核合意を維持するEU
アメリカのトランプ大統領は、5月8日、イランに対する根拠のない非難を繰り返し、アメリカは核合意を離脱すると宣言しました。
トランプ大統領は、核合意離脱の際、核合意の中で解除された制裁は、3ヶ月、6ヵ月後に戻されるとしました。制裁は、アメリカのポンペオ国務長官によれば、これまでで最も厳しい制裁だとされています。ヨーロッパ諸国は、トランプ大統領のこの行動に反対を表明するとともに、核合意を維持し、ヨーロッパ企業をアメリカの制裁から守る計画を実行するとしました。これを受けて、核合意を守るためのイランとヨーロッパの協議が始まりました。
明らかに、その後核合意に関して描かれる筋書きは、西アジアと世界の安全保障の今後に重要な影響を与えることになるでしょう。現在、核合意の行方に関して重要性を帯びているものは、核合意締結国のヨーロッパ3カ国、つまり、イギリス、フランス、ドイツと、EU全体の核合意を維持しようとする立場とそれに向けた方策です。
EUのモゲリーニ外務安全保障政策上級代表は、繰り返し、核合意の維持と、それの代替が存在しないことを強調しました。
モゲリーニ上級代表はまた、トランプ大統領の決定を強く批判し、核合意の維持を求め、イランに対して核合意の取り決めを守り続けるよう求め、次のように語りました。
「イランとの核合意は12年の外交の結果であり、国際社会全体のものだ。その目的は、イランの核計画の平和性の保証であり、これは実現している」
イギリス、ドイツ、フランスも共同声明の中でアメリカの核合意離脱に反対し、それを維持する必要性に触れました。ドイツのマース外務大臣は、核合意は世界を安全にし、それがなければ世界は不安定になるとしました。
マース外相は核合意が失敗することによる結果について、次のように述べました。
「核合意の失敗は危機につながり、2013年に戻ることになるのを懸念している。これは誰も望んでいない」
欧州委員会のユンケル委員長も、EUの最新の立場表明の中で、核合意を維持するヨーロッパの行動を支持しました。ユンケル委員長はまた、アメリカの核合意離脱は世界平和のためにはならず、イランとの核合意は維持されなければならないとしました。核合意は2015年に制裁の緩和を代価として締結されましたが、この合意はアメリカ国内政策の犠牲になってはならないのです。
ユンケル委員長は、ヨーロッパ諸国はアメリカによる2国間合意の誘惑に抵抗すべきだ、それはヨーロッパを弱体化するからだとしています。
ヨーロッパは現在、岐路に立っており、この数か月、核合意を維持する幅広い努力を行い、この中で、ヨーロッパ3カ国の首脳や高官によるアメリカ訪問や、トランプ大統領との会談が行われました。しかし、これらの努力が実を結ぶことなく、トランプ大統領はイランの核計画に関してシオニスト政権イスラエルに同調し、核合意は無意味だとして、離脱したのです。
現在、ヨーロッパだけでなく、他の核合意締結国も、全体的に、アメリカとその一方的な行動に対して断固とした態度を取らなければなりません。核合意は基本的に、イランと6カ国の核問題の解決のための合意であり、その有用性を示しています。
IAEA国際原子力機関によれば、イランは核合意のすべての取り決めを履行しており、アメリカ以外のすべての締結国も、それを認めています。一部のアメリカの政府関係者も発言の中で、このことについて言及しています。
こうした中、核合意に関するトランプ大統領の要求は、これに関する明白な事柄に反しているばかりか、基本的に、彼の要求は核合意を超えており、それはイランのミサイル計画に制限を設けること、イランの地域政策を変えることを含んでいます。これは完全にシオニスト政権と、サウジアラビアといったアメリカのアラブの同盟国の要求に沿ったものとなっています。
アメリカのウィズナー元国務次官は、トランプ大統領の核合意離脱の決定が深刻な戦略的ミスであるとして、次のように述べました。
「この行動は、大変残念なものだが、ヨーロッパ諸国や中国、ロシアが核合意にとどまり、その成果を支持することを期待している」
トランプ大統領の核合意離脱に対するイランの立場は、ローハーニー大統領が強調したように、今後核合意はイランと残りの5カ国による合意となり、残りの締結国がどのような行動を取るのかを待つというものです。
現在、アメリカとヨーロッパ諸国は、貿易、気候変動協定、NATO北大西洋条約機構への関与のあり方から、一方的な対ロシア制裁をめぐるドイツとアメリカの対立に至るまで、さまざまな問題を抱えています。こうした中、現在、核合意は大西洋をまたいだ対立となっているのです。
また、現在、核合意は転換点を迎えているとされています。この転換点においては、EUは、アメリカから離れて、自身の利益と国際的な安全保障に基づき、独自路線を進むことができるようになります。この中で、ヨーロッパは、核合意への立場として、核合意の維持、イランとの関係の維持と拡大、対イラン制裁の対抗を強調しています。
核合意はヨーロッパにとって、さまざまな面で重要です。第1に、核合意は、ヨーロッパにとって冷戦後における国際政治と外交上の成功事例とされています。第2に、EUは、核合意はイランの核計画に制限を設け、イランが軍事的な核計画を追求するのを防ぐと考えています。
最終的に、核合意は、北朝鮮の核問題を解決する上での良好なモデルとなっています。核合意はEU諸国との貿易関係の再開の要因となっており、彼らは簡単に、中東の大変重要な国であるイランにおける経済的機会を手放すつもりはないのです。
実際、ヨーロッパ諸国は、核合意を実施することで、多くの成果を得ており、イランとのさまざまな合意は、核合意の成果の一部となっています。アメリカが核合意から経済的利益を得られないのとは逆に、ヨーロッパは核合意の機会を最大限に活用しています。アメリカによる核関連の対イラン制裁の復活と追加制裁の行使は、ヨーロッパの経済的な利益を深刻な危機に陥れています。
イランにとって現在、非常に重要なのは、ヨーロッパの合意締結国が特定の保障を提供し、イランが核合意の利益を享受し続けるよう対応することです。
イスラム革命最高指導者のハーメネイー師は、5月23日、イランが核合意にとどまる条件について、次のように定めました。
「アメリカの妨害行為が継続されている中、イランの経済的利益を確保するためのヨーロッパ諸国による実質的な保障の提供
イランの地域における活動とミサイル計画という2つの力を決定する事柄への不干渉
イラン産原油購入の保障
イランと取引をする政府や民間部門の決済に関するヨーロッパの銀行の保障
アメリカの対イラン制裁にヨーロッパが対抗すること」
ヨーロッパ諸国は、アメリカの対イラン制裁の復活に全面的に対処できないこと、特にフランスの石油大手トタル、ドイツの機器メーカー・シーメンス、航空機メーカー・エアバスといった大手企業の決定に影響を及ぼすことができないことを認めています。こうした中、最近、ブルガリアのソフィアで行われたEU首脳会合で、イランとヨーロッパの経済関係の維持と、アメリカの制裁、特に2次的な制裁の影響の回避に関する、一部の決議が採択されました。この中には、1996年にアメリカの制裁に対抗するために導入されたブロッキング規制の再実施が含まれています。
ベルギーの地方輸出機関の会長Pascale Delcomminetteは、イランにおける投資を難しいものとしているのは、制裁だけではなく、制裁行使への恐れも、主要な投資家にイランへの進出を躊躇させていると考えています。
欧州委員会は先週水曜、アメリカの核合意離脱と、対イラン制裁の復活を受けて、このブロッキング規制を改正しました。この規約は、イランで活動するヨーロッパ企業に対するアメリカの制裁の国際的な影響に対抗する可能性を整えます。
ブロッキング規制は、アメリカの対キューバ制裁を避けるために、1996年に制定されたものの、実施されませんでした。この規制は2018年8月に、アメリカの対イラン制裁復活の第1段階の実施に合わせて実施される必要があります。また、この規制は、ヨーロッパ企業がアメリカの制裁の対象になるのを禁じています。これらの企業はまた、賠償金を受け取る権利があるのです。
欧州委員会はまた、イランで活動するヨーロッパ企業をヨーロッパの投資銀行が支援する法案を可決しました。これらの一連の行動は、核合意の維持にむけて、ヨーロッパが新たな行動に出ていることを物語っています。
核合意は基本的に、イランと6カ国の問題を解決するために締結され、その効果を示しています。核合意が破棄されることは、明らかにヨーロッパにとっての大きな失敗とみなされます。イランはこれまで、繰り返し、完全な形で誠意を示してきました。今度は、ヨーロッパが、自身の経済的、安全保障的な利益に基づき、核合意を守るために求められた行動を行う番なのです。
核合意が破棄される場合、ヨーロッパの国際的な地位が傷つくだけでなく、核合意を動かし監視してきた原動力としての信用が疑問視されることになります。どうやら現状では、ヨーロッパが自身の利益のために、核合意の維持を求めても、ヨーロッパはアメリカの敵対行為に対抗する上で、十分な影響力を持っていないように見えます。こうした中、EUと核合意を締結したヨーロッパ3カ国は、ほかの核合意締結国、つまり中国及びロシアと調整することによって、核合意の維持に向けて更なる努力を行う必要があるのです。