平和の架け橋か、危機の回廊か?:アゼルバイジャン・アルメニア合意がはらむ危険
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トランプ米大統領の仲介のもと、和平合意に向けた共同宣言に署名したアゼルバイジャンのアリエフ大統領(左)とアルメニアのパシニャン首相(右)
アゼルバイジャンとアルメニアの両首脳が8日に交わした合意には、アルメニアがイランとの国境地帯を99年間にわたって米国に貸与するという、同国の主権喪失につながりかねない内容が含まれています。
【ParsToday国際】アゼルバイジャンのアリエフ大統領とアルメニアのパシニャン首相は8日、米ホワイトハウスでトランプ大統領とともに和平に向けた共同宣言に署名しました。共同宣言には、アゼルバイジャンとその飛び地領・ナヒチェヴァン自治共和国を結ぶ「ザンゲズール回廊」をアルメニア・イラン国境沿いに設置することが盛り込まれており、回廊設置のためにアルメニアは自国領土の一部を99年間にわたって米国に貸与し、回廊の管理を米民間企業に委ねるとされています。
専門家らは、今回の合意が米国によるコーカサス地域への影響力拡大とカスピ海へのアクセスを促進するものだと考えています。また、この合意で利益を得るのは米国とアゼルバイジャンのみであり、アゼルバイジャンとアルメニアの戦争終結にはつながらないという見解もあります。
トランプ大統領は8日の共同宣言署名後、「この合意は『平和と繁栄のためのトランプ回廊』と名付けられており、アゼルバイジャンが飛び地領・ナヒチェヴァン自治共和国への完全なアクセスを得る」と明言しました。そして、その回廊建設のためアルメニアが99年にわたって自国領土の一部を米国の管理に委ねるとしました。
今回の合意内容については、先月22日にスペイン誌が報じたことで、憶測が高まっていました。アルメニア政府は当初、この報道を否定し、情報戦の一環だとしてきましたが、実際には報道どおりの合意となりました。
また、アルメニア外務省の報道官も先月14日、「アルメニアは自国の領土管理権を他国に譲渡することはない」と述べていました。
一部の専門家の見方では、この回廊設置プロジェクトは長年友好関係にあるアゼルバイジャンとトルコの利益確保のみならず、南コーカサスにおけるNATOや西側諸国の影響力を強化し、イラン、ロシア、中国を弱体化させることを目的としていると見なされています。
アルメニアのパシニャン首相はそうした見方を否定するためか、合意署名後、このプロジェクトを通じて「イランとの鉄道網接続が可能になる」と述べ、アルメニアがイラン、米、露のいずれとも経済協力を開始する良い機会となると主張しました。
アルメニアが得たものと失ったもの
回廊建設計画について、複数の専門家はこれがアルメニアの主権侵害につながるとして警告していました。アルメニアの政治学者ソレン・ソルニャンツ氏は8日夜、自らのテレグラム・チャンネルに次のように投稿しました。
アゼルバイジャンとアメリカは明確で長期的な戦略的・経済的利益を享受し、地域での立場を強化しているが、アルメニアはただ短期間の平穏を得ただけであり、新たな依存関係、限られた主権、そして危険な地政学的ゲームの中心に置かれるリスクを負った。
アルメニアは3カ国合意唯一の敗者?
ソルニャンツ氏はさらに、ホワイトハウスでの3カ国合意はアルメニアにとってアゼルバイジャンとの緊張を一時的に和らげるものに過ぎないとし、「これは勝利ではない」と強調しました。そして、「アルメニアは投資の約束や物流中心地となるという誇張を受け取っただけで、実際には具体的な保証や確固たる義務は何もない」としました。
ソルニャンツ氏にとれば、アルメニアは安全保障、領土の一体性、主権維持といった本質的かつ重要な問題においては、何の成果も得られなかったのです。イランとロシアは、南コーカサスでの米国の計画が破壊的な意図を持っていることを事前に警告していました。
イラン外務省は8日、3カ国の合意発表を受けて声明を発表し、「両国との相互利益にもとづく建設的な協力関係を続けていく用意がある」とする一方で、「イランとの国境地帯における外国勢力の介入には、それがどのような形であれ、地域の安定・安全を損なうものとして懸念を表明する」と釘を刺しました。