トランプ氏への妥協が誤りである理由とは?:対米緊張の激化阻止を狙った欧州の努力は徒労に
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アメリカとの緊張激化の阻止に向けたEUの必死の努力は、徒労に終わりました。
(last modified 2025-12-08T12:41:28+00:00 )
12月 08, 2025 19:20 Asia/Tokyo
  • トランプ政権時代におけるアメリカと欧州の関係の緊迫化
    トランプ政権時代におけるアメリカと欧州の関係の緊迫化

アメリカとの緊張激化の阻止に向けたEUの必死の努力は、徒労に終わりました。

【ParsToday国際】このほど公表された米国の新国家安全保障戦略文書は欧州を強く批判する内容となっており、対米緊張の激化阻止を目指してのEUの数々の努力が奏功していないことを物語っています。現在、EU当局は事態の沈静化に努めているものの、このアプローチが根本的に正しいかどうか疑問視する声も出ています。

米国の新たな戦略は、欧州にとって大きな打撃となっています。欧州は第2次トランプ政権時代において、自滅寸前までトランプ氏との融和を試みあらゆる手を尽くしました。NATO北大西洋条約機構加盟国の国防費はGDP国内総生産の2%から5%に増加した他、EUは米国との不平等かつ壊滅的な関税・貿易協定にさえ吞みました。しかし、トランプ政権の国家安全保障戦略が発表された後、欧州に対するアメリカの強硬姿勢を踏まえてトランプ氏に明白な姿勢がとられることを期待していた人々は失望感を味わわされています。

ベルギー・ブリュッセルのEU本部に集まったEU首脳陣は、米国の反欧州戦略に全く反応を示しませんでした。逆に、ウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員長、アントニオ・コスタ欧州理事会議長、そしてカイア・カラスEU外務・安全保障政策上級代表は、公然と事態の鎮静化への方向に出たのです。その例として、カラスEU上級代表はカタール首都ドーハでの首脳会議で「米国は依然として我々の最大の同盟国である」と表明しています。

一方、欧州のアナリストらは厳しい姿勢を示しています。イタリア・ローマ国際問題研究所のナタリー・トゥッチ所長は「欧州は結局、自らが孤立している事実を認めねばならない。大西洋を横断する唯一の真のつながりは、トランプ大統領とEUの右派ポピュリストらの間にある」と語りました。

もっとも、ヨーロッパへの攻撃姿勢はトランプ政権に限ったことではありません。トランプ氏に近い億万長者のイーロン・マスク氏も「X」において「EUは解体され、加盟国に主権が返還されるべきだ。そうすれば、各国政府は自国民のより良い代表となりうる」と投稿しています。

EU首脳が米国に対し消極的な姿勢を示しているにもかかわらず、現実には、常に予測不可能な行動と政策で物議を醸すドナルド・トランプ氏の攻撃的かつ予測不可能な政策に屈することは誤った行動でしかありません。それは、そのようなアプローチが国際舞台における欧州の立場を弱めるだけでなく、国際体制と大国間の関係に広範な影響を及ぼすことが理由です。過去数年間の経験からは、特にトランプ氏の在任中におけるアメリカの圧力を前に後退することで、米国が益々行き過ぎた行動に走り危機の激化を招くだけであることが分かります。

このアプローチが誤りであることの第1の理由は、トランプ氏の外交政策の本質にあります。彼は、国際法規や協定の遵守よりも脅迫、制裁、経済的圧力によって自らの目標達成を優先することを繰り返し示してきました。その明確な例が、2018年5月に米国が対イラン核合意から一方的に離脱し、イランに広範な制裁を課したことです。この行動は西アジアの情勢不安を助長したのみならず、交渉相手としての欧州の信頼性にも疑問を突き付けた形となりました。欧州がこの決定に従わなかったことは、国際協定への明確な違反の容認を意味し、EUが自らの利益と公約を守る能力がないことを露呈した格好となっています。

第2の理由は、この後退が引き起こす経済的・政治的な影響です。欧州は、イランや中国に対する制裁への参加を求める米国の圧力に対し、繰り返し代替案の提示を試みてきましたが、実際には自らの経済的自立を維持できていません。この状況は欧州企業に損害を与えたと共に、米国市場と金融システムへの過度の依存により欧州の交渉力が著しく低下していることを物語っています。欧州がトランプ氏に屈服すれば事実上、「緑の大陸」たるヨーロッパに対する自国の経済・貿易政策の押し付けをアメリカに許してしまうことになります。

3つ目の理由は、このアプローチがもたらす地政学的影響です。トランプ氏は一方的な政策を踏襲して、NATOと欧州諸国の安全保障を繰り返し毀損してきました。欧州がこれらの行動に対し沈黙を決め込めば、集団安全保障が危うくなると思われます。トランプ氏に屈することは、世界の安全保障における欧州の役割の縮小を容認することになり、それは欧州におけるロシアや中国といった他の大国の影響力の増大につながる可能性があります。欧州は自らの立場を維持するために、アメリカの無責任な政策に立ち向かうべきであり、後退して自らの立場を弱めるようなことは回避せねばなりません。

さらに4つ目の理由として、こうした後退が引き起こす倫理・法的影響が挙げられます。トランプ氏による移民、環境、人権政策は繰り返し批判されてきました。人間的価値と国際法の擁護者を自認する欧州がこのような政策に屈すれば、道義的信用を失いかねません。アメリカの反人権的行動への沈黙あるいは、加担・幇助はEUが主張する原則への裏切りを意味します。

最後の点として、対米緊張の激化阻止を狙ったヨーロッパの努力が失敗したのは、この消極的なアプローチとトランプ氏への屈服に起因すると言わざるを得ません。これまでの経験が示すように、宥和政策は大西洋両岸の緊張を緩和するどころか、米国からの圧力と過剰な行動を増大させることになります。ヨーロッパは自らの独立性や信頼性、そして安全保障を維持すべく、米国の一方的な政策に立ち向かい、大陸内および国際協力の強化により、国際システムにおける自らの地位を固める必要があります。実際、トランプ氏への屈服は誤った行動でしかありません。その理由は、そうした行動が覇権を容認し、ヨーロッパが守ると主張する価値観を毀損することにあるのです。

 


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