米露エネルギー戦争の敗者は欧州
最近、欧州6カ国の治安当局がノルウェーのエネルギー部門の責任者らとの会議で「ロシアはスカンジナビア諸国の重要な産業インフラに対する脅威である」と主張しました。
【ParsToday国際】最近、ドイツ、ベルギー、オランダ、フィンランド、スウェーデン、アイスランドの治安当局者と、ノルウェーのエネルギー部門の責任者らによる非公開の会議が開催されました。この会議は、ヨーロッパのエネルギー供給におけるノルウェーの重要性を示しています。ロシアと国境を接するノルウェーは、欧州の一部地域で最大の天然ガス供給国となっています。
ドイツ連邦憲法擁護庁のジナン・ゼレン次官は、この会談についてロイター通信に対し、「ドイツやノルウェーだけでなく、我々全員を巻き込んだ動向を目の当たりにしている」と語り、米国の政策や東欧へのNATO拡大には言及せず、「ロシアのような国がもたらす脅威には諜報作戦だけでなく、一部地域での破壊行為の可能性も含まれる」と述べました。
一部の西側メディアによると、4月にドイツでロシア系ドイツ人2名が米軍施設への攻撃を含む破壊工作を計画した疑いで逮捕されました。ドイツ当局者らの話では、こうした行動の目的は対ウクライナ軍事支援を弱めることだったとされています。
もっとも、ロシアはこれらの行動に関与しているという疑惑を否定しました。一方でノルウェーの諜報機関は、ロシアによる破壊行為の可能性を強調しています。ヨーロッパにとってロシアのエネルギー資源の需要の有無は、これまで欧州の決定に対する大きな課題となってきました。
しかし、2022年2月にウクライナ戦争が始まった後、EUはロシア産原油の輸入を停止しましたが、ハンガリー、スロバキア、チェコには例外を適用しました。その理由は、これらの3カ国が特にロシアからのエネルギー供給に依存していることによります。ロシア産石油は、ウクライナも通過するドルジバ・パイプラインを通じてこれらの国に移送されています。
欧州の対ロシア制裁は、ハンガリーとスロバキアに多くの経済リスクを引き起こしています。ハンガリーは長年にわたり、ロシアと緊密な関係を築いており、自国が必要とする石油の3分の2をロシアからまかなっています。
ハンガリーのシアルト外相は、「ウクライナ経由のロシア産石油供給停止をめぐる対立の調停を断念した欧州委員会の決定は、EUがこの危機の背後にいることを示している」「欧州委員会の行動は、彼らがハンガリーとスロバキアのエネルギー供給を支援したくないことを示している。その証拠に、この命令はハンガリーとスロバキアのエネルギー供給に課題と問題を引き起こすためにベルギーからウクライナに送られたものである」などと語りました。
もっとも、ロシア・EUの間のエネルギー問題の1つは、ノルドストリーム・ガスパイプラインでの破壊行為と爆発でした。バルト海の海底からヨーロッパにロシア産ガスを輸送する数十億ドル規模のノルドストリーム1および2のパイプラインは、ロシア・ウクライナ戦争開始から7カ月後の2022年9月に複数回の爆発により損傷を受けました。
これらの爆発に対する犯行声明は出ており、ロシアは繰り返し、この攻撃が米英によって行われたと主張してきました。
最近、ポーランドのノルドストリーム・ガス・パイプラインで起きた爆発の主犯格容疑者が逃亡したことをうけ、ロシア・リアノーボスチ通信は、ロシアがドイツに抗議したと報じました。
これに関して、ロシア外務省のタヤプキン欧州局長は「我々はドイツや他の被害国が国連の反テロ条約に基づく義務を履行すべきだという問題を提起した」と述べました。ラブロフ外相もロシア紙イズベスチヤとのインタビューで、「ドイツはこの件に関するすべての疑問に回答する必要がある」と強調しました。
一方、無視できない問題として、欧州のエネルギー情勢に米国が絡んでいることが挙げられます。実際、2012年以降アメリカはエネルギーの輸入国ではなく輸出国へと変わりました。ウクライナ戦争後、アメリカは直ちにヨーロッパを従属させることに成功し、アメリカによる欧州向けのガス供給は、ウクライナ戦争後に始まったものです。こうして、欧州諸国はロシア・ウクライナの戦争に関してアメリカの政策に従う以外になす術はありませんでした。
ウクライナ戦争は事実上、ヨーロッパの地で起こっている米露間のエネルギー戦争だといえます。一方、アメリカは石油とガス資源に恵まれていることから、この戦争で被害を受けないだけでなく、石油とガスの輸出収入の増加によって莫大な漁夫の利を得る形となっています。
一方のロシアもアジアの新たな市場を開拓し、中国などの国へガス輸出を増やすことで、西側諸国からの制裁による損害を大幅に補うことができています。また、世界的な石油・ガス価格の上昇に伴い、ロシアの収入も増大しました。
このことから、米露間の紛争の敗者はヨーロッパであると言えるでしょう。