1月 18, 2020 13:40 Asia/Tokyo
  • モハンマド・ナジーリー・ネイシャーブーリーの詩集
    モハンマド・ナジーリー・ネイシャーブーリーの詩集

今回は、前回の続きとして、イランの詩人ナジーリー・ネイシャーブーリーについてお話することにしましょう。

ナジーリーはペルシャ語の歴史的な詩の形式を創設した人物とされ、当時の詩と、後世に深い影響を与えた人物です。ナジーリーは当時の最も民衆的な詩人で、多くの詩はことわざや、日常的な言葉が利用されています。それでは、今回もナジーリーの詩の特長についてお話しましょう。

ナジーリーは16世紀の半ばに、当時はホラーサーンと呼ばれていた一帯に位置する、イラン北東部のネイシャーブールで生まれ、そこで初等教育を受けました。大変若い頃にホラーサーンで詩人としての名声を得て、詩の能力を試すためにイラン中部のカーシャーンに赴き、詩の集まりに参加し、そこでも名声を得ました。

ナジーリーはその後イラクに行き、その地の詩人の中でも有名になり、最終的によりよい安全な生活のために、インドに渡りました。ナジーリーはインド北部のアグラに行き、ムガル朝の総督、アブドルラヒーム・ハーンの関心を得ることに成功しました。

アブドルラヒーム・ハーンはナジーリーを側近として迎え入れました。アブドルラヒーム・ハーンの宮廷で、ナジーリーは莫大な富を手に入れましたが、それらすべてはイラン人の移民、とくに詩人や芸術家のために費やしました。ナジーリーは1612年、インド西部のグジャラートで死去し、そこに埋葬されました。

前回は、話し言葉や、親しみのある精神的な言葉を使うというナジーリーの詩の特徴の一部についてお話しました。また、ナジーリーの詩の特徴は、内容を、ごく個人的で、ごく現実的な、最も親しみやすい、人間の生活に即した情感ある言葉により語っていることです。

愛に関するペルシャ語古典詩は、重要な特性を有しています。この種の詩における愛は、いわば愛の世界的、全体的な概念であり、具体的、個人的な愛による心の動きを記録したものでもありません。また、その愛の対象は特定の誰かでもありません。その人の状況も、個人的、具体的なものではなく、むしろ観念的なものなのです。

つまり、このような愛は、私たちの周りの現実の世界で起こりえることではなく、この愛は比ゆ的なものなのです。このような愛は、イラク派の叙情詩の中にうかがうことができます。この中で、愛と神秘主義は共に結びつき、愛する対象は、例示的、理念的な存在で、その人物と愛する人状態は、全体的、象徴的で、現実世界からは乖離しています。一方で、サアディーやアミール・ホスローといった歴史的な詩人は、この形式を破り、個人的な現実の言葉を語ることで、親近感を生み出しています。

このような愛の完全な形は、ヴォグー様式という、愛の実際の瞬間を伝える詩のスタイルに見ることができます。ナジーリーも、この様式の影響を受けており、個人的で具体的な言葉により、生活に即した親近感を持たせ、まさにこの語り口こそが、親しさのある言葉や、ナジーリーの特徴ある表現となっています。読み手は皆、自分の生涯の一部にそれを投影します。これは、ナジーリーの詩が読者を強くひきつける秘密でもあります。

 

そのほかのナジーリーの独特の特徴に、感情や感覚に触れることが可能であることが挙げられます。それは、最大限に個人的で、深い感情です。ナジーリーは、個人的な言葉により、読者とその感情を分かち合っています。

ナジーリーは、概念や感情の知覚化における巨匠です。例えば、怒っている人について話そうとすれば、様々な形で表現できます。はじめのイメージで、怒りという様子について語りますが、再びイメージすることで、様々な形で表現するようになります。これは、実際、怒りというのは概念であり、これを表現する要素に変え、物語化、知覚化することになります。

イメージは理解し、その結果、共有することが可能です。つまり、怒り、愛情、期待、興奮といった概念を想定する場合、共感の度合いは少なくなりますが、もしそれらを知覚できる形で描けば、読者との共感の可能性はさらに大きくなります。このため、読者は可能な限りこの内容を理解でき、共感することになるのです。

評論家は、ナジーリーや彼の詩の最も重要な特徴は、感覚的で、理解ができることにあるとしています。ナジーリーの詩の基本的なテーマは、個人的、具体的な愛や感情です。一方で、ほかの詩には見られない彼独特の様式とは、その感覚や愛が知覚できることにあります。これらは、完全に個人的なものであり、完全に共感可能で、また読者は完全にこれを理解し、共感します。

イラク様式は、見て、感じることのできる現象よりも、触れることのできない、内面的な事柄を提示しており、このため、個人的、実質的な事柄、感情や愛よりも、概念的なものや全体としての愛を説明しています。例えば花とサヨナキドリ、ろうそくと蛾、愛するものと愛されるものなどは、イラク様式では概念的な事柄を語るたとえなのです。一方で、ホラーサーニー様式は、触れることができるような形で語り、花とサヨナキドリや蛾とろうそくといったものは、それ自体が注意深く描かれるものなのです。ナジーリーはこのイラク様式にも、ホラーサーニー様式のいずれにも従いませんでした。

ナジーリーは愛の高ぶりといった、描写することのできないものを描き、それを具象化しました。こうして、最も内面的で個人的な人間の感情を具体的に表現し、それを共有しました。概念の具象化は、ナジーリーの詩の独特の特徴なのです。

 

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