コーラン、第18章アル・キャアフ章洞窟(2)
今回も前回に引き続き、コーラン第18章アル・キャアフ章洞窟を見ていくことにいたしましょう。
慈悲深く、慈愛あまねき神の御名において
アル・キャアフ章では、3つの教訓的な物語が語られています。その3つとは、洞窟の教友たち、預言者ムーサーとヘズル、そしてズルカルナインの物語です。これらの真実の物語は、私たちを日常の生活から解き放ち、世界は私たちが目にするものに限られないということを示しています。今回は、ムーサーとヘズルの物語をご紹介しましょう。この物語は、時に、出来事の本質は、私たちが一見して理解するようなものではない場合もある、ということを教えています。
アル・キャアフ章第60節には次のようにあります。
「ムーサーがその仲間に言ったとき[を想い起こしなさい]。『私は、2つの海がつながる場所に到達するまで、たとえ何年かかったとしても、探索をやめないだろう』」
この章の第60節から80節までは、神の2人の預言者であるムーサーとヘズルの物語が述べられています。この物語は、ムーサーのような偉大な預言者でさえ、一部の問題に関する知識が限られており、知識や英知を与えてくれるような人物のところに行く必要があることを示しています。
ムーサーが、自分よりも賢い人物などいないと考えていたとき、彼に啓示が下りました。紅海の北に、あなたよりも賢い僕がいると。ムーサーは旅の仲間と共に、その地へと向かいました。旅の途中で様々な出来事に遭遇しながら、彼らは目的の場所に着きました。「彼らはそこで突然、我々の僕たちのうちの一人に出会った。我々はその僕に慈悲を授け、豊かな知識を与えていた」
ここにある「我々の僕たちのうちの一人」という表現は、人間の最大の栄誉とは、神の正しい僕であることだ、ということを示しています。そのとき、ムーサーは、丁寧な調子でヘズルに向かって言いました。「あなたが成長のために習得した知識を私が学ぶために、あなたに着いて行ってもいいでしょうか?」 ヘズルはムーサーに言いました。「あなたは私と一緒に来ることに耐えられなくなるだろう」 そして、自分の言葉を説明するために言いました。「あなたはその秘密すら知らないことについて、どうしたら耐えられるだろうか?」 ムーサーはヘズルに、自分が目にしたことについて耐え忍ぶと約束して言いました。「神のお望みにより、私は耐え忍ぶでしょう。そしてあなたの行いに反抗することはありません」 ヘズルは言いました。「分かった。もしあなたがそうしたいのなら、私に着いて来たらよいでしょう。ただ、私が適したときに、あなたに話すまで、何も尋ねてはいけません」
ムーサーとヘズルは出発し、船に乗りました。道の途中で、ヘズルは斧を手にし、船に穴を開け始めました。船の中に海水が入って来ました。ムーサーは心配になって尋ねました。「あなたは乗っている人を溺れさせるために、船に穴を開けたのですか?本当に何と悪いことをしたのでしょう?」 そのとき、ヘズルはムーサーに言いました。「だからあなたには、私に耐えることができないと言ったはずだ」 ムーサーは言いました。「私が忘れていたことを叱らないでください。今回のことのために、私に厳しくしないでください」
それからしばらくして、彼らは海岸にたどり着き、町へと入りました。そこで数人の少年たちが遊んでいました。ヘズルはそのうちの一人を殺してしまいました。罪のない少年が、理由もなく殺される場面を目にし、ムーサーは黙っていられなくなりました。彼の心に怒りの炎が起きました。そこで再び、抗議の言葉を口にして言いました。「罪のない清らかな人を、誰も殺していないのに、あなたは殺してしまいました。本当にあなたは酷いことをした」 ヘズルは落ち着いた様子で言いました。「だから言っただろう。あなたは私に耐えられないと」 ムーサーは再び、謝罪をして言いました。「もし今後、あなたに何かを尋ねたら、それ以上は私とつきあわないでください」
2人がさらに進んでいくと、ある村に着きました。彼らはその村の住民たちに食事を求めました。しかし、住民はこの2人の旅人をもてなそうとはしませんでした。それなのに、2人が、その村の壊れかけた壁に着いたとき、ヘズルはその壁を修理してやりました。ヘズルが、人々から失礼な態度を取られたにも拘らず、その村の壁を直してやるのを目にし、ムーサーはそれまでよりも穏やかな口調で抗議しながら言いました。「もし修理するのであれば、賃金をもらっておけばよかったのに」
ヘズルは、起こった出来事を見れば、ムーサーが自分の行いに耐えることができないことを確信していたため、こう言いました。「今、私とあなたは別れなければなりません。しかし、あなたはすぐにでも、あなたが耐えられなかったことに関する秘密を知ることになるでしょう」
アル・キャアフ章の第79節から80節には次のようにあります。
「[私が穴を開けた]あの船は、海で働く貧しい人たちのものだった。私はそれを役に立たないものにしたかった。なぜなら、力ずくで丈夫な船を奪おうとする王がいたからだ。また[私が殺した]少年は、敬虔な両親を持っていたが、私たちは彼が両親を不信心に走らせるのを恐れていた」
この後、ヘズルは3つ目の行いの秘密、つまり、壁の修理について明らかにし、このように語りました。
「そしてあの壁である。あの壁は、村に住む2人の幼い孤児のもので、その下には2人のための宝が隠されていた。彼らの父親は善良な人物であった。そこで神は、2人が成年に達し、神からの慈悲である宝を掘り起こすことを望まれた。私はこれらの行いを勝手にしたのではなかった。以上が、あなたが耐えられなかったことについての説明である」
ムーサーとヘズルの物語で注目すべきなのは、ヘズルの知識が普通のレベルを超えていたことです。彼は、世界の様々な出来事に隠された秘密に関する知識も持っていました。時に、その出来事の表面を見ただけで、その内側に隠された意味を悟ることはできません。表面的には理にかなわないように見えても、その実は計算された論理的なものであることが多々あります。そのような場合、表面だけを見る人は不平をこぼしますが、その秘密を知る人は、耐え忍びます。
アル・キャアフ章の第83節から99節では、ズルカルナインの物語が述べられています。第84節にはこうあります。
「まことに我々は、彼に地上で権力を与え、全てのものから何らかの手段を授けた」
ズルカルナインは、神から十分な洞察力と知性、あらゆる可能性を与えられた人物でした。彼は世界各地を旅し、それらの手段を、人々のために相応しい形で利用していました。ズルカルナインは最初、装備の整った軍勢を率いて西に向かいました。それは、西の果ての太陽が暗い沼に落ちていくかのような場所でした。その土地にはある部族が住んでいました。神はズルカルナインに対し、彼らを処罰したいか、それとも彼らの間で善を通したいかと尋ねました。するとズルカルナインは言いました。「圧制を行った者を、私たちは罰します。その後、その人は神の許へと返され、神からも厳しい責め苦を与えられます。しかし、誰でも信仰を寄せ、ふさわしい行いをした者は、よりよい報奨を与えられるでしょう」 ズルカルナインは、その土地で人々を圧制から救い、善を行った者には報奨を与え、平和と公正を確立しました。
西を旅した後、ズルカルナインは、東の地にも向かいました。彼はそこで、何も覆うものがなく、太陽の光を浴びている人々に出会いました。彼らは家や屋根もなく、服を着ておらず、原始的な生活を送っていました。ズルカルナインは、そのような環境を自分の知識で明るく照らし、彼らを救いました。
アル・キャアフ章は続けて、ズルカルナインが3番目に訪れた土地について触れています。ズルカルナインはそこで、文化的に非常に遅れた人々を目にします。彼らは言葉を話すこともできないほどでした。この集団は、ヤージュージとマージュージという名の敵から圧力をかけられていました。そのため、大きな力と幅広い可能性を持つズルカルナインの登場を喜び、言いました。「ヤージュージとマージュージは、この土地で圧制を行っています。お礼をしますから、私たちと彼らの間に障壁を作ってください」彼らが求めたのは、ヤージュージとマージュージが攻撃を仕掛けてくる2つの山の間に大きな障壁を設けて欲しいということでした。
ズルカルナインは、彼らの要請に応えました。彼の命によって大きな鉄の板が運ばれました。鉄を重ね、2つの山の間を完全に覆いました。ズルカルナインは彼らに、火を起こすものを持ってきて、それをこの障壁の両側に置き、火をおこして鉄の板を溶かすようにと言いました。鉄は熱で溶けて融合しました。ズルカルナインは、その鉄の障壁を、溶けた銅によって覆い、錆びないようにしたのです。こうして、非常に強固な障壁ができあがり、ヤージュージとマージュージはそれ以上攻撃することができなくなりました。ズルカルナインは、すべてのものを神の恩恵として捉えていました。そのため、誰にも負けることはなく、「これは私の主の慈悲だ」と言っていたのです。