ラマザーン月、聖なる月(2)
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モスク
ラマザーン月は、神に服従し、ほかの人々により注意を払う月とされています。
今回は、各国で戦争に巻き込まれているイスラム教徒の存在に触れるとともに、ラマザーン月についてコーランが奨励する内容をご紹介し、最後にこの聖なる月の栄養の摂取について考えていくことにいたしましょう。
西アジアでは常に紛争が発生し、テロリストが存在すること、そして国際社会がこの地域の危機打開に失敗したことから、戦闘地域の人々は益々多くの困難や苦しみを抱えた状態でラマザーン月を迎えていますが、彼らの現状を理解している人はそう多くはないと思われます。全世界のイスラム教徒は、その日の断食が終了した後の夕食に必要な食材を求めて市場に出かけますが、戦闘地域に暮らす人々にとっては、それすらもきわめて難しい問題となっています。
シリアの人々は、これまでのおよそ6年間にわたり内戦状態に置かれています。いくつも存在するテロ組織は、聖なる月ラマザーンの尊厳すら守ろうとしません。国連は、報告の中で、多数のシリア人が戦闘地域や近隣諸国の難民キャンプで、食糧不足に苦しんでいるとしています。
ギリシャなどのヨーロッパ諸国では、特に移民のキャンプにおいてイスラム教徒の移民たちも断食の実施に当たって幾つもの問題に直面しており、彼らにとってラマザーン月の宗教的な義務の実施は、決して容易なことではありません。
アラブの最貧国であるイエメンでも、断食を実施するイスラム教徒は複数の問題を抱えています。サウジアラビアの戦闘機の残忍な攻撃により、イエメンの多くの地域では飲料水や食糧、衣類の確保が困難になっています。この国では、多くの地域で戦争や爆撃により停電が発生しています。法的機関の多くは、イエメンでの生活状況は耐え難いものであるとしています。現在、戦争のため1400万人以上のイエメン人が食糧不足にあえいでいます。
世界のイスラム教徒が今年もラマザーン月を迎えている一方で、パレスチナ・ガザ地区でも180万人以上の住民が、封鎖された非常に厳しい状態に置かれています。彼らは、シオニスト政権イスラエルによる制裁措置のため、大きな制限を受けており、これにより彼らの生活は厳しさを増しています。
ガザ地区の人々にとって、ラマザーン月の食料品の買出しは困難を極めます。彼らは、収入が非常に低いため、ごくわずかの安価な食糧しか購買できません。ガザ地区とヨルダン川西岸のイスラム教徒は大抵、ラマザーン月にはシオニスト政権による様々な攻撃に遭遇します。こうした中、各人権団体は何度も、ラマザーン月におけるパレスチナ人への攻撃を阻止するよう求めていますが、シオニスト政権は圧政的な行動を続行しています。
これまでにお話してきたことのみでは、戦闘地域に暮らすイスラム教徒の痛みを少々理解するだけに過ぎません。実際には、彼らの苦しみは筆舌に尽くしがたいものだと言えます。

ここからは、コーランの美しい章句をお聞きいただくことにいたしましょう。
”あなた方に対し、決められた日々の間断食をすることが義務付けられている。だが、病人や旅行中の者は、断食できなかった分を他の日に行うことができる。また、断食に耐え難い者にとっての償いは貧しい人々に食物を与えることである。誰でも、自らの意思により善行を行うことは、自分のためにとって最もよきことである。もしあなた方がその精神を良好に会得したならば、断食はあなた方にとってよりよいものとなる”
ただ今お聞きいただいたのは、コーラン第2章、アル・バガラ章「雌牛」第184節でした。神は、この1つ前の183節で断食の哲学について説明し、184節において断食の負担を軽くするため、これに関する幾つかのポイントを教示しています。即ち、神から信徒たちに課された断食が、苦しみを伴わない義務であるとし、決して1年中断食をする必要はなく、ごく限られた日数のみ断食をするよう述べているのです。
さらに、神はコーランのこの章において、実行が義務付けられている断食の掟を説明するとともに、この聖なる義務の実施が困難な人々をも考慮しています。即ち、病人や高齢者、妊娠中の女性、授乳中の女性などは、断食の代わりにいくらかの金品を差し出すことになっています。それは、誰でも出せるものであり、それは例えば貧しい人1人分の食物などです。また断食の代わりに1日に空腹な人1人以上を満腹させれば、なお良いとされています。
コーランのこの節はまた、イスラムが法文化されたものであること、全ての人々、あらゆる条件を考慮し、それにふさわしい決まりごとを定めていることを示しています。重要なことは、人間は神の掟を守り履行することで、さらにその人の価値が増すということです。神が断食をするよう命じた場合、これを行い、断食を止めてエフタールと呼ばれる軽食をとるよう命じた場合には、飲食を解禁しなければなりません。イスラムの預言者ムハンマドがラマザーン月に旅行中だった時にこの節が彼に下され、彼はすぐさま水を求め、飲みました。そして、他の人々にもその日の飲食を解禁するよう命じたのです。彼らの多くは、預言者ムハンマドの指示に従いましたが、一部の人々は、今は正午だからまだ断食を続けると主張しました。預言者ムハンマドは、命令に従わなかった人々を罪びとであるとしました。
先にご紹介したコーランの節の終わりでは、断食をすることはあなた方にとってよりよいことであり、いやいやながらではなく、自ら進んでこれを行うよう述べられています。それは、この善なる行いの素晴らしさが明らかになれば、自分も高齢者だったなら断食の代わりに空腹な人に食物を与えて満腹させるほうを選んだのに、などとは考えないからです。

これまでにお話したように、イスラムは最も完成度の高い宗教として、生活上のあらゆる雑事に関する決まりごとや奨励事項を有しています。それでは、今夜の番組の終わりに、ラマザーン月の栄養と健康に関する一部の事柄をお勧めしたいと思います。
ラマザーン月の空腹や喉の渇きは、断食をする人々に独特の状況をもたらします。この月に断食をする人々の多くは、疲労や倦怠感、頭痛、筋肉痛、そして胃痛などを感じるようです。こうした状態が起こる理由は、体に必要な食物の摂取が減少することにあります。
厳しい暑さの中で長時間断食をし、空腹や喉の渇きに耐えることは、断食をする人にとってより困難なことです。ですが、それでも断食が一連のプラスの効果を持つことから、断食によるプレッシャーをより緩和する方法を実行し、体への負担を軽減することが可能です。こうした条件において、さらなる健康増進をはかるには、栄養面での適切な対策を講じる必要があります。
まず、イスラムが教示しているように、病人の断食は禁じられています。多くの人々は、ラマザーン月の到来により、この月特有の厳粛なムードに押され、また断食への義務感を感じて自分が病気であることを無視しがちです。もっとも、病人の断食の実行にあたっては、病気の種類や各人の状況、服用している医薬品の種類などにより判断が異なるため、十把ひとからげに全ての病人に一律の決まりを定めることはできません。この場合は、療養中である本人の方が、断食の実行の是非についてより適切な判断ができるものです。もし、病人自身が自分の病状に対して予想される断食の弊害について確信が持てない場合には、担当の医師の判断を仰ぐ必要があります。
これについて、テヘラン医科大学の栄養学の専門家であるホセイニー博士は、糖尿病及びMS・多発性硬化症の2種類の患者のグループに関して、次のように述べています。
「糖尿病や高血圧といった疾病により、断食が制限される。この種の病気を持つ人は、かかりつけの医師に相談した上で断食を実行すべきである。断食をしようとする人は、ラマザーン月が始まる3,4日前から自分の血糖値を管理し、夜明け前の朝食や日没後の軽食エフタールの前に、血糖値を130以下に抑え、またエフタール後は180以下に保つべきである。一方、多発性硬化症が進行し、コルチコステロイドを服用している人は断食をしてはならない。さらに、経口薬を服用する必要のある病人、或いは注射を受けた後で発熱や痛みなどの症状があり、これらの症状を緩和するために経口薬を服用しなければならない人も断食は禁止である。注目すべきことは、断食をするための第1の条件は体の健康である」