7月 25, 2018 21:02 Asia/Tokyo

現代の人々の生活は、エネルギーを強く必要としています。         

枯渇することのないエネルギー源を確保することは、人々の昔からの願いでした。昔の人々は、数百年も前から、そのことを真剣に考えてきたのです。

 

カナートと呼ばれる地下水路や、バードギールと呼ばれる風を取り込むための塔は、イランの文明の象徴であり、技術的な傑作です。この2つは、イランの芸術を示すと共に、砂漠地帯でエネルギーを保護する上で重要な機能を有しています。この時間は、バードギールとその建築についてお話しましょう。

 

風力エネルギーは、再生可能な無限のエネルギーであり、人間の生活や文明において、常に役立てられてきました。かつて、人類はこのエネルギーを利用し、風車やヨット、船を動かしていました。そして現在も、風力エネルギーは、クリーンエネルギーとして、その利用が不可欠になっています。

 

風は、イランの建築の構造やエネルギーの生産において根本的な役割を果たしてきました。昔の建築家は、建物を建設する際、風をはじめとする天然資源に注目していました。

 

バードギールは、イランの文明の象徴です。それが最初に作られたのが、イランのどの都市であるかは分かっていません。例えば、イラン北東部のネイシャーブールでは、イランの砂漠地帯とは気候が異なるにもかかわらず、バードギールが使用されていました。また、バードギールは、イランの南部や中部でもさまざまな形で作られており、その土地の風の方向や高さに合わせて設計されています。

 

電気を使ったクーラーが各地に広がる前、バードギールは、住宅や宗教施設、サービス施設で使用されていました。これらのバードギールの痕跡は、バンダルアッバース、ゲシュム、ブーシェフルなどの南部の熱帯湿潤気候の地域、ケルマーン、ヤズド、タバス、カーシャーンなどの中部の熱帯乾燥地帯、テヘランの南部で見ることができます。

ヘマトアーバードザマーニー村のバードギール(ネイシャーブール行政区)

 

バードギールは、空気を入れ替えるのために屋上に作られた塔です。さらに、バードギールは、貯水槽の上や鉱山の入り口にも建設されていました。家の中では、バードギールから、地下や1階の部屋にすずしい空気が送られます。

 

バードギールは、通常、四角形で、壁にいくつかの穴が開いています。バードギールの内側は、レンガや木で作られた壁があり、いくつかの部分に仕切られています。

 

風がほとんどこない建物では、バードギールによって屋上から建物の中に風を取り込み、暑い季節に、地下室や1階にもすずしさをもたらすことができます。

スィールジャーンのチョポギー(パイプ)・バードギール

 

イランのバードギールは、概して、3つのタイプに分けられます。アルダカーン様式、ケルマーン様式、ヤズド様式です。

 

アルダカーン様式のバードギールは、ヤズド近くのアルダカーンという地域で多く見られます。その建物は、他の種類のバードギールに比べてシンプルで経済的です。そのため、部屋ごとにバードギールを設置する場合があります。

 

ケルマーン様式のバードギールは、非常にシンプルで、誰にでも作ることができます。主な資材はレンガと土で、アルダカーンのバードギールに比べて、その機能は、より理想的で緻密なものになっています。なぜなら、一つの方向から風が送られるため、熱い空気や汚れた空気がすばやく入れ替えられるからです。

 

ヤズド様式のバードギールは、他の様式のものよりも大きく、通常、四角形、あるいは八角形で出来ています。その建物は建築の点で、他のバードギールよりも複雑で、高さもあります。

 

バードギールは、心地よい風を取り込み、それを建物のメインの部屋や地下へと導きます。アルダカーンの古いモスクやフィールーズアーバードのジャーメモスクなどの砂漠地帯にある一部のモスクでは、バードギールの窓が、ちょうどメフラーブ・壁がんの真上にあり、これによって、心地よい風が建物のすみずみにいきわたり、空気が入れ替わって涼しくなります。

 

バードギールには、涼しさをもたらす機能を強化するため、別の方法も用いられていました。例えば、イラン南東部ケルマーン州にあるバムのバードギールは、建物からおよそ50メートル離れており、地下の管を通ってつながっています。この管の上には花壇があり、花壇に水をやった後、その湿気が管の壁に伝わり、バードギールから、涼しい風が建物に流れこむという仕組みになっています。

 

また、バードギールの上にござなどを敷き、その上に水を撒いて涼しい風を増やすこともありました。冷蔵庫が誕生する前まで、多くの家では、バードギールの下の空間に食料を保存していました。

 

バードギールのこの他の特徴に、煙突としての役目があります。風が巡らないとき、温かい空気は建物の中で上昇し、バードギールを通して建物の外に出て行き、建物の内部では空気の循環が続きます。

 

バードギールの多くには、木の棒があり、その棒の両端は、両側の壁から外に出ています。この棒は、風圧に対するバードギールの耐久性を高めます。バードギールは、模様のあるレンガで装飾されていました。

 

バードギールの多くは、砂漠地帯の家にある、夏を過ごす部屋の先の小さなテラスの上に設置されていました。夏を過ごす部屋は広くて北側に多くの扉があり、その数は5つに及ぶこともありました。

 

この小さなテラスは、中庭と夏を過ごす部屋を結ぶ空間になっており、中央には池がありました。バードギールは、この池のちょうど真上にあり、バードギールにある穴から、水上に空気が導かれていました。

 

風が池の水の上を通ることで、バードギールの穴から入った風が冷やされ、それから冷たい風が夏の部屋に入り、部屋の中の気温を下げていました。

 

裕福な人の古い邸宅の一部には、小さな穴の開いた壁に囲まれた池があり、夏にはそこから涼しい風が家の中に入り込み、住民を暑さから救っていました。

カーシャーンのアッバース一族の家の小さなテラス

 

イランを代表するバードギールには、ケルマーンの大バザールにあるバードギール・アーザム、ヤズドにあるドウラトアーバード庭園のバードギール、スィールジャーンのチョポギー(パイプ)・バードギールの他、バンダルアッバース、ゲシュム、スィースターンのバードギールを挙げることができます。このようにバードギールは各地にありますが、ヤズドだけがバードギールの町として有名であり、イランと世界で最も背の高いバードギールを有しています。

 

ドウラトアーバード庭園のバードギールは、八角形で高さが34メートル近くあり、この高さは世界でも類を見ないものです。この庭園は、イラン国家遺産に登録されており、ユネスコの世界遺産に登録されているイラン式庭園のひとつです。

 

ドウラトアーバード庭園は、今からおよそ260年前のガージャール朝時代に建設され、その水は、65キロ離れた地下水路・カナートから確保されています。この庭園は、面積がおよそ4000平方メートルで、多くの噴水や池、建物があり、ざくろやブドウの木が生い茂っています。八角形の建物とその上にあるバードギールは、庭園にある建物のメインを占めています。

ヤズドのドウラトアーバード庭園のバードギール

 

バードギールは、過去から現在に至るまで、イランの建築を象徴するものです。中東の一部の国が、近年、バードギールを建設し、それを自分たちの名で登録しようとしましたが、失敗に終わりました。