美しく肉付きのよい3匹の魚たちに気がつきました。しかし、その時彼らは魚を捕えるための適当な道具を持ちあわせていませんでした。そこで、漁の道具を準備した上で出直そうということに話がまとまったのです。
慌てたのは魚たちです。このままぐずぐずしていると、戻って来た漁師たちに捕まえられてしまうのは目に見えています。どうしたら漁師たちの手を逃れることができるだろう、何とかしなければ、と3匹はそれぞれに思いました。
この3匹の魚たち、1匹は、非常に賢く先見の明があり、もう1匹は決してずば抜けた知力はなくとも、いざというときに力を発揮します。そして3匹目は、愚鈍で何の考えも浮かばないという組み合わせでした。
賢い魚は必死に考えました。
「この災難を何とかして逃れるんだ。そうだ、この湖から川を下って広い海へと逃げることにしよう」。
けれど、自分の計画を他の魚たちには隠しておくことにしました。というのも、他の魚たちに彼の計画を話したところで、海への途中で遭遇する困難を理由に、きっと彼らは計画そのものに異論を唱えるに違いないと考えたからでした。こうして賢い魚は、他の魚たちに自分の計画を明かすことなく、さっさと一人で出発してしまいました。彼は、狭くて危険の多い流れを潜り抜けながらも、ついに広大な海へと無事にたどり着いたのでした。
さて、次はいざというときに力を発揮する2番目の魚です。しかし、彼が思い迷っているうちに、漁師たちが再び湖にやって来て、自分たちを捕える準備をしているではありませんか。2番目の魚は、漁師たちの網を見て、機会を逃してしまったこと、目の前に危険が迫っていることを悟りました。彼は、なぜ賢い魚のようにさっさと逃げなかったのかと、自分を責めました。しかし、悔やんでばかりいては、今ある僅かなチャンスさえも逃してしまうと思い直しました。
「悔やんでいる暇などない。この危険を逃れる方法を考えなければ。失ったものは、もう既に過去のもの。もう二度と手に入れることは出来ないのだ。そうだ! 死んだふりをして、仰向けになって、水の流れに身を任せよう。絶対に動いてはいけない。こうすれば、漁師たちは私を死んだ魚だと思って捕らえたりはしないだろう」
2番目の魚は、実際にそれを実行に移しました。漁師たちは、狙っていた魚が腹を上にして水に浮かんでいるのを目撃します。彼らはあきらめきれずに一旦は魚を引き上げてみました。しかし、死んでいる魚には用がないとばかりに、岸辺に放り投げると、次の魚を探しに立ち去ってしまいました。こうして2番目の魚は、漁師の目が離れたところで、やっとのことで水の中に戻り、危険を逃れたのでした。
さて3番目の魚はどうしたでしょうか。この魚は、いよいよ危険が迫っていることを知ると慌てふためきました。彼は恐怖と不安から落ち着きをなくし、やみくもに泳ぎ回るだけでした。そこに、猟師たちの網が投げ込まれ、3番目の魚はまんまとその網にかかってしまいました。この網の中でも、彼は必死に動き回り、こちらの穴からそちらの穴へ、結び目から結び目へと嘆きながら泳ぎました。
「もしかしたら、この罠から逃げ出せるかもしれない」と。
しかし、もがくたびに結び目やわっかにぶつかって、疲れ果て、傷が増えるだけでした。
ついに、動く気力もなくなった3番目の魚は、猟師たちの網の中にすっぽりと捕えられてしまいました。こうして3番目の魚は引き上げられ、すぐに焼かれて食べられてしまいました。この魚は、命を失う直前になって、愚かにも自分にこう言い聞かせていました。
「もし、猟師たちの手から逃れて、この災難を抜け出せたら、絶対に海にたどり着いてみせる。自分でそれが無理なら、賢い魚に救いを求めて教えを請えば良い。その先にはきっと、安全な暮らしが待っている」。
何と哀れな魚でしょう。せっかくの彼の考えも、時は既に遅かったのです。